王女殿下の大罪騎士〜大罪人にされたので、第三王女の騎士になる〜

天羽睦月

文字の大きさ
上 下
25 / 39
第3章

第25話 クリスの大罪

しおりを挟む
「ステラ! 大丈夫か!?」

 鍔迫り合いながら横目を見ると、腹部に蹴りを受けて吹き飛ばされているステラの姿が見えた。明らかに敵対行為を行っているクリスだが、どうにも本気で戦っているようには見えない。
 ステラがクリスよりも弱いから押されているように見えてしまうが、戦い方を見るに手を抜いているようだ。

「私は大丈夫! クリス君を抑えるので精一杯だよ!」
「無理はするなよ! 危なかったらすぐに逃げるんだ!」

 本気ではないと見えるが、何かの拍子に殺される可能性がある状況だ。
 今は逃げろとしか言えない自分が悔しい。しかしそうは言えない状況だ。ルナを抑え、ステラがクリスを倒してくれないと駄目だ。

「とはいえ、あの様子じゃクリスを倒せないな。どうしたものか……」

 洗脳状態のルナと手を抜いて戦っているクリス。
 二人を相手に出来るほどの技量はないノアにとって、格上のルナを相手にするだけで精一杯だ。

「――――」
「どうした!? 何かあったのか!?」

 ルナが何を言っているのか分からない。
 言葉にならない何かを発しているのは分かるが、言葉の意味が理解できない。一体何を伝えようとしているのだろうか。

「何を言ってるんだ! 意識が戻りそうなのか!?」
「――――」

 口を軽く開けて何か言葉を発しながら、ノアの剣を上部に弾く。そして風切り音を発生させながら鋭い一撃を顔に放ってくる。だが、その攻撃は読んでいたノアは身体を左に移動させ、軽々と攻撃を避けた。
 剣を弾いたら身体のどこかを攻撃するのは当然。それに洗脳されているのなら高度な攻撃はできない。ありふれた基本的な攻撃が関の山だ。

「洗脳されているが故の単調な攻撃で助かっているけど、これが普通の戦いだったら最初の一撃で殺されていたな」

 迫る斬撃を避けつつありえたかもしれないことを考えていると、ノアの目の前の地面にステラの剣が突き刺さった。

「ス、ステラの剣!? 一体何があったんだ!?」

 ステラの方を見ると、首元に剣を突き付けられている姿がそこにあった。
 先ほどまで手加減をしていたのに、なぜ突然本気を出したのだろうか。一体何が起きたのかとクロスを見ると、薄っすらと背後に黒い靄が漂っているのが見えた。

「あの黒い靄が何かをしたのか? ついさっきまではなかったはずだけど、もしかしたらあの黒い靄がクリスに何かさせているのか?」

 考えても仕方がない。
 ルナを抑えながら、どうやってステラを救うのかを考えるのが先決だ。二人を相手にするのは無謀だが、今はそうすることでしかルナを救える手段が思いつかない。

「やっぱりそれしかないよな――」

 ごめんと言い、ルナの剣を弾いて腹部に肘を入れて態勢を崩す。そして地面に膝を付いた隙を見逃さず、すぐさまクリスのもとへと走ることにした。

「クリス! どうして裏切った!」

 剣に炎を纏わせて勢いよく振り下ろすが、軽々と躱されてしまう。
 胡散臭い男だと思っていたが、実際はかなりの実力を有しているようだ。ルナに近いか、それ以上の強さを目の前にいるクリスから感じる。

「君には分からないさ。それに理解もできないだろう。大罪人として生きながらも妹さんに出会え、幸せを手に入れた君には分からないことさ」
「そんなことはない! その言い方からすると、何か弱みを握られているのか?」
「言う必要はない。大罪人が口を出すな!」

 何を話かけても答えない。
 背後にある黒い靄が関係しているのは確かだと思うが、クリスが気が付いている様子はない。気性を荒くさせられているようだが、誰があんなことをするのか。

「口を出すさ! お前のことは嫌いだけど、ステラを思う気持ちは本物だったはずだ! それがどうして殺すような真似をしているんだ!」
「それは……君は関係ない! こっちにも譲れない目的があるんだ!」

 目的と言ったクリスは膝を付いているルナを呼び、二人で攻撃を仕掛けるようだ。
 さすがに二対一は厳しい。ルナに怪我をさせてしまう恐れがあるし、クリスとは殺し合いになるだろう。だが、ノアは恐れていない。クリスとは殺し合いの末に何か分かり合える部分があると、本能が告げているからだ。

「お前も何かを背負っているんだろうが、ステラを攻撃した時点で俺の敵だ!」
「元から敵だ! 大罪人が……お前が現れなければ僕は!」

 ノアの出現で何が変わったのかは知らないが、起きた自称を他人のせいにしているようだ。

「お前を殺して、ルナを解放させてもらう!」

 二対一だが恐れることはない。
 ルナは単調な攻撃しかできないので、集中するべきはクリスただ一人。空気を吸い過ぎて痛む肺を気にせず、ノアは炎剣の温度を上げて駆け出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

悪役令嬢は高らかに笑う

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
婚約者に愛想を尽かされる為、これから私は悪役令嬢を演じます 『オーホッホッホッ!私はこの度、婚約者と彼に思いを寄せるヒロインの為に今から悪役令嬢を演じようと思います。どうかしら?この耳障りな笑い方・・・。きっと誰からも嫌われるでしょう?』 私には15歳の時に決まった素敵な婚約者がいる。必ずこの人と結婚して幸せになるのだと信じていた。彼には仲の良い素敵な幼馴染の女性がいたけれども、そんな事は私と彼に取っては何の関係も無いと思っていた。だけど、そんなある日の事。素敵な女性を目指す為、恋愛小説を読んでいた私は1冊の本に出合って気付いてしまった。何、これ・・・この小説の展開・・まるで今の自分の立ち位置にそっくりなんですけど?!私は2人に取って単なる邪魔者の存在なの?!だから私は決意した。小説通りに悪役令嬢を演じ、婚約者に嫌われて2人の恋を実らせてあげようと—。 ※「カクヨム」にも掲載しています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

処理中です...