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第1章 運命の歯車が動く時

第3話 扉の先には

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「ちょっと待ってよ! 怒られるよ!」
「構いません。私が許します」
「君が許しても国が許してくれないから!」

(なんなんだこの人!? 私が許すってどういう意味なんだ?)

 待ってよと言いながら出雲は追いかけると、レンは落石で道に巨大な岩があるもお構いなしに、岩壁に手を置いて落ちないように慎重に進み続けているようだ。

 2人が進む道はある程度の道幅がある崖だが、気をつけなければ落ちる可能性がある。出雲は足元に気をつけながら先を進むレンに向けて待ってと声を上げるも、その足が止まることはなかった。

「この先に行ったって何もないぞ! 君の依頼はこっちにはないだろう!?」
「いいえ! こっちでいいのです! この先にある遺跡に私の望むモノがあるはずなのです!」

 レンの口調は次第に強めになってきていた。
 初めて会った時の冷静な口調とは違い何かを追い求め、目の前にあるのに手が届かない子供のように焦っているようだ。

「遺跡って、そっちには何もないはずだけど!? 依頼の遺跡は右側にあるんだけど!?」
「こっちにもあるのです! 公になっていない秘密の古代遺跡があるんです!」

 次第に口調を演じることが出来なくなっていたレンは、小走りで崖を進み始めていた。

(もう! 何なんだよこの依頼は!)

「焦ると危ないよ! 止まって!」

 出雲が注意をするも、焦っているレンは足を滑らせて崖から落ちそうになってしまっている。

「キャア!?」
「危ない!」

 落ちそうになるレンの右手を掴んだ出雲は力を入れて引っ張り上げようとするも、足を小石に取られてしまい共に崖の下に落ちてしまった。

(怪我をさせたら何が起きるかわからない! なら、俺が下に体を向ければ!)

「依頼人に怪我をさせられないんでね!」

 レンの体を両手で掴んだ出雲は、自身の体を下にした。
 崖下までは10メートル程まだあるので、自身が下敷きになれば助けられると考えていた。

「あ、途中に巨大な岩が! あれに一度足をかければ!」

 落下途中にあった巨大な岩に両足をかけて落下速度を減らしながら、巨大な岩に両足をつけて斜めに下に飛んで地面にレンを抱えながら衝突してしまう。

「ぐぅ……足は折れていないのが不幸中の幸いか……レン! 無事か!?」

 出雲が目の前にいるレンに話しかけると、はらりとフードが外れた。フードの中からは整った顔を持つ、同い年くらいと思われる可愛い少女の顔が見えた。
 少女は肩にかかるまでの艶のある金髪と、二重の目元にある青い瞳がとても綺麗だ。

「男じゃなかったのか!? それにハンカチで口を覆っているから変な声をしていたのか」

 出雲は少女の口を覆っているハンカチを取ると、大丈夫かと声をかける。
 少女は出雲の声に反応をすると、体が痛いと小さく呟きながら目を開けた。

「一応無事だけど、崖の下に落ちたみたいだ。怪我はないか?」
「そうね……怪我はしていないみたい……あ、もしかして!?」

 少女は言葉の途中でフードが外れていることに気が付いたようで、目を右往左往させながら出雲に私が誰だか気が付かないのかと話しかけた。

「全然分からないよ?」
「本当に分からないの!? 私よ!?」

(本当にわからないんだか……誰だ?)

 誰だと出雲が悩んでいると大和国の王女なのよとレンは言ったが、王女と聞いても思い当たる節がなく、あまり興味が無くてと返答をした。

「私はこの国の第2王女である篁美桜よ。少しは人前に出ていたんだけどね……」
「篁美桜? なんかどこかで聞いたような?」

 小首を傾げていると、レンと名乗っていた美桜は第2王女だから仕方ないわねと空笑いをしていた。

「さて、10メートルくらいかしら? 結構落ちたわね……」
「戻ることは簡単には出来そうにないよ。あ、古代遺跡ってこっち方面にあるの?」

 古代遺跡があることを信じてはいなかった出雲は、腰に付けている小さなショルダーバックから地図を取り出して見ている美桜を見ていた。
 古い地図だなと考えていると、この地域の昔の地図よと美桜が言う。

「地形は変わっているけど、この辺りに古代の遺跡があるはずなのよ。そこには魔族について書かれた書物があるはずなの。人類と魔族がどうして争うことになったのか。その一端が分かるはずなのよ!」

 美桜が魔族について知ろうとしていると出雲は察するが、あまりその事柄に興味はなかった。人類と魔族が長い戦争を行っていることは知っているものの、魔族との戦争など当たり前のこと過ぎて感覚が麻痺していた。
 人類と魔族の戦争が起ころうと、自身の生活には関係がないからである。出雲は配達人の仕事をして、日々を過ごして良ければそれでよかったのであった。

「その古代の遺跡がこの辺りにあるってこと? 案外崖の下のこの場所にあったりしてな」
「そんな単純ではないでしょう」

 美桜が古い地図を見ながら周囲を見渡すと、二人は崖下の道を進んでいく。
 
上の道よりも荒れており歩くのも一苦労であるなか、美桜を先頭に出雲が後を続く形で道を進む。
 巨石や小さな小石が辺り一帯に転がっており、美桜はここじゃないと言いながら周囲を見渡していた。

「この辺りにあるはずなのに……地図が間違っているのかしら……」

 美桜が崖の壁を何度か触っていると、触っていた壁が突然崩れてそこから道が現れた。暇だと言いながら空を見上げていた出雲を見た美桜は道が出たわと叫んでいた。

「道が出た!? どこにあったの!?」
「ここの壁を触ってたら、壁が崩れて道が出たのよ! きっとここが古代の遺跡の入り口よ!」

 そんな簡単に見つかるものなのかと悩んでいると、出雲など気にも留めず美桜は現れた道を進んでいく。
 遺跡内は下に降りる形であり、美桜は慎重に階段を下りているようであった。

「薄暗いから気を付けなさいよ? 私が先に行くからね!」
「分かった! なにかあったら呼んでくれ!」

 薄暗い道に二人の声が響く。
 土壁で埋まっていた古い道だが、内部にある階段は石造りであるようで所々にヒビが入っている。
 2人は足元に注意をしながら階段を降り続けると、美桜が悲鳴を上げながら姿が消えてしまう。

「え!? 姿が消えた!?」

 周囲を見渡すと美桜が階段で足を滑らせて転んでいる姿があった。

「大丈夫か!? 怪我をしていないか!?」
「だ、大丈夫よ……まさか階段が崩れてしまうなんて……」

 美桜は痛いと言いながら腰を擦っている。
 転んだ際に打ったのであろうか、その姿を見て大丈夫かと話しかけた。

「なんとか無事よ……腰が少し痛いくらい……」
「俺の手を掴んで! 二人で慎重に降りよう」

 提案に賛同をした美桜は、出雲の右手を掴んで慎重に降りていく。
 数分、数十分。どれほどの時間が経過をしたか分からないが、出雲と美桜は階段を下り続けると次第に階段の終わりが見えていることに気が付いた。

「そろそろ終わりかな?」
「そうみたいね」

 階段を下り終えると目の前に3メートル程度の両開きの鉄で作られている扉が現れた。

(なんだこの扉!? 俺の身長よりかなり高い!)

「この扉って何かしら? この奥に一体何があるの?」

 美桜は持っていた地図をショルダーバックにしまうと、鉄の扉を押し始めた。
 ここの先に目的のモノがと言いながら力を込めて押しているようだ。美桜の姿を見た出雲は、俺も一緒に押すよと言って鉄の扉を押し始める。

「助かるわ! 一緒に押しましょう!」
「うん! 息を合わせて……せーの!」

 二人で息を合わせて鉄の扉を押すと、初めは動かなかった扉が次第に鈍い音を上げ始めていた。

「もう少しよ! もうちょっとで動くわ!」
「分かった! 一気にやろう!」

 出雲の言葉と共に、美桜が全身に力を入れて鉄の扉を押す。すると、さらに大きな鈍い音を上げながら鉄の扉を開くことに成功した。

「開いたわ! やっと先に行けるわ!」

 美桜は喜びながら、鉄の扉の先に小走りで向かっている。

「何があるか分からないから、無闇に先に行かない方がいいよ! 待って!」

 先を行く美桜を追いかけて鉄の扉の先に行くと、そこは一寸先の見えないほどに暗闇であった。
 出雲がいる地点よりさらに先の方から早く来なさいと暗闇の中で美桜の声が響きながら聞こえてくる。

「流石に暗くて先が見えない!」

(真っ暗過ぎないか!? 一寸先も見えないんだが!?)

 持っているリュックサックから発煙筒を取り出して使用をすると、その明かりによって周囲が微かに見えるようになった。

「この場所のさらに先があるのか? そこに美桜がいるといいんだけど」

 細い道が出雲の目に入ると、進むかと生唾を飲んで呟いた。
 足場が狭い通路を歩き続けると、視線の先に扉が見えてくる。

「扉!? この中に美桜がいるのか?」

 意を決して部屋の中に入ると、美桜が地面に片膝をついて何かを探している姿が見えた。

「どうした? なにかあったの?」
「ここにあったはずなのに……どうしてないの!」

 美桜は地面にしゃがみ込んで、何かを探し続けている。
 部屋の中を見渡すと地面に倒れている本棚が多数あるが、空の本棚が目立つ。

「この部屋に古代の文献があったはずなのよ……なのに空っぽで何も置かれていないわ……」
「誰かに盗まれたの?」
「そうみたい……一体誰がこんなことを……」

 美桜は立ち上がって周囲を見渡しながら、破かれている本や風化してしまっている本ばかりだと小さく呟く。

「貴重な資料や古代の情報が書かれているはずなのに……知られちゃ困ることがあったのかしら……」
「それは分からないけど、意図的に何かをしたことは間違いないみたいだよね」

 破かれた本を見て美桜に言う。
 美桜が誰がやったのと言い続けていると、調べる必要があるわねと何かを決めたのか静かに立ち上がった。

「もう帰りましょうか。ここにもういてもしょうがないわ……」
「分かった。町まで送り届けるよ」

 佇んでいる美桜に言いながら前を歩くと、絶対に突き止めてやるわと美桜が小さな声で呟く声が耳に入る。

「何も起こらなくて良かった……戦闘とかになったらどうなるかと思った……」

 探索だけで終わりそうで良かったと安堵をしたのは、もし戦闘になっていたとしたら美桜を守って戦えるか自身がなかったからである。
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