37 / 39
第4章
第37話 凄烈な悪意
しおりを挟む
「やっと本気を出すのか大罪人! お前を殺し、ステラを殺す! そして俺は、国王様の右腕になるのだ!」
「お前はそのためだけに人を使い捨てているのか?」
「そうだ! 所詮他人は他人だ。信頼も何もない。ただの道具に過ぎない! 俺の目的のために湧いて出てくるただの道具だ!」
これがマグナの本性なのだろう。
こんな人間がいるから国民が苦しみ、国が衰退する。
ステラの夢を叶え、一人でも多くの国民が笑って暮らせる国を作らねばならない。それはルナも同じだ。戦いとは縁遠い世界で生きてほしい。
「なら、この場で終わらせる。俺はお前を殺し、国を救う!」
その言葉と共にノアの身体から黒い影が現れた。
意識したわけではない。祈りか分からないが、ただ目の前にいる悪を滅ぼしたいとの思いに呼応してくれたとノアは考えていた。しかし今は小難しい理屈はどうでもいい。力を貸してくれるのならば、素直に借りるだけだ。
「ほう、改めて見ても確かに失われた闇属性だ。どこで手に入れたかは知らないが、お前を国王様に差し出せば私の地位が上がる! お前は私の地位をあげる糧となれ! そうすればあそこで戦っている妹を生かしておいてやる!」
「お前は何を言っているんだ? そんなことに同意するわけないだろう!」
「そうか……なら、ここで何も果たせずに朽ち果てろ!」
鋭い一閃が迫る。
ノアは剣の腹で受け流す。続けて闇属性を交えた炎弾を放つが、その攻撃は後方に飛ばれて呆気なく躱されてしまう。しかしノアは攻撃の手を止めない。炎剣を発動し、そこに闇属性を交える。
どれだけの強化がされるか分からないが、託された闇属性を信じるしか勝つ道は残されていない。
「負けられない、負けない、勝つんだ!」
地面を勢いよく蹴り、一気に距離を詰める。
ノアの蹴った地面が陥没し、亀裂が走るほどだ。それほどに全体的に能力が高まっているが、ノアは気が付いていない。ただ目の前の巨悪を討ち取ることしか頭の中にない状態だ。
「早い!? だが、対処できない速度じゃないぞ!」
「それがどうした! その対処できる速度の上をいけばいいだけだろうが!」
お互いの命を懸けた斬り合いが始まった。
迫る斬撃に剣を合わせて弾く。そを音を置き去りにする速度で何度も行っている。それに、金属同士が衝突する音が離れた位置で戦っているルナに届いており、ノアの戦いの凄まじさを感じていた。
「お兄ちゃん……まだ身体が万全じゃないのに……私じゃお兄ちゃんの力になれないのかな……」
氷剣を構え、目の前にいるニアを警戒しつつ呟く。
マグナが発していた言葉はルナやシェリアにも聞こえていたので、敵であるニアやユティアにも聞こえているはずだ。それなのに未だに立ち向かって来ている。
「あんた、あの言葉が聞こえていたでしょ! ただの道具としか見られていなかったのよ! それでもまだあんな奴のために命を懸けるの!?」
「あ、あたしは……あたしはマグナ様に救われたんだ! 親が殺された時にマグナ様が救ってくれたんだ! だから――!」
「それもあいつの描いた通りってことよ! あんたも、シェリアと戦っている男もマグナの道具にされるために奪われたのよ!」
道具という言葉を聞いたニアはその場に泣き崩れてしまった。
悲しいとは思うが、ルナは決して同情はしない。同じ道具にされた者であっても、立場が違うからだ。
「道具にされてもマグナの味方になるのもいいわ。そこは自分で考えなさい」
そう言い、ルナはシェリアの方へ走って行く。
ユティアに押されているようだが、それでも負けていない。クリスがいなくとも充分に戦えているようで、助ける必要はないのかと思ってしまうほどだ。しかし押されているのには変わりない。ルナは氷壁を二人の前に出現させて、一旦距離を取らせた。
「助かったわ。あいつしつこくて大変よ」
「見ていたから分かるわ。マグナの言葉を聞いても行動を止めないなんて、よっぽど忠誠心が高いのね」
ルナの言葉が聞こえたのか、氷壁の向こうから「当たり前だ!」と叫ぶ声が聞こえる。
「マグナ様は私を救ってくれたんだ! 愚かな大罪人に家族を殺され、一人でいた時に手を差し伸べてくれた! それから私はマグナ様に尽くすと決めたんだ!」
どうやらニアもユティアもマグナに救われたと言っているが、果たして本当に救ったのか疑問だ。マグナ自身が言った言葉によれば、自身の目的のために道具として使うために引き入れたとしか思えない。
二人の想いを無下にし、自身の利益のためだけに使い倒す。そう言葉を発していたのにも関わらず、ユティアは信じ続けるつもりようだ。
「ニアって女の子の方は違うみたいだけど、あなたは信じるのね」
「当然だ! マグナ様がそんなこと言うはずがない! 何かの間違いだ!」
必死な形相で言葉を話すユティアを見ていたシェリアは、クスクスと小さく笑っていた。
「あんた大馬鹿で、おめでたい人ね どうみても道具にするために部下を使って、あなた達二人を道具にしたんじゃない。マッチポンプよマッチポンプ」
溜息をつきながらシェリアが説明をし始める。
明らかにマグナによるマッチポンプで道具となった二人だが、ユティアは頑なに認めようとしない。
「ち、違う! そんなことはない!」
「違わないわよ。そこで泣いているニアって子は認めて前に進もうとしていわよ。あんたはずっと道具でいいの? 心のどこかでは分かっていたんじゃないの?」
子供をあやす優しい口調のシェリアの言葉を聞き、ユティアは「分かっていた」と小さく言葉を発した。
「お前はそのためだけに人を使い捨てているのか?」
「そうだ! 所詮他人は他人だ。信頼も何もない。ただの道具に過ぎない! 俺の目的のために湧いて出てくるただの道具だ!」
これがマグナの本性なのだろう。
こんな人間がいるから国民が苦しみ、国が衰退する。
ステラの夢を叶え、一人でも多くの国民が笑って暮らせる国を作らねばならない。それはルナも同じだ。戦いとは縁遠い世界で生きてほしい。
「なら、この場で終わらせる。俺はお前を殺し、国を救う!」
その言葉と共にノアの身体から黒い影が現れた。
意識したわけではない。祈りか分からないが、ただ目の前にいる悪を滅ぼしたいとの思いに呼応してくれたとノアは考えていた。しかし今は小難しい理屈はどうでもいい。力を貸してくれるのならば、素直に借りるだけだ。
「ほう、改めて見ても確かに失われた闇属性だ。どこで手に入れたかは知らないが、お前を国王様に差し出せば私の地位が上がる! お前は私の地位をあげる糧となれ! そうすればあそこで戦っている妹を生かしておいてやる!」
「お前は何を言っているんだ? そんなことに同意するわけないだろう!」
「そうか……なら、ここで何も果たせずに朽ち果てろ!」
鋭い一閃が迫る。
ノアは剣の腹で受け流す。続けて闇属性を交えた炎弾を放つが、その攻撃は後方に飛ばれて呆気なく躱されてしまう。しかしノアは攻撃の手を止めない。炎剣を発動し、そこに闇属性を交える。
どれだけの強化がされるか分からないが、託された闇属性を信じるしか勝つ道は残されていない。
「負けられない、負けない、勝つんだ!」
地面を勢いよく蹴り、一気に距離を詰める。
ノアの蹴った地面が陥没し、亀裂が走るほどだ。それほどに全体的に能力が高まっているが、ノアは気が付いていない。ただ目の前の巨悪を討ち取ることしか頭の中にない状態だ。
「早い!? だが、対処できない速度じゃないぞ!」
「それがどうした! その対処できる速度の上をいけばいいだけだろうが!」
お互いの命を懸けた斬り合いが始まった。
迫る斬撃に剣を合わせて弾く。そを音を置き去りにする速度で何度も行っている。それに、金属同士が衝突する音が離れた位置で戦っているルナに届いており、ノアの戦いの凄まじさを感じていた。
「お兄ちゃん……まだ身体が万全じゃないのに……私じゃお兄ちゃんの力になれないのかな……」
氷剣を構え、目の前にいるニアを警戒しつつ呟く。
マグナが発していた言葉はルナやシェリアにも聞こえていたので、敵であるニアやユティアにも聞こえているはずだ。それなのに未だに立ち向かって来ている。
「あんた、あの言葉が聞こえていたでしょ! ただの道具としか見られていなかったのよ! それでもまだあんな奴のために命を懸けるの!?」
「あ、あたしは……あたしはマグナ様に救われたんだ! 親が殺された時にマグナ様が救ってくれたんだ! だから――!」
「それもあいつの描いた通りってことよ! あんたも、シェリアと戦っている男もマグナの道具にされるために奪われたのよ!」
道具という言葉を聞いたニアはその場に泣き崩れてしまった。
悲しいとは思うが、ルナは決して同情はしない。同じ道具にされた者であっても、立場が違うからだ。
「道具にされてもマグナの味方になるのもいいわ。そこは自分で考えなさい」
そう言い、ルナはシェリアの方へ走って行く。
ユティアに押されているようだが、それでも負けていない。クリスがいなくとも充分に戦えているようで、助ける必要はないのかと思ってしまうほどだ。しかし押されているのには変わりない。ルナは氷壁を二人の前に出現させて、一旦距離を取らせた。
「助かったわ。あいつしつこくて大変よ」
「見ていたから分かるわ。マグナの言葉を聞いても行動を止めないなんて、よっぽど忠誠心が高いのね」
ルナの言葉が聞こえたのか、氷壁の向こうから「当たり前だ!」と叫ぶ声が聞こえる。
「マグナ様は私を救ってくれたんだ! 愚かな大罪人に家族を殺され、一人でいた時に手を差し伸べてくれた! それから私はマグナ様に尽くすと決めたんだ!」
どうやらニアもユティアもマグナに救われたと言っているが、果たして本当に救ったのか疑問だ。マグナ自身が言った言葉によれば、自身の目的のために道具として使うために引き入れたとしか思えない。
二人の想いを無下にし、自身の利益のためだけに使い倒す。そう言葉を発していたのにも関わらず、ユティアは信じ続けるつもりようだ。
「ニアって女の子の方は違うみたいだけど、あなたは信じるのね」
「当然だ! マグナ様がそんなこと言うはずがない! 何かの間違いだ!」
必死な形相で言葉を話すユティアを見ていたシェリアは、クスクスと小さく笑っていた。
「あんた大馬鹿で、おめでたい人ね どうみても道具にするために部下を使って、あなた達二人を道具にしたんじゃない。マッチポンプよマッチポンプ」
溜息をつきながらシェリアが説明をし始める。
明らかにマグナによるマッチポンプで道具となった二人だが、ユティアは頑なに認めようとしない。
「ち、違う! そんなことはない!」
「違わないわよ。そこで泣いているニアって子は認めて前に進もうとしていわよ。あんたはずっと道具でいいの? 心のどこかでは分かっていたんじゃないの?」
子供をあやす優しい口調のシェリアの言葉を聞き、ユティアは「分かっていた」と小さく言葉を発した。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
【約束の還る海】――性という枷。外れ者たちは、ただ一人の理解者を求め合う。
天満悠月
ファンタジー
受け容れたい。赦したい。自分自身を生きるために。
※前編のみ公開中
●読者による紹介文
美しい創作神話と、人間ドラマの世界へ旅立て。
これぞ「令和のファンタジー」。今こそ評価されるとき。
現代の若者に向けた幻想文芸。自分は何者か、どう生きればよいのか。過去と現在に向き合いながら成長する青年たちとその絆を、壮大な世界観を背景に描いた傑作。
●あらすじ
海で拾われ考古学者の息子として育った青年レナートは、発掘調査の帰りに海を漂流する美貌の若者を救出する。身分を明かしたがらない若者に、レナートは幼少の頃より惹かれてやまない雷神の名、『リオン』を充てがった。リオンは、次第に心を開き始める。
しかし、太古に滅びたはずの文明が、レナートを呼び続けていた。彼の命のみを求める、古代の遺物。やがて蘇った人類に対する嫌悪感が、快活だったレナートを襲った。
魂に刻まれた遥か遠い記憶と約束。生まれてきた意味。生かされた意味。出会い、別れる意味。自分は何者か。
かれらが発見する自己の姿と、受容のための物語。
【登場人物】
◇本編より
レナート:明朗快活な青年。幼少期の記憶が所々脱落している。
リオン:海を漂流しているところをレナートらによって救けられた、中性的な美貌の若者。
マリア:レナートの義理の姉。年が離れているため、母親代わりでもあった。大衆食堂を営んでいる。
セルジオ:レナートを拾い育てた、考古学者。メリウス王の足跡を探している。
ディラン:セルジオが率いるチームの一員。レナートの兄貴分。
アンドレーア・アルベルティーニ:若きメレーの神官。
テオドーロ・アルベルティーニ:メレーの神官長。セルジオの旧友。
◇メレーの子より
メリウス:賢神メレーと神官アンドローレスとの間に生まれた半神半人。最初の王。
ピトゥレー:荒ぶる神とされる海神。
リヨン:雷神。
アウラ:リヨンの子である半神半人。メリウスの妻。
ヴァイタス:メリウスの後に誕生した、武力の王。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

王女、豹妃を狩る
遠野エン
ファンタジー
ベルハイム王国の王子マルセスは身分の差を超えて農家の娘ガルナと結婚を決意。王家からは驚きと反対の声が上がるが、マルセスはガルナの自由闊達な魅力に惹かれ押し切る。彼女は結婚式で大胆不敵な豹柄のドレスをまとい、周囲をあ然とさせる。
ガルナは王子の妻としての地位を得ると、侍女や家臣たちを手の平で転がすかのように振る舞い始める。王宮に新しい風を吹かせると豪語し、次第に無茶な要求をし出すようになる。
マルセスの妹・フュリア王女はガルナの存在に潜む危険を察知し、独自に調査を開始する。ガルナは常に豹柄の服を身にまとい人々の視線を引きつけ、畏怖の念を込めて“豹妃”というあだ名で囁かれるのだった。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる