1 / 39
第1章
第1話 大罪を犯した少年
しおりを挟む
「起きろ、仕事の時間だ」
大陸一の領土を持つオーレリア王国。
その辺境の国境沿いにある村の地下深くに看守の声が響き渡る。
時計など持っていないので現在の時刻が分からないが、看守が話しかけて来たということは仕事の時間なのだろう。
「もう時間か」
「そうだ、戦闘が発生した。大罪人の出番だ」
大罪人とは国を転覆させるほどの罪を犯した人間のことだ。その身に自由などなく、国のために命を捧げて戦う道具となるしかない。
それは地下牢獄にいる少年――ノアも同じだ。自由に使える金銭はないので、黒を基調とした支給品である旧式の王国騎士団の制服を着るしかない。
「早く出ろ! こっちに来るんだ!」
「今出るからそう急かすなよ。こっちは休んだ気がしないんだから」
汚れが目立つ、耳にかかる長さの黒髪を触りながらノアは連れ出された。
暗い通路を歩き、左側にある地上に出るための階段を目指す。途中、前を歩く看守が臭い場所から早く出たいと呟く声が聞こえてくるが、ノア自身そんな風には思わない。むしろある意味実家だと思っているので、臭くても安心する匂いだ。
「大罪人なのだから国に尽くせ。生かしている意味がなくなってしまうだろ」
「生かしているか――俺が魔法を扱えるから都合よく使っているだけだろう?」
「口答えするな! お前は大罪人だ! 国に貢献できるだけありがたいと思え!」
国に貢献と言われても正直そんな気は全くない。
戦場で戦うことも生きることもある目的を果たすためだ。その結果として貢献をしてしまっているだけに過ぎない。
「お前は今日で五年か? よく生きているものだな」
「俺は妹と会うために生きているんだ。そう簡単に死ねないさ」
大罪人になって家族と離されて五年。当時十三歳だったはずが既に十八歳だ。
生きるか死ぬかの世界に身を置いているので、時が過ぎるのが速い。あっという間に五年とは考えたくないが、その間に妹の身に何かがあったらと思うと怖い。
「大罪人は一生大罪人で家族と会えるわけがない。夢を見るのを諦めろ」
「それはすぐ戦場で死ぬからだ。俺は五年もここで生きているんだから、これからどうなるかなんて分からないだろ?」
「分かるさ。国の記録で大罪人が家族と会ったということはない。もう諦めろ」
そんなことは当然知っている。
長期間大罪人をしているのだから、先人達から嫌というほど情報は仕入れた。戦場での戦い方から大罪人としての過ごし方をだ。ただ、大罪人が家族と会えたという点は看守が言う通り聞いたことがない。
「それでも俺は、唯一の家族であるルナに会うために生き続けるんだ」
そう呟きながら、カツンという音を響かせつつ階段を上っていく。
ノアがいる牢獄は地下五階にあるため、地上での戦闘音は殆ど聞こえない。だというのに戦闘音が鮮明に聞こえてくるのは、敵国の攻撃が凄まじい証拠だろうか。
「ここはもう終わりじゃないか?」
「大罪人が多数いるんだから、そいつらが抑えてくれる。それに、この村を一度滅ぼした力を持つお前なら楽勝だろ?」
「俺は滅ぼしたくてしたわけじゃない。あのせいで両親と村の人達を殺してしまったんだ。俺の罪が重いのは重々承知しているよ」
看守が言う通りノアは十三歳の時にこの村を滅ぼし、村人と両親を殺している。
忘れてはいけない、戒めとして覚えていなければならない記憶だ。
「攻めて来たテネア国の兵士を倒すために使った魔法が悪かったんだ。おやっさんから聞いた範囲襲撃魔法を使って倒したかったけど、範囲制御ができなくて村人にも攻撃をしちまった。そのせいで両親は死に、妹は王国騎士に連れて行かれたんだ」
「そんなこと大多数の人間には関係ないだろ。お前は大量殺人犯で大罪人だ。ただそれだけだろ? ほら、もう地上だ。さっさと仕事をしてこい」
そう言われ、地上に出る直前に看守から錆びている剣を手渡された。
こんな武器じゃまともに戦えないが、武器があるだけましだ。それすら与えられずに戦っている大罪人は大勢いる。ノアは大罪人として恵まれている方だが、こんな恵まれ方は嬉しくない。
「さっさとお前の剣術と魔法で戦況を覆せ。オーレリア王国がテネア国に滅ぼされたら、お目当ての妹とも会えなくなるぞ?」
「それくらい分かっている。俺はルナと会うために生きているのだから」
看守を殴り倒したいが、そんなことをしたら即刻死刑だ。
舌打ちをして剣の感触を確かめながら、目の前にある鉄製の扉を押し開ける。すると、明るい光と共に目に入って来たのはテネア国によって焼かれた建物だった。
「俺が村を崩壊させたほどじゃないけど、地獄のようだな。他の大罪人や王国の騎士はどこで戦っているんだ?」
背後を見ると地下牢獄を併設している看守庁舎があるが、どうやら攻撃を受けて半壊している。村の中心部にあるはずだが、ここにまで攻撃が進行しているようだ。
「結構広い村だけど、どの辺りで戦っているんだ?」
この村は十三歳当時で二千人はいたはずなので、そこそこ大きな面積を持つ村だ。
国境沿いということで訪問者は少なかったが、国境警備をする王国騎士のおかげで盛り上がっていた過去がある。
「俺も早く戦わないとテネア国に負けちゃうな。さて、どこから行くべきか」
周囲を見渡すが既に破壊されている建物ばかりだ。
鼻を突くような焦げた匂いや、焼け死んでいる大罪人の姿が見える。もっと早く呼び出してくれればと思うが、呼ばなかったのは進行が速かったからだろうか。
「ま、俺は今日も生き残るために戦うまでだ。ルナに会うまではまだ死ねない」
剣を握る手に力を入れて、爆発が起きている東側に向かうことにした。
大陸一の領土を持つオーレリア王国。
その辺境の国境沿いにある村の地下深くに看守の声が響き渡る。
時計など持っていないので現在の時刻が分からないが、看守が話しかけて来たということは仕事の時間なのだろう。
「もう時間か」
「そうだ、戦闘が発生した。大罪人の出番だ」
大罪人とは国を転覆させるほどの罪を犯した人間のことだ。その身に自由などなく、国のために命を捧げて戦う道具となるしかない。
それは地下牢獄にいる少年――ノアも同じだ。自由に使える金銭はないので、黒を基調とした支給品である旧式の王国騎士団の制服を着るしかない。
「早く出ろ! こっちに来るんだ!」
「今出るからそう急かすなよ。こっちは休んだ気がしないんだから」
汚れが目立つ、耳にかかる長さの黒髪を触りながらノアは連れ出された。
暗い通路を歩き、左側にある地上に出るための階段を目指す。途中、前を歩く看守が臭い場所から早く出たいと呟く声が聞こえてくるが、ノア自身そんな風には思わない。むしろある意味実家だと思っているので、臭くても安心する匂いだ。
「大罪人なのだから国に尽くせ。生かしている意味がなくなってしまうだろ」
「生かしているか――俺が魔法を扱えるから都合よく使っているだけだろう?」
「口答えするな! お前は大罪人だ! 国に貢献できるだけありがたいと思え!」
国に貢献と言われても正直そんな気は全くない。
戦場で戦うことも生きることもある目的を果たすためだ。その結果として貢献をしてしまっているだけに過ぎない。
「お前は今日で五年か? よく生きているものだな」
「俺は妹と会うために生きているんだ。そう簡単に死ねないさ」
大罪人になって家族と離されて五年。当時十三歳だったはずが既に十八歳だ。
生きるか死ぬかの世界に身を置いているので、時が過ぎるのが速い。あっという間に五年とは考えたくないが、その間に妹の身に何かがあったらと思うと怖い。
「大罪人は一生大罪人で家族と会えるわけがない。夢を見るのを諦めろ」
「それはすぐ戦場で死ぬからだ。俺は五年もここで生きているんだから、これからどうなるかなんて分からないだろ?」
「分かるさ。国の記録で大罪人が家族と会ったということはない。もう諦めろ」
そんなことは当然知っている。
長期間大罪人をしているのだから、先人達から嫌というほど情報は仕入れた。戦場での戦い方から大罪人としての過ごし方をだ。ただ、大罪人が家族と会えたという点は看守が言う通り聞いたことがない。
「それでも俺は、唯一の家族であるルナに会うために生き続けるんだ」
そう呟きながら、カツンという音を響かせつつ階段を上っていく。
ノアがいる牢獄は地下五階にあるため、地上での戦闘音は殆ど聞こえない。だというのに戦闘音が鮮明に聞こえてくるのは、敵国の攻撃が凄まじい証拠だろうか。
「ここはもう終わりじゃないか?」
「大罪人が多数いるんだから、そいつらが抑えてくれる。それに、この村を一度滅ぼした力を持つお前なら楽勝だろ?」
「俺は滅ぼしたくてしたわけじゃない。あのせいで両親と村の人達を殺してしまったんだ。俺の罪が重いのは重々承知しているよ」
看守が言う通りノアは十三歳の時にこの村を滅ぼし、村人と両親を殺している。
忘れてはいけない、戒めとして覚えていなければならない記憶だ。
「攻めて来たテネア国の兵士を倒すために使った魔法が悪かったんだ。おやっさんから聞いた範囲襲撃魔法を使って倒したかったけど、範囲制御ができなくて村人にも攻撃をしちまった。そのせいで両親は死に、妹は王国騎士に連れて行かれたんだ」
「そんなこと大多数の人間には関係ないだろ。お前は大量殺人犯で大罪人だ。ただそれだけだろ? ほら、もう地上だ。さっさと仕事をしてこい」
そう言われ、地上に出る直前に看守から錆びている剣を手渡された。
こんな武器じゃまともに戦えないが、武器があるだけましだ。それすら与えられずに戦っている大罪人は大勢いる。ノアは大罪人として恵まれている方だが、こんな恵まれ方は嬉しくない。
「さっさとお前の剣術と魔法で戦況を覆せ。オーレリア王国がテネア国に滅ぼされたら、お目当ての妹とも会えなくなるぞ?」
「それくらい分かっている。俺はルナと会うために生きているのだから」
看守を殴り倒したいが、そんなことをしたら即刻死刑だ。
舌打ちをして剣の感触を確かめながら、目の前にある鉄製の扉を押し開ける。すると、明るい光と共に目に入って来たのはテネア国によって焼かれた建物だった。
「俺が村を崩壊させたほどじゃないけど、地獄のようだな。他の大罪人や王国の騎士はどこで戦っているんだ?」
背後を見ると地下牢獄を併設している看守庁舎があるが、どうやら攻撃を受けて半壊している。村の中心部にあるはずだが、ここにまで攻撃が進行しているようだ。
「結構広い村だけど、どの辺りで戦っているんだ?」
この村は十三歳当時で二千人はいたはずなので、そこそこ大きな面積を持つ村だ。
国境沿いということで訪問者は少なかったが、国境警備をする王国騎士のおかげで盛り上がっていた過去がある。
「俺も早く戦わないとテネア国に負けちゃうな。さて、どこから行くべきか」
周囲を見渡すが既に破壊されている建物ばかりだ。
鼻を突くような焦げた匂いや、焼け死んでいる大罪人の姿が見える。もっと早く呼び出してくれればと思うが、呼ばなかったのは進行が速かったからだろうか。
「ま、俺は今日も生き残るために戦うまでだ。ルナに会うまではまだ死ねない」
剣を握る手に力を入れて、爆発が起きている東側に向かうことにした。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
悪役令嬢は高らかに笑う
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
婚約者に愛想を尽かされる為、これから私は悪役令嬢を演じます
『オーホッホッホッ!私はこの度、婚約者と彼に思いを寄せるヒロインの為に今から悪役令嬢を演じようと思います。どうかしら?この耳障りな笑い方・・・。きっと誰からも嫌われるでしょう?』
私には15歳の時に決まった素敵な婚約者がいる。必ずこの人と結婚して幸せになるのだと信じていた。彼には仲の良い素敵な幼馴染の女性がいたけれども、そんな事は私と彼に取っては何の関係も無いと思っていた。だけど、そんなある日の事。素敵な女性を目指す為、恋愛小説を読んでいた私は1冊の本に出合って気付いてしまった。何、これ・・・この小説の展開・・まるで今の自分の立ち位置にそっくりなんですけど?!私は2人に取って単なる邪魔者の存在なの?!だから私は決意した。小説通りに悪役令嬢を演じ、婚約者に嫌われて2人の恋を実らせてあげようと—。
※「カクヨム」にも掲載しています
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる