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第3章
第24話 ノアとルナ
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「な、なんだこの音!?」
不快で不安になる音が村中に響き渡っている。
一体何が起きたのかステラの顔を見ると、口元に手を当てて「来たのね……」と小さな声で呟いていた。
「え? 来たって何が?」
「ルナちゃんよ。クリスに洗脳されてしまったから、マグナの差し金で来たのね。とことん性格が悪い男よ!」
あのステラが声を荒げるほど怒っている。
だがその怒りをノアは理解していた。マグナやオーレリア王国のせいで人生が狂ったノアとルナ。この世界に残った二人きりの家族だ。
これ以上振り回されたくない。ただその思いだけが沸き上がるが、敵はそう考えていないようだ。
「ルナは俺が止める」
「だめよ! ただでさえ重傷でなのに、ルナちゃんと戦ってただで済むはずがないわ!」
「それでもだ! それでも俺はルナを止めたいんだ! 洗脳をされて、意に沿わない命令を実行して最悪じゃないか!」
貴重な五年間を道具のように生きてきたルナが可哀想だ。ノアは自身はどうなってもいいが、大切な妹には笑顔でいてほしいと考えている。
欲を言えば、戦わずに安全な場所で暮らしてほしいくらいだ。
「兄として出来ることは、ルナと戦って他の人を傷つけさせないことだ。多分クリスも一緒だろ? 俺が抑えているから、クリスを倒して洗脳を解除してくれ」
「襲撃時にはルナちゃんと一緒にクリス君もいたから、今回もいるはずよ。私が倒すまでに死んじゃダメよ? 兄殺しをさせないであげて」
「分かってる。ルナにそんな業を負わせるわけにはいかないからな」
兄殺しという言葉に恐怖を感じてしまう。
止める覚悟はあるが、今はルナの方が強いはずだ。妹の方が強いのに抑えられるか不安はあるが、そんなことを気にしてはいられない。
「そろそろ行きましょう。怪我しているんだから無理し過ぎちゃダメよ?」
「無理するさ。無理しなきゃルナを止められないからな」
痛む横腹を抑えつつ、先を歩くステラの後ろを進む。
少し前の活気がある村とは違い、絶望に暮れている村人で溢れていた。都市サレアから逃げて来たのに、まさか襲われるなんて思わなかっただろう。これをルナがしたと信じたくないが洗脳されてたとはいえ、これ以上罪を重ねてほしくない。
「衝撃的よね……こんなことをお父様は命令してるのよ。気に食わないことがあればすぐに命令して壊すの。国民を何だと思っているのかしら」
酷く辛そうな顔をしているステラ。
自身の父親が部下に命じてルナにさせたとは思いたくないが、命じた現実が目の前に広がっている。このような悲劇を生まないためにもステラと共に国を救わなければならない。
「そろそろ村の入り口ね。覚悟はできてる?」
「そんなのとっくに出来ているよ。さ、行こうか」
嘘だ。
覚悟だなんて出来ていない。
実の妹であるルナとなんて戦いたくない。できるのであれば戦わずに終わらせたいくらいだ。しかし、そんなことは無理だ。ルナにサレア村の人を殺させたくなんてない。それに兄殺しなんて辛い経験はさせたくない。
様々なことを考えながら歩いていると、前を歩くステラが立ち止まった。
「急に止まってどうしたんだ?」
「前を見て――ルナちゃんとクリス君がいるわ」
いつもの柔らかい顔ではなく、威圧感のある表情をステラはしている。
怒るのも無理ない。仲間を襲い、ルナを洗脳してサレア村を破壊したのだから。ノアも同様に怒りが頂点に達している。ルナがいなければ自身でクリスを抹殺したいところだが、今はそうもいかない。
「俺も見えたよ。明らかにルナの様子がおかしい」
「気を付けて、理性のタガが外れているから容赦なく殺しに来るわよ」
目が虚ろなルナは近衛騎士の制服を着て、右手に剣を握っている。
砕かれた鎧の変わりだと思うが、敵である近衛騎士の制服を着せられていることに腸が煮えくり返るほどの怒りを感じてしまう。
「俺が抑えているから、クリスを頼む」
「すぐに倒してルナちゃんを解放させるね。だから、絶対に死んじゃダメよ?」
「分かってる。ルナには幸せに生きてほしいから、そんな罪は負わせないさ」
当然だ。
大切なこの腐った世界で唯一の家族だ。
そんな思いはさせたくないし、これからもさせない。ノアは眼前に迫るルナを見据え、振り下ろされる剣を防いだ。
「目を覚ませルナ! お前はこんなことをしたいわけじゃないだろう!」
「―――――」
実の兄であるノアが話かけても微動だにしない。
どれだけ強固な洗脳がかけられているだろうか。ステラと戦うクリスを横目で見つつ、繰り出される斬撃を受け続けるしかできない。
「お前は洗脳されているんだ! 自分を思い出せ! お前はは俺の妹のルナだ!」
「――――」
何を言っても返事がない。
それどころか、攻撃の速度が増しているかのように思える。
少しでも響いているからだと思いたいが、全てに能力が上であるルナの攻撃を防ぎきるのは難しい。
「絶対にお前を防ぎとめる! それが今この瞬間、俺が出来ることだ!」
鍔迫り合いながら虚ろな表情のルナの目を真っ直ぐ見ていると、遠くからステラの悲鳴が聞こえてきた。
不快で不安になる音が村中に響き渡っている。
一体何が起きたのかステラの顔を見ると、口元に手を当てて「来たのね……」と小さな声で呟いていた。
「え? 来たって何が?」
「ルナちゃんよ。クリスに洗脳されてしまったから、マグナの差し金で来たのね。とことん性格が悪い男よ!」
あのステラが声を荒げるほど怒っている。
だがその怒りをノアは理解していた。マグナやオーレリア王国のせいで人生が狂ったノアとルナ。この世界に残った二人きりの家族だ。
これ以上振り回されたくない。ただその思いだけが沸き上がるが、敵はそう考えていないようだ。
「ルナは俺が止める」
「だめよ! ただでさえ重傷でなのに、ルナちゃんと戦ってただで済むはずがないわ!」
「それでもだ! それでも俺はルナを止めたいんだ! 洗脳をされて、意に沿わない命令を実行して最悪じゃないか!」
貴重な五年間を道具のように生きてきたルナが可哀想だ。ノアは自身はどうなってもいいが、大切な妹には笑顔でいてほしいと考えている。
欲を言えば、戦わずに安全な場所で暮らしてほしいくらいだ。
「兄として出来ることは、ルナと戦って他の人を傷つけさせないことだ。多分クリスも一緒だろ? 俺が抑えているから、クリスを倒して洗脳を解除してくれ」
「襲撃時にはルナちゃんと一緒にクリス君もいたから、今回もいるはずよ。私が倒すまでに死んじゃダメよ? 兄殺しをさせないであげて」
「分かってる。ルナにそんな業を負わせるわけにはいかないからな」
兄殺しという言葉に恐怖を感じてしまう。
止める覚悟はあるが、今はルナの方が強いはずだ。妹の方が強いのに抑えられるか不安はあるが、そんなことを気にしてはいられない。
「そろそろ行きましょう。怪我しているんだから無理し過ぎちゃダメよ?」
「無理するさ。無理しなきゃルナを止められないからな」
痛む横腹を抑えつつ、先を歩くステラの後ろを進む。
少し前の活気がある村とは違い、絶望に暮れている村人で溢れていた。都市サレアから逃げて来たのに、まさか襲われるなんて思わなかっただろう。これをルナがしたと信じたくないが洗脳されてたとはいえ、これ以上罪を重ねてほしくない。
「衝撃的よね……こんなことをお父様は命令してるのよ。気に食わないことがあればすぐに命令して壊すの。国民を何だと思っているのかしら」
酷く辛そうな顔をしているステラ。
自身の父親が部下に命じてルナにさせたとは思いたくないが、命じた現実が目の前に広がっている。このような悲劇を生まないためにもステラと共に国を救わなければならない。
「そろそろ村の入り口ね。覚悟はできてる?」
「そんなのとっくに出来ているよ。さ、行こうか」
嘘だ。
覚悟だなんて出来ていない。
実の妹であるルナとなんて戦いたくない。できるのであれば戦わずに終わらせたいくらいだ。しかし、そんなことは無理だ。ルナにサレア村の人を殺させたくなんてない。それに兄殺しなんて辛い経験はさせたくない。
様々なことを考えながら歩いていると、前を歩くステラが立ち止まった。
「急に止まってどうしたんだ?」
「前を見て――ルナちゃんとクリス君がいるわ」
いつもの柔らかい顔ではなく、威圧感のある表情をステラはしている。
怒るのも無理ない。仲間を襲い、ルナを洗脳してサレア村を破壊したのだから。ノアも同様に怒りが頂点に達している。ルナがいなければ自身でクリスを抹殺したいところだが、今はそうもいかない。
「俺も見えたよ。明らかにルナの様子がおかしい」
「気を付けて、理性のタガが外れているから容赦なく殺しに来るわよ」
目が虚ろなルナは近衛騎士の制服を着て、右手に剣を握っている。
砕かれた鎧の変わりだと思うが、敵である近衛騎士の制服を着せられていることに腸が煮えくり返るほどの怒りを感じてしまう。
「俺が抑えているから、クリスを頼む」
「すぐに倒してルナちゃんを解放させるね。だから、絶対に死んじゃダメよ?」
「分かってる。ルナには幸せに生きてほしいから、そんな罪は負わせないさ」
当然だ。
大切なこの腐った世界で唯一の家族だ。
そんな思いはさせたくないし、これからもさせない。ノアは眼前に迫るルナを見据え、振り下ろされる剣を防いだ。
「目を覚ませルナ! お前はこんなことをしたいわけじゃないだろう!」
「―――――」
実の兄であるノアが話かけても微動だにしない。
どれだけ強固な洗脳がかけられているだろうか。ステラと戦うクリスを横目で見つつ、繰り出される斬撃を受け続けるしかできない。
「お前は洗脳されているんだ! 自分を思い出せ! お前はは俺の妹のルナだ!」
「――――」
何を言っても返事がない。
それどころか、攻撃の速度が増しているかのように思える。
少しでも響いているからだと思いたいが、全てに能力が上であるルナの攻撃を防ぎきるのは難しい。
「絶対にお前を防ぎとめる! それが今この瞬間、俺が出来ることだ!」
鍔迫り合いながら虚ろな表情のルナの目を真っ直ぐ見ていると、遠くからステラの悲鳴が聞こえてきた。
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