王女殿下の大罪騎士〜大罪人にされたので、第三王女の騎士になる〜

天羽睦月

文字の大きさ
上 下
23 / 39
第3章

第23話 ステラの気持ち

しおりを挟む
「それで、ノア君はどうしたい?」
「どうって、どういうこと?」
「ルナちゃんをどうやって取り戻すか考えているんでしょう?」

 そうだ。うだうだと考える前に動かないと。
 都市サレアに乗り込んで奪還をしたいが、そう簡単にはいかない。ステラに相談をし、これからのことを決めた方がいいと決めた。

「なあ、ステラ。都市サレアに乗り込みたいけど、簡単に殺される可能性が高いよな」
「そうね。あそこにはまだ民間人もいるから、盾にされるかもしれないわ。現にリルさんが民間人を守るために身体を張って重傷を負っちゃったの」
「あのリルさんが!? だ、大丈夫なの!?」

 あれほど強いのでに重傷なんてありえない。
 曲がりなりにもステラを護衛する騎士だ。民間人を守ったからだろうか。卑怯な手を使われなければ重傷を負うことはないはずだ。

「今はノア君のいるこことは別の場所治療を受けているわ。予断を許さない状態だけど、きっと助かるはずよ」
「そ、そうか……」

 ベットに座って蹲るノア。
 ルナを奪われ、リルもいない。二人しかいないこの状況でマグナ達に勝てるのだろうか。絶対に無理だ。敵わない敵を目の前にして重い現実のみが襲いかかってくる。
 辛い現実に押しつぶされそうになっていると、どこからか聞き覚えのある声で「お母さん!」と叫ぶ声が耳に入ってくる。その声はこの重苦しい空気を吹き飛ばすには十分で、イラつきを覚えてしまうほどだ。

「お母さん! あったよー! ご飯があったよー!」

 パンを両手に抱えて、メアがノア達のもとに走っていた。
 クリスに気絶させられていたようだが、後遺症もなく元気なようだ。安心するが、喜べない。いくら洗脳されていたとはいえ、大切なルナを傷つけていたメアを簡単には許せない。

「メア! 転んじゃうから走っちゃダメ!」
「ステラちゃん小言ばかり! 小皺が増えちゃうよ!」
「なっ!? まだそんなの出ません! 油断してたらメアだってすぐに皺が出るんだからね!」

 さながら姉妹喧嘩のようである。
 重い雰囲気を壊してくれたのは嬉しいが、それでも状況が好転しているわけではない。二人の漫才を微笑しながら見ていると、突然メアが目の前に歩いてきて口に勢いよくパンを入れられてしまった。

「ふぁにすんの!」
「お腹空いていると思って、配給でもらった焼きそパンだよ! 絶品だよー!」
「ふぉいしいふぇどさ! ふぃきなりふぁ、やめてよ!」

 何度も噛んで焼きそばパンを胃に強引に流し込んだ。
 確かにメアが言う通り美味しい。だが、もっと普通に食べたいとノアは落胆してしまう。

「さ、お母さんとステラちゃんも食べて! 人を搔き分けてゲットできたんだから、美味しく食べてね!」
「ありがとうねメア。ゆっくり食べるわね」
「ま、焼きそばパンに免じて許してあげるわ。いただきます」

 アリベルとステラが食べ始めたが、こんなことをしている場合ではない。
 一刻も早くルナを救い出したいが、そんなことを言える雰囲気ではなくなっている。イライラとした表情を出し続けていると、それに気が付いたステラが「どうしたの?」と不思議そうな顔をしながら聞いてきた。

「こうしている間にもルナがどうなっているのか心配でさ。早く助けに行きたくて」
「そうね。私もそうだけど、何も考えずに行けばそれこそ無駄になちゃうわよ。ルナちゃんが戦ってくれた意味を無駄にしないで」

 ステラの言う通りだ。
 命を懸けて戦ってくれた想いを無駄にしてはならない。傷が癒えずに満足に戦えない身体じゃ無意味な死になってしまう。

「分かったよ。今は身体を癒すことに専念する」
「うん! そうして!」

 途端に笑顔になるステラ。
 それほどに身体を癒すというノアの言葉が嬉しかったのかもしれない。まだ会ってからそれほど時間は経過していないが、傷だらけでいる時の方が多いはずだ。
 ノアは自身の印象がすぐ怪我をする人になっていないか心配になるが、余計なことは考えずに今は傷を癒すことに決めた。

「今はゆっくり休んで。次の戦いで全てが決まると思うわ。サレア村を守って、都市サレアを取り戻しましょう」
「そうだな。ルナを取り戻して、この戦いを終わらせよう」

 ステラの言う通り、終わらせなければ。
 しかし、近衛騎士副団長マグナをどうやって倒せるのだろうか。あの圧倒的な力を前に付け入る隙が未だに分からない。
ノアはベットに座りながらどう戦うか考えていると、警報に似た音が突然村中に響き渡ったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

悪役令嬢は高らかに笑う

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
婚約者に愛想を尽かされる為、これから私は悪役令嬢を演じます 『オーホッホッホッ!私はこの度、婚約者と彼に思いを寄せるヒロインの為に今から悪役令嬢を演じようと思います。どうかしら?この耳障りな笑い方・・・。きっと誰からも嫌われるでしょう?』 私には15歳の時に決まった素敵な婚約者がいる。必ずこの人と結婚して幸せになるのだと信じていた。彼には仲の良い素敵な幼馴染の女性がいたけれども、そんな事は私と彼に取っては何の関係も無いと思っていた。だけど、そんなある日の事。素敵な女性を目指す為、恋愛小説を読んでいた私は1冊の本に出合って気付いてしまった。何、これ・・・この小説の展開・・まるで今の自分の立ち位置にそっくりなんですけど?!私は2人に取って単なる邪魔者の存在なの?!だから私は決意した。小説通りに悪役令嬢を演じ、婚約者に嫌われて2人の恋を実らせてあげようと—。 ※「カクヨム」にも掲載しています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

処理中です...