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第3章
第26話 黒い靄の正体
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クリスの名前を叫びながら斬りかかる。
何度見ても黒い靄が気になるが、気を囚われすぎてはいけない。一瞬の気の緩みが死へと誘われるからだ。
「お前の真意を知りたいんだ! 一体何があったんだ!」
鈍い金属を響かせて軽々と受け止められてしまう。
顔色一つ変えないクリスは流れるように上部に弾き、ノアの腹部に蹴りを入れてくる。
「ぐぅうう! やるじゃねえか! なら、これならどうだ!」
「なんど斬りかかろうが、結果は同じだ。君の攻撃は単調で、読みやすい。今まで生きてこれたのが不思議なようだ」
「なっ!? 戦地で戦ったことがないお前に何が分かる!」
上段中段と連続で斬りかかるが、その攻撃の全てを受け止められてしまう。
怠けている王国騎士だと見下していたからか、ステラと戦っていた時よりも強い。明らかに実力を隠して戦っていたようだ。
「大罪人だけが戦っていたわけじゃない。僕は彼女のために戦ってきたんだ!」
「彼女? 彼女って誰だ!」
クリスは口を滑らせたのか、彼女という単語を発した。
囚われているのか、人質となっているのか。クリスにとって大切な存在だとは思うが、その人がこの状況を作り出しているのかノアには察することができない。
「お前には関係ない! 口を出すな! ルナさん! 立っていないで参戦しろ!」
「――――」
酷い言い方でルナに指示をしていた。
表情一つ変えないでルナは剣を握り締める。命令に忠実な奴隷のようだ。大切な妹が命令されている姿を見るのは最悪だ。
「ルナに命令するな!」
「黙れ大罪人。今は俺の奴隷だ――シェリアのために、お前達兄妹の命をよこせ!」
彼女の名前はシェリアというらしい。しかしなぜノア達の命が必要なのだろうか。
マグナに何か脅されているとしか思えない状況だ。だがそう簡単に殺されるわけにはいかない。ルナを解放して幸せに暮らすという新しい夢を叶えるために、クリスを倒すしかない。
「マグナか? マグナに何かされているんだな!?」
「黙れ! 俺は何もされていない!」
「嘘つくな! だったら背中に付いている黒い靄はどういうことだ!」
黒い靄という言葉を聞いたクリスが背後を向くと、衝撃的な発言をした。
「シェリア……シェリアなのか!? もう魔法は使わないって言っただろ! なのに、どうして!」
「どういうことだ!? 説明を――ルナ!?」
ありえない光景を見ていると表情で物語るクリスに近寄ろうとするが、歩みをルナに遮られてしまう。
「や、やめろ! お前と戦いたくない!」
二対一でなくなったのはいいが、ルナと戦いたくはない。
先程と同じ単調な攻撃をしてくるものの、どこか挙動がおかしい。何かをしようとしているが、拒んでいる動きもしている。
「――――!」
ルナは宙に手を上げると自身の周囲に氷槍を四つ出現させる。
鋭い先端を持つ氷槍は、ルナが手を下げたと同時にノアに向けて勢いよく射出してきた。
「何をするんだルナ! 魔法を出すのを拒んでいたんじゃないのか!?」
「――――」
やはり何を言ってるのか分からない。
炎で氷槍を全て溶かすと、蒸気で姿を隠しながら連続で剣を振るってくる。
一撃目を屈んで躱し、二撃目を剣で防ぐと、左手に氷剣を作成していた。鉄の剣と氷の剣。二つの剣でルナが斬撃を繰り出してくる。
「やめろルナ! 俺はお前と戦いたくない!」
躱しながら剣を防ぐが、いくら説得をしようとも聞く耳を持たない。
次第に防ぐこともままならず、右頬と右腕を氷剣で斬られてしまう。縦横無尽に繰り出される剣技は見たことがない型をしていた。王国騎士でも他国の剣技でもない。生きるためにルナ自身が生み出したオリジナルに違いない。
「全然声が届かない! クリスを殺してルナを解放するしか道はないのか!」
迫る鋭い攻撃を防ぎながら呆然としているクリスを見ると、黒い靄に何か話しかけているようだ。ルナの攻撃を防いだ際に発する金属音によって聞こえづらいが、シェリアという名前が聞こえてくる。
「シェリアっていうクリスの彼女が使っている魔法なのか? でも黒い靄を出す魔法なんて聞いたことがないな」
マグナ達と同じ未知な魔法の可能性を考えていると、ルナが剣と氷剣を合体させて隙をついた攻撃を繰り出してくる。
「危なっ!? クリスを見ていて油断してた!」
視線を動かしすぎるのは危険だ。
一人を相手にするのも荷が重いのに、気を散らしたら死へ一直線だ。しかしそれでもクリスと黒い靄が気になる。何か悪いことが起きそうな予感がしてならない。
高鳴る心臓の鼓動を全身で聞いていると、連続で顔面目掛けて突きをしてくるルナの動きが鋭くなっていた。
「やめろルナ! 洗脳に負けるんじゃねえ!」
いくら呼び掛けてもルナから返答がない。
相変わらず呆然とした表情のまま凄まじい攻撃をしてくる。何度か動きを見ていなければ初めの一撃で殺されていたかもしれない。それほどにルナの攻撃は苛烈だ。
「このままじゃ埒が明かない。一気にルナの動きを止めてクリスを倒すしかないか」
迫る剣を弾いて地面から火柱を出現させた。
一瞬動きが止まったのを目視し、クリスに向けてテネア国の将軍を消滅させた業炎一閃を放つ。
「クリス! お前がどんな闇を抱えているか、俺には知らない。だけどな、ルナを巻き込んでいい理由にはならない――さっさと解放しろ! 業炎一閃!」
自身の中で一番威力が高い魔法を、黒い靄を見ているクリス目掛けて放つ。
もう少しで当たる。ルナが解放されると安堵するが、放った業炎一閃が途中で軌道を変えて地面に衝突して爆音を辺りに響かせた。
「どうして!? 途中で軌道なんて変わらないはずだ!」
目の前で起きたことが理解できない。
最強の攻撃が効果ない衝撃や、どうやって軌道を変えたのか想像できない。
唖然としていると、煙を抜けて右半身を黒い靄で包んだクリスが姿を現した。
「シェリアとクリスを自由にするために、死んでください」
明らかに先ほどまでとは違う、女性とクリスの声が混じった不思議な声だ。
雰囲気や声、それに立ち姿もどこか男性の立ち姿とは違う。しなやかな感じだ。しかも自分自身でクリスと名前を呼ぶ性格とは思えない。やはり彼女であるシェリアが憑依しているとみて間違いないだろう。
何度見ても黒い靄が気になるが、気を囚われすぎてはいけない。一瞬の気の緩みが死へと誘われるからだ。
「お前の真意を知りたいんだ! 一体何があったんだ!」
鈍い金属を響かせて軽々と受け止められてしまう。
顔色一つ変えないクリスは流れるように上部に弾き、ノアの腹部に蹴りを入れてくる。
「ぐぅうう! やるじゃねえか! なら、これならどうだ!」
「なんど斬りかかろうが、結果は同じだ。君の攻撃は単調で、読みやすい。今まで生きてこれたのが不思議なようだ」
「なっ!? 戦地で戦ったことがないお前に何が分かる!」
上段中段と連続で斬りかかるが、その攻撃の全てを受け止められてしまう。
怠けている王国騎士だと見下していたからか、ステラと戦っていた時よりも強い。明らかに実力を隠して戦っていたようだ。
「大罪人だけが戦っていたわけじゃない。僕は彼女のために戦ってきたんだ!」
「彼女? 彼女って誰だ!」
クリスは口を滑らせたのか、彼女という単語を発した。
囚われているのか、人質となっているのか。クリスにとって大切な存在だとは思うが、その人がこの状況を作り出しているのかノアには察することができない。
「お前には関係ない! 口を出すな! ルナさん! 立っていないで参戦しろ!」
「――――」
酷い言い方でルナに指示をしていた。
表情一つ変えないでルナは剣を握り締める。命令に忠実な奴隷のようだ。大切な妹が命令されている姿を見るのは最悪だ。
「ルナに命令するな!」
「黙れ大罪人。今は俺の奴隷だ――シェリアのために、お前達兄妹の命をよこせ!」
彼女の名前はシェリアというらしい。しかしなぜノア達の命が必要なのだろうか。
マグナに何か脅されているとしか思えない状況だ。だがそう簡単に殺されるわけにはいかない。ルナを解放して幸せに暮らすという新しい夢を叶えるために、クリスを倒すしかない。
「マグナか? マグナに何かされているんだな!?」
「黙れ! 俺は何もされていない!」
「嘘つくな! だったら背中に付いている黒い靄はどういうことだ!」
黒い靄という言葉を聞いたクリスが背後を向くと、衝撃的な発言をした。
「シェリア……シェリアなのか!? もう魔法は使わないって言っただろ! なのに、どうして!」
「どういうことだ!? 説明を――ルナ!?」
ありえない光景を見ていると表情で物語るクリスに近寄ろうとするが、歩みをルナに遮られてしまう。
「や、やめろ! お前と戦いたくない!」
二対一でなくなったのはいいが、ルナと戦いたくはない。
先程と同じ単調な攻撃をしてくるものの、どこか挙動がおかしい。何かをしようとしているが、拒んでいる動きもしている。
「――――!」
ルナは宙に手を上げると自身の周囲に氷槍を四つ出現させる。
鋭い先端を持つ氷槍は、ルナが手を下げたと同時にノアに向けて勢いよく射出してきた。
「何をするんだルナ! 魔法を出すのを拒んでいたんじゃないのか!?」
「――――」
やはり何を言ってるのか分からない。
炎で氷槍を全て溶かすと、蒸気で姿を隠しながら連続で剣を振るってくる。
一撃目を屈んで躱し、二撃目を剣で防ぐと、左手に氷剣を作成していた。鉄の剣と氷の剣。二つの剣でルナが斬撃を繰り出してくる。
「やめろルナ! 俺はお前と戦いたくない!」
躱しながら剣を防ぐが、いくら説得をしようとも聞く耳を持たない。
次第に防ぐこともままならず、右頬と右腕を氷剣で斬られてしまう。縦横無尽に繰り出される剣技は見たことがない型をしていた。王国騎士でも他国の剣技でもない。生きるためにルナ自身が生み出したオリジナルに違いない。
「全然声が届かない! クリスを殺してルナを解放するしか道はないのか!」
迫る鋭い攻撃を防ぎながら呆然としているクリスを見ると、黒い靄に何か話しかけているようだ。ルナの攻撃を防いだ際に発する金属音によって聞こえづらいが、シェリアという名前が聞こえてくる。
「シェリアっていうクリスの彼女が使っている魔法なのか? でも黒い靄を出す魔法なんて聞いたことがないな」
マグナ達と同じ未知な魔法の可能性を考えていると、ルナが剣と氷剣を合体させて隙をついた攻撃を繰り出してくる。
「危なっ!? クリスを見ていて油断してた!」
視線を動かしすぎるのは危険だ。
一人を相手にするのも荷が重いのに、気を散らしたら死へ一直線だ。しかしそれでもクリスと黒い靄が気になる。何か悪いことが起きそうな予感がしてならない。
高鳴る心臓の鼓動を全身で聞いていると、連続で顔面目掛けて突きをしてくるルナの動きが鋭くなっていた。
「やめろルナ! 洗脳に負けるんじゃねえ!」
いくら呼び掛けてもルナから返答がない。
相変わらず呆然とした表情のまま凄まじい攻撃をしてくる。何度か動きを見ていなければ初めの一撃で殺されていたかもしれない。それほどにルナの攻撃は苛烈だ。
「このままじゃ埒が明かない。一気にルナの動きを止めてクリスを倒すしかないか」
迫る剣を弾いて地面から火柱を出現させた。
一瞬動きが止まったのを目視し、クリスに向けてテネア国の将軍を消滅させた業炎一閃を放つ。
「クリス! お前がどんな闇を抱えているか、俺には知らない。だけどな、ルナを巻き込んでいい理由にはならない――さっさと解放しろ! 業炎一閃!」
自身の中で一番威力が高い魔法を、黒い靄を見ているクリス目掛けて放つ。
もう少しで当たる。ルナが解放されると安堵するが、放った業炎一閃が途中で軌道を変えて地面に衝突して爆音を辺りに響かせた。
「どうして!? 途中で軌道なんて変わらないはずだ!」
目の前で起きたことが理解できない。
最強の攻撃が効果ない衝撃や、どうやって軌道を変えたのか想像できない。
唖然としていると、煙を抜けて右半身を黒い靄で包んだクリスが姿を現した。
「シェリアとクリスを自由にするために、死んでください」
明らかに先ほどまでとは違う、女性とクリスの声が混じった不思議な声だ。
雰囲気や声、それに立ち姿もどこか男性の立ち姿とは違う。しなやかな感じだ。しかも自分自身でクリスと名前を呼ぶ性格とは思えない。やはり彼女であるシェリアが憑依しているとみて間違いないだろう。
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