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第1章 運命の歯車が動く時

第4話 初めての戦闘

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「さ、もう戻ろう。日も落ちてきたし夜になると危ないし」
「そうね。魔族が人類を襲うために野に放って、野生化した魔物がいつ襲ってくるか分からないしね」

 美桜は魔物が来たら怖いわねと言うと、出雲に先に行くわと言って歩き始める。
 出雲が先に行かないでと美桜に言った瞬間、崖の上から狼の魔物が現れた。狼の魔物が魔狼と呼ばれており、その種類は多岐に渡る。出雲と美桜の前に現れた魔狼は、一番種類が多いホワイトウルフであった。

「美桜が変なことを言うから魔物が来たじゃん!」
「私のせいだっていうの!? 絶対違うし! それに、ホワイトウルフだからそれほど強くはないはずよ!」

 美桜は腰に差しているレイピアを取り出して、魔狼に向けて戦闘態勢を取る。
 出雲は戦闘体勢を取った美桜を見ると、戦闘は初めてだと小さな声で呟く。

「あんた戦闘をしたことないの!? 配達人は戦場で戦ったりもするんでしょう!?」
「それは極一部の人達だよ! 俺のいる配達所にもいるけど、俺は戦闘をする配達は請け負ってないの!」

 出雲は戦闘は苦手だと言っていると、ホワイトウルフが美桜に向けて口から生えている牙で噛みつこうとする。
 ホワイトウルフは白色の体毛をしており、棘のように硬い。少し触れただけで人間であれば体に刺さってしまう恐れがある。

「強くないけど、油断すると死ぬかもしれないから気を付けなさい!」

 美桜の言葉を聞いた出雲は、死ぬのは嫌だと叫んでいた。

「やるしかないか! やるしかないよな!」

 出雲は久遠から受け取った剣を鞘から取り出して握ると、剣術の訓練の時のことを思い返す。

「相手の動きを見て、動くこと。体捌きを意識すること。腕の力で斬るのではなくて、体全体の力で斬ること……思い出して戦うんだ!」
「ぶつぶつ言っていないで助けなさい!」

 出雲が教わったことを思い返していると、既にホワイトウルフは美桜に襲い掛かっていた。美桜は持っているレイピアでホワイトウルフの攻撃を辛うじて捌いている。

「早く助けなさい!」
「分かった!」

 その言葉と共に出雲は剣を握る手に力を入れて、ホワイトウルフに斬りかかる。

「俺だって、初めての戦いでも動けるんだ!」

 出雲は剣を振り下ろすと、ホワイトウルフの硬い体毛によって攻撃が防がれてしまう。美桜は出雲に向けて役立たずと強めの口調で言うと、右手をホワイトウルフに向けて光槍と叫んだ。
 美桜の放った光槍はホワイトウルフの左半身を抉ることに成功をし、抉った個所から夥しい量の血が流れていた。

「美桜は珍しい光属性を使えるんだね! 1人で勝てるんじゃない?」
「私は基本の属性や派生の属性に適正が無くて、最後の最後にもしやと思ったら光属性を使える才能があったみたいだわ。ていうか、油断はしないことって言ったはずよ!」

 この世界では義務教育で魔法の授業がある。
 授業の一環で得手不得手な魔法を調べることがあり、その際に伸ばす魔法や不得手だが学んで使えるようにすることも出来る。
 出雲は現在学校に通っておらず配達人として働いているが、配達所で魔法を教えてもらったことで使える魔法があったのである。

「あんたも魔法を使って戦いなさい! 何の魔法が使えるのよ!」
「俺はあまり魔法を使いたくないんだけど……」

 出雲は溜息をつくと右手に小さな火球を、左手に小さな風球を発生させる。
 その2つを合わせた出雲は、風火球と叫んでホワイトウルフに向けて放った。 

 出雲の放った風火球はホワイトウルフに当たるとその全身を風と火が覆い、火炎の旋風を発生させた。ホワイトウルフは悲痛な雄叫びを上げると、全身を火傷してその場に倒れてしまう。

「す、凄いじゃない! 2つも属性を使えるの!?」

 美桜は出雲の両肩を掴むと、前後に強く揺らす。出雲は揺らされながらやめてくれと言うも、揺らされ続けられる。

「お、俺は魔法の適性が高いみたいで色々使えるだけだよ! 珍しい光属性を扱える美桜の方が凄いって!」
「確かに属性を多数扱える人はいるけど、同じくらいの年齢で2つ扱える人は見たことがないわ」

 美桜は出雲に話しなさいと言い続けると、どこからか魔物の雄叫びが聞こえてくる。

「そろそろ帰らないとやばいって! 魔物が近くにいるよ!」
「仕方ないわね……帰りましょう」

 美桜の言葉を聞いた出雲は、やっと帰れると心の中で思っていた。
 出雲は先頭を歩き、魔物が襲ってこないか警戒をすると共に美桜が転ばないように小石などを弾く。

「俺の後ろを歩いて。そうすれば安全に歩けるよ」
「分かったわ。ちゃんと案内をしてよね」

 美桜は出雲に先頭を任せると、静かに後ろを歩いていた。
 来た時よりも早い時間で帰ることが出来た2人は、東山岳町に夜遅くに到着をする。町の入り口にある商店街で立ち止まると、これからどうするか話し合っていた。

「どうにか魔物に遭遇することなく帰れたね。もう夜11時だけどどこかに泊まるの?」

 出雲は懐中時計を見ながら目の前にいる美桜に話しかけると、どうしようかしらと悩んでいる様子であった。
 出雲はその言葉を聞くと、事務所に一緒に行こうと提案をする。

「事務所には仮眠室もあるし、誰かしら必ずいるから安全だよ?」
「本当? 今手持ちがあまりないからそれは嬉しいわ」

 美桜が出雲の提案に乗ると、出雲は美桜を事務所に案内する。
 それほど時間はかからず事務所に到着をすると電気が付いており、出雲の言った通り誰かがいるようであった。

「本当に誰かがいるのね。安心したわ」
「いるって言ったじゃん!? 嘘つかないよ!?」

 出雲は何もしないわと小さく呟くと、その声が美桜に聞かれていたのか右肩を叩かれてしまった。

「早く入るわよ」

 美桜は出雲の方を見ずに事務所の入り口扉を開く。すると、久遠が出雲の名前を呼びながら入り口に小走りでやってくる。

「出雲! 心配したわよって……篁美桜様!? どうしてここに!?」

 久遠が驚いていると、出雲が美桜の背後から姿を見せた。

「ただいま!」
「出雲! 無事でよかったわ!」

 久遠は出雲の姿を見ると、出雲の体を抱きしめる。出雲は突然久遠に抱きしめられてしまったので、声が上ずってしまう。

「姉さん!? 急にどうしたの!?」
「ちゃんと依頼がこなせているか心配していたの! それで泊りじゃなかったけど、変えてもらって待っていたの」

 久遠が心配をしていたと出雲に言うと、出雲はもらった剣が役に立ったよと笑顔で久遠に言う。

「本当!? なら良かったわ……その剣を大切にしてね」
「うん! 姉さんにもらった剣だし、大切に使うよ!」

 左手で腰に差している剣の鞘を出雲が触ると、入り口に立っている美桜が出雲達に話しかける。

「ここにいると寒いんだけど……中に入っていいかしら?」

 美桜は両手で自身の体を掴んで寒いわと二人に言う。その言葉を聞いた久遠は、申し訳ありませんと言いながら美桜を事務所の中に入れる。
 出雲は入り口側にある椅子に座ると、疲れたと言って窓から見える外を見ていた。

「もう夜中だしなー。外には誰も歩いていないか……それにしても凄い依頼だったな」

 出雲は突然の依頼だったことや、魔物との初先頭のことを思い出していた。
 それと同時に、古代遺跡内の書物が奪われたり破かれていることが気がかりでもあった。

「美桜があそこに行く前に先回りをして、書物をを破壊したとしか思えないな……美桜の親族か、盗賊か依頼された誰かか……」

 古代遺跡のことを考えながら、出雲は誰がしたのか考えていた。
 しかし、一向に答えは出ないので後で考えようと決めた。

「そういや、二人はどこに行ったのかな?」

探すかと小さな声で呟いた出雲は、美桜が案内をしているであろう事務所内を歩き始めた。事務所内を歩き回り仮眠室なども探すが、二人の姿は見えなかった。

「2人はどこにいるんだろう? あそこかな?」

 ふと出雲は2階にある食堂ではないかと思い、配達所内の奥にある階段を上り始める。

「もしかして食堂で寛いでいるのかな?」

 階段を上り食堂への通路を歩いていると、誰かの喋っている声が出雲の耳に入る。

「やっぱりここにいたか。何をしているんだろう?」

 出雲は食堂の扉を数回ノックすると、食堂の中から久遠の声が聞こえてきた。

「出雲なの? 入っていいわよー」

 その声を聞いた出雲は入りますと言って食堂内に入る。
 食堂内では久遠と美桜がサンドイッチを美味しそうに食べている姿が出雲の目に入った。

「美味しそうだね。俺の分はないの?」

 二人の近くにある椅子に座りながら出雲は、サンドイッチを食べたいと言った。
 久遠は出雲にサンドイッチを1つ手渡すと、食べて良いわよと言う。

「ありがとう!」

 久遠から貰ったサンドイッチを一口食べると、口の中に広がるレタスやハムにマスタードのマッチした味が美味しいと出雲は感じている。

「シャキシャキと音がする食感や、ハムとかの味が美味しい!」
「それはよかった。昼食に作った残りだけど、味が落ちてなくて安心したわ」
「姉さんの手作りなの!? そりゃ美味しいわけだ!」

 出雲が喜んでいると、美桜がうちの料理人より美味しいかもと小さく呟いていた。久遠がその言葉を聞くと、それは言い過ぎよと微笑しながら美桜に言う。
 出雲は微笑している久遠の顔を見ると、あの顔は喜んでいるなと察していた。
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