王女殿下の大罪騎士〜大罪人にされたので、第三王女の騎士になる〜

天羽睦月

文字の大きさ
上 下
6 / 39
第1章

第6話 王国騎士も悪である

しおりを挟む
「王国騎士こそ悪だ。俺は確かに罪を犯して大罪人となったが、お前達も罪を犯している! 罪を犯す人間に加担をしている!」
「正義を成す王国騎士が罪など犯すはずがない! 私達は国王様の命のもとに動いているんだ!」

 馬鹿らしい。
 国王の道具となっている現状をおかしいと思っていないようだ。むしろそれが正しい行いであると疑っていないようだ。

「俺にはそれが正しいとは思えないね。ステラの話を聞く限り、間違っているのは国王の方だ。お前達は国の間違いも正す力を持つのに、それを間違った方向に振りかざしている」
「大罪人が分かったような口を! お前の言葉は私をイラつかせる……とっとと断罪の裁きを受けろ!」
「馬鹿らしい。確かに俺は罪を犯した大罪人だが、断罪を受けるのはあんたも同じだ。王国騎士は守るべき国民を守らずに、惰眠を貪る王族しか守っていない! この体制を崩し、正当な組織にするのに力を注ぐべきだったんだ!」

 うるさいと言いながらリルは何度も攻撃をしてくる。
 風切り音と共に剣が迫るが、先ほどまでとは違いとても荒い。冷静さを欠いていることがノアへの憎しみで溢れている表情から読み取れる。

「どうして! どうして当たらない! 何かしたのか!」
「何かって、俺はまだ魔法すら使ってないぞ。単純にあんたが弱いからだろ」
「わ、私は弱くなんてない!」
「なら、最近いつ戦闘をした? 全くここ最近していないんじゃないのか?」

 王国騎士というからには選ばれた存在だと思っていた。
 だが、荒い太刀筋や身体の体捌きがおかしい。剣を握ったことが殆どないのではないかと思うほどだ。

「知ったような口を聞くな! 私がどれほど戦闘をしていないかなど関係ない!」
「そうか。もういい、一気に終わらせる!」

 ノアは素早くリルとの距離を詰めると、連続で腹部に拳を叩きつけた。
 一瞬怯んだリルはすぐに態勢を整えて連続で攻撃をしてくるが、その攻撃は先ほどよりも速度が遅かったので簡単に避けることができた。どうやら腹部の痛みが凄まじいようで、力を入れられないように見える。

「弱いな。次で終わらせる!」

 痛みに悶えているリル目掛け駆け出すと、横からステラが「もうやめて!」と叫びながら飛び出してきた。

「急に飛び出してくるな! 危ないだろ!」
「黙ってもう見ていられない! これ以上戦うのはやめて!」
「やめてって、始めたのはあいつからだぞ! ロゼを突き飛ばして、大罪人にしようとした悪だ!」
「それでも、リルさんは私の大切な人なの! これ以上傷つくのは見たくないわ!」

 生温い考えだ。
 ロゼに謝りをしないで許すことは無理だ。
 同じような痛みを与え、苦しめたいとノアは考えていた。

「ロゼはどう思う? このまま許してもいいのか?」

 腕にできた傷に包帯が巻かれていた。
 どうやらステラが治療をしてくれたようで、ヘリスがもう大丈夫だと言っている声が聞こえてくる。

「私はもう平気だよ。特に怒ってないし、お姉ちゃんも無理しなくていいんだよ」
「む、無理とはなんだ! 私は無理なんてしていない!」

 ロゼが言う無理とは何だろうか。
 ノアから見ても無理をしているようには見えないし、本心で言っているように見えるのだが。

「お姉ちゃんは無理してるよ。だって、本当はステラ様やノアお兄ちゃんと仲良くしたいんだよね?」
「ステラ様はお守りする対象なので当然です。だけどそこの大罪人は違う! 薄汚れた犯罪者です!」
「嘘だよ。お姉ちゃんはまた嘘をついてる。私ね、人の気持ちの揺らぎが見えるの。どうしようとか、こうしようって考えていることが見えるんだ。お姉ちゃんは身体の周りに噓をついている揺らぎが見えるよ」
「わ、私はそんなこと……」

 ロゼの言葉を聞いたリルは、地面に膝を付いて涙を流してしまったようだ。
 まさか大罪人に看破されるなんて思っていなかっただろう。しかしなぜそこまで嘘をついてまで国王を庇う必要があるのか、ノアには理解ができないでいた。

「ロゼ、その魔法はあまり使わない方がいいぞ」
「どうして? これ結構役に立つんだよ?」
「目に魔力を無意識に集めて見ていると思うんだが、使う度に負担をかけていずれ失明をすると思うぞ」

 衝撃の発言だ。
 思うということから確信をもって発したわけではないと読み取れるが、それでも失明という言葉は衝撃的過ぎる。
 ロゼはというと、両手で目を抑えて怖いと言っている。怖くて当たり前だ。今まで風痛に使っていた魔法が、まさか失明をする可能性があるとは思うはずがない。しかもまだ子供だ。これから先の未来を奪われる魔法を使っていた恐怖は計り知れない。

「で、でもさ! 可能性だから、使用頻度を落としたり魔力の扱い方を学べば大丈夫でしょ?」
「ま、そうだな。必要以上に巡らせているのも問題だろうしな」

 ロゼの魔法のことを話していると、リルがステラの前に移動をして「申し訳ございませんでした」と頭を下げて突然謝ってきたのだ。
 行動が読めないのが怖いが、何か心境の変化でもあったのだろうか。それとも嘘を見抜けれて正直に話すと決めたのか。
 ノアにとってはどちらでもいいが、まずはロゼに謝るのが先だ。子供を突き飛ばして怪我をさせたのだから、その罪は重い。

「リルさんだっけ。まずはロゼに謝るのが先じゃない?」
「大罪人……そうだね。君の言う通りだよ」
「お、おう。早く謝ってくれ」

 素直過ぎて鳥肌が立ってしまう。
 先ほどまでの態度とは違いすぎる。なぜかこちらが悪いことをしているみたいだが、明らかにリルが悪い。ステラとロゼに謝ったくらいは許すことはできない。

「ロゼちゃん、ごめんなさい。腕痛い?」
「もう大丈夫だよ。謝ってくれてありがとう」

 屈んで目線を合わせて謝っている。
 もしかして本当は子供に優しい人なのではないかと思うが、突き飛ばした前科が消えるわけではない。感情的な部分が多いので、ロゼを近づかせたくはない人間だ。

「もっと早く謝るべきだったけど、もういいわ。どうしてあんなことをしたの?」
「それは……ある命令があったからです……」
「私が知ってはいけないの?」
「はい。姫様には絶対に知られてはいけない命令でした」

 どんな命令なのだろうか。
 第三王女にすら知られてはいけない命令が想像つかない。暗殺か虐殺か。その類で、もし知られたら潰される命令なのだろうか。
 ノアが思考を巡らせて考えていると、リルが「ステラ様の暗殺です」と衝撃的な言葉を発したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

悪役令嬢は高らかに笑う

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
婚約者に愛想を尽かされる為、これから私は悪役令嬢を演じます 『オーホッホッホッ!私はこの度、婚約者と彼に思いを寄せるヒロインの為に今から悪役令嬢を演じようと思います。どうかしら?この耳障りな笑い方・・・。きっと誰からも嫌われるでしょう?』 私には15歳の時に決まった素敵な婚約者がいる。必ずこの人と結婚して幸せになるのだと信じていた。彼には仲の良い素敵な幼馴染の女性がいたけれども、そんな事は私と彼に取っては何の関係も無いと思っていた。だけど、そんなある日の事。素敵な女性を目指す為、恋愛小説を読んでいた私は1冊の本に出合って気付いてしまった。何、これ・・・この小説の展開・・まるで今の自分の立ち位置にそっくりなんですけど?!私は2人に取って単なる邪魔者の存在なの?!だから私は決意した。小説通りに悪役令嬢を演じ、婚約者に嫌われて2人の恋を実らせてあげようと—。 ※「カクヨム」にも掲載しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...