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第1章 運命の歯車が動く時

第6話 悲惨な戦場

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「ここで降りるんですか!? 戦場はもう少し先ですよ!」

 御者の男性が出雲達二人に言うと、それでもここから行きますと出雲が返答をし、久遠は先に行くわと言いながら荷台から飛び降りた。

「待ってよ姉さん! 俺も行くから!」

 荷台から飛び降りた出雲は、戦場に走っている久遠の背中を追いかけていく。
 二人は数十分走り続けると、次第に騎士や魔獣の姿が見えてきていた。

「戦場が見えたよ! 気合を入れてよね出雲!」
「分かった!」

 二人は戦場に向かって走って行くと、途中まで綺麗な平原であった場所が戦闘によって地面が陥没していたり、綺麗な花が踏み潰されているのが見えていた。
 出雲はこれが戦場なのかと雰囲気に押し潰されそうになるも、久遠がまだ戦場に入ってないわよと隣を走る出雲に話しかける。

「そうなの!? ここで戦った跡があるけど?」
「戦場が移動したんでしょうね。もっと先に行くわよ!」

 久遠の言葉と共に出雲も走る速度を上げていく。
 綺麗な平原に生えている花々が次第に無くなっていき、そこには荒れた大地だけが残っていた。

「綺麗な平原だったのに……」

 荒れた平原を見て出雲は悲しいと呟いていると、久遠が戦場に入っているから気を付けてと力が入っている声で出雲に言う。
 出雲はいつの間に戦場に入ったんだと驚いていると、前方から槍が吹き飛んできた。

「危な!? 何で槍が!?」

 左の岩壁に突き刺さった槍を見ると、久遠が騎士が吹き飛んでくるわと出雲に避けてと声を上げて言う。

「うわあ!?」

 出雲は右に勢いよく避けると、元居た場所に白銀の鎧を着ている大和国の騎士が地面に力なく倒れてしまっている。
 驚いている出雲を横目で見た久遠が騎士に近寄ると、もう死んでいるわと小さな声で呟く。

「死んでるって……」

 出雲も倒れている騎士に近づくと騎士の腹部が鋭い何かで抉られており、吐き気に襲われてしまっていた。

「うぐ……気持ち悪い……」
「出雲にはまだ刺激が強すぎたかしら? 戦場だと怪我をしている人や死んでいる人など様々よ。その中を私達は走り回って配達をしてたり、時には共に戦って魔物を倒しているわ」

 走り回って時には戦う。そのために魔法や剣術を教えてくれていたのかと考えていると、久遠が先に行くわよと先に走り出してしまう。

「この先には地獄がありそうだ……」

 辛いと言いながらも仕事を全うしなくちゃと自身を奮い立たせようとするも、簡単には奮い立つことはなかった。

 出雲と久遠が先を走っていると、前方から無数の獣の雄叫びが聞こえてくる。
 それと共に複数の人間の叫び声もきこえてくる。

「見えた! 沢山の騎士が戦ってる! 早く支援しないと!」
「そうね! 私は左に行くから、出雲は右から行って! この戦場には他の配達人もいるから気をつけてね!」

 他の配達人もいると聞いて、出雲は武器とかを配っているのかなと考えた。久遠と別れると目の前で繰り広げられている戦いを見て、戦場の空気を全身で感じていた。

「これが戦場……騎士が迫ってくる魔物と戦ってる……」

 剣や槍などの多種多様な武器を手に、騎士達が魔物と戦っている姿が出雲の目に入る。迫る魔物には様々な種類がおり、出雲は初めて見る魔物の姿を見てその種類の多様さにも驚いた。

「鳥形の魔物や、美桜と戦った狼型。それに人型の鱗が体に生えていて太い尻尾が腰の部分から生えている魔物までいる……あんなのに勝てるのか?」

 初めて見る魔物の異様さに驚くも、出雲は仕事をしなきゃと戦場を走る。
 出雲は魔物を切り裂いた騎士や、後退をしている騎士に話しかけて補給物資を渡していくことにした。出雲は目の前を歩く騎士がいたので、話しかけることにした。

「すみません! 配達人です! 補給物資をお持ちしました!」
「配達人か、助かる」

 出雲はリュックサックから、固形で出来ている長方形の栄養価の高い戦闘糧食である。糧食は摂取カロリーが高く、お腹にも溜まるので、戦闘時に重宝される。

「次の人に渡しに行きます!」

 その言葉を騎士に言うと、騎士は助かったと出雲に言って戦いを再開する。
 俺に出来ることはこれだけだと思うも、多くの人がいるから戦えているんだと考えることにした。

「危ない!」
「え!?」

 出雲が考え事をしながら戦場を走っていると、危ないと叫んでいる野太い男性の声が出雲の耳に入った。
 野太い声の男性は出雲の身の丈ほどの大きさの盾を持っており、鳥型の魔物から放たれた火炎を防いでくれていた。

「君は配達人だな? 戦場は初めてか? 油断をすると即死ぬぞ?」

 野太い声をしているその男性は無精髭が生えており、他の騎士と同じく白銀の鎧を着ていた。

「気を抜くな。ここは戦場だぞ? 鎧も着ていないんだから、一撃でも受けたら致命傷になる」
「ご、ごめんなさい……」

 40代に見える男性に謝ると、謝るより生きてくれと出雲は言われた。

「ありがとうございます! あ、これ受け取ってください!」
「補給物資か! 助かる!」
「俺も頑張ります!」

 出雲はそう言うと、その場を後にした。
 走りながら補給物資を手渡していると、他の町で働いている配達人とすれ違った。その配達人は複数の武器を持っており、破損した武器を持っている騎士達に渡しているようである。

「あの人は武器を渡しているのか。どこかに待たせている馬車に武器を保管して、その都度手渡しているのかな?」

 武器は重いから担当じゃなくて良かったと思うも、いつかは武器も担当してみたいと考えてリュックサックから糧食を取り出して走り続ける。 
 
 出雲は戦場を走り回って糧食を手渡し続けると、久遠の姿が出雲の目に入った。
 久遠は既に配っている人にも渡してしまうミスをしながらも、素早く糧食を配っているようである。

「流石姉さんだ。時折配った人にも渡しそうになっているけど、無駄なく的確に配ってる。俺もまだ残りがあるから、配り終えないと!」

 出雲はリュックサックに入っている残量を確認し始める。

「結構配ったと思うけど、リュックサックにはまだ沢山入っているな。糧食が小さいから敷き詰められているようだ」

 リュックサックを出雲が揺らすと、ガサガサと糧食同士がぶつかっている音が聞こえる。その音を聞いていると戦場を改めて走り回ることにした。
 走り出すと、戦場の地面に付着している騎士か魔物か分からない血液が視線の先に見えたり、魔物の死に際の雄叫びなどが聞こえる。
 
 なかなか慣れないこの戦場という空間は、悲惨だと思い知らされる。

「早く配ってここから出ないと、いつ魔物に襲われるかわからない……」

 戦地の中心部に移動をした出雲は、苛烈な戦いを目にした。
 そこでは金色の鎧を着ている複数の騎士が、黒い鎧を全身に纏っている敵と戦っている姿が見えてくる。

「黒い鎧を着ている敵と騎士が戦っている? 黒い鎧は誰なんだ? 魔族なのか?」

 どういった敵なのか理解が出来ない出雲は、人類を襲っている魔族なのではないかと騎士と戦っているその姿を見て考えていた。
 すると、近くを走っていた他の配達所の配達人が何をしているんだと出雲に声を上げて怒鳴った。

「お前そこで何をしているんだ! 中心部には魔族がいるから立ち入らないと言われているんだろう!」
「そうなんですか!?」

 出雲は立ち入らない場所なんて聞いていないと思いつつ、やはり黒い鎧を纏っている敵は魔族なのかとその姿を見て考えていた。

「あれが魔族……あれが……」

 目の前で繰り広げられている戦いを見て、レベルの高さに驚いていた。 騎士が剣を持ち、魔族と思われる黒い鎧の敵と戦っていた。

 黒い鎧の敵は騎士と同じく剣も右手に持ち、騎士と斬り合っている。
騎士は何度も鍔ぜり合ったり、攻撃を避けて鎧に剣を当てている。騎士は体を捻じって黒い鎧の敵に体当たりを浴びせるなど、攻勢に出ているように見える。

「凄い……あそこだけ戦闘のレベルが段違いだ……大規模な魔法じゃなくて、武器に魔法を纏わせて戦ってる……あんな戦い方もあるんだな……」

 戦闘を立ち止まって見ていると、久遠が離れてと突然話しかけてきた。
 出雲は現れた久遠に驚きつつ、分かったと言いその場から離れようとする。

「ほら! 早く離れよう! 戦闘の邪魔をしたら所長に怒られちゃう!」
「それはヤバイ! おやっさんはネチネチと怒るから、面倒になる!」

 そう言った瞬間、黒い鎧の敵が放った魔法が出雲に迫ってきていた。

「出雲、危ない!」
「え?」

 久遠に突き飛ばされた出雲だったが、すぐにその行動を理解することとなる。
 なぜなら出雲がいた場所に黒い鎧の敵が放った魔法が迫っており、久遠は出雲が立っていた場所で優しい笑みを浮かべていた。

「弟を守るのは姉として当然でしょ?」
「姉さん!」

 出雲が姉さんと叫ぶと、黒い鎧の敵が放った黒い火炎が久遠に衝突した。
 黒い火炎が衝突するとその威力が高く、久遠は後方に吹き飛んでしまう。
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