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本当のはじまり

25話 モテ期?

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翌日、立花が復帰したが、復帰すぐの体調を気遣ってタモツは早めに出勤した。
「立花さん、大変でしたね」
「あぁ、迷惑かけて申し訳なかった」
結局、事故の後は二日ほど寝て過ごして、整骨院に通って体を整えてもらったとのこと。そして、相手の親がやってきて事故のもみ消しをはかってきたらしい。
体より、むしろそっちの対応の方が大変だったとか。
「うちの子の将来をつぶす気か。とか言われちゃってねぇ。むしろ、あんたのその育て方が問題だって思ったよ」
やれやれと、肩を落として苦笑する立花。
「なんにせよ、あまり無理しないでくださいよ。若くないんですからね」
「いや、二歳しか違わないだろうっ!」
そんな会話をしつつ、この様子だとすぐに通常にもどれそうだと安心するタモツだった。
そして、いつも通り忙しく注文をこなし、料理をし、少し手が空いた頃

(そろそろ、メグミがランチにやって来るかなぁ)と、客席を覗き見る。
すると、客席に座る男性に声をかけるメグミの姿があった。親しげに話し、男性の方は心なしか鼻の舌が伸びているような感じで、タモツはイラッとした。
しかも、そいつはメグミの腕に手をかけ、どうやら自分と相席するようにと誘っているようだ。
メグミは困った顔をして辺りを見回しているので、助けに行こうとしたときに、視界をさえぎる背中が見えた。ミサキだ。
メグミのもとに行くと、何を言ったのか、男性客はあきらめ顔になり、メグミはホッとしたようにミサキと共に、席を離れた。

メグミをいつもの隅の席に座らせると、ミサキはそのまま厨房のタモツを直接呼び、少し小声になり
「春の新作メニューを試食する日だから、お客様にお見せできないって言っちゃったのよ、だから何か目新しいランチを二人分、急ぎでよろしくね」
と言ってきた。
二人の関係はまだ誰にも言っていないのに、勘のいいミサキにはばれているのか、と内心冷や汗をたらしながら、急いで頭の中で春っぽいメニューを組み立てて、ランチを作った。
その様子は、もちろんほかの厨房スタッフにも見られているのだが、誰にも何も言われることはなかった。

実は二人の関係はなんとなく勘付かれているのだが、黙って温かく見守ることが暗黙の了解になっているのだ。何しろタモツは女性客に言い寄られることも多いイケメンシェフでありながら、まったく受け入れることなく、浮いた話一切なしだった為、パートナーのいる大人のスタッフからは心配されていたのだ。
下手にちゃちゃを入れて、水を挿したくない。それが総意だった。

急いで作られた春の新作(?)ランチは、ブロッコリーの緑が鮮やかなパスタと、鰆のフライのサンドイッチだ。
それをミサキがメグミのもとへ運び、自分も座って
「タモツシェフ特製、春の新作ランチですよー。どっちを食べる?あ、試食なんだから、シェアでいい?」
と、メグミの答えを待たずさっさと分けはじめる。
メグミはニコニコとそれを受け入れ
「どちらも美味しそうですね。なんだか得しちゃったみたい。いただきます」
嬉しそうに頬張った。
予定外に作ったとは思えない完成度に、二人とも満足げだ。

「それより、あのお客さんって、知り合い?」
先ほど、相席を誘ってきた男性客について、ミサキが尋ねる。
「うちの店のお客様ですよ。ご注文の品が入荷していたので、声をかけたんです」
最近になって、メグミが男性客やスタッフからひそかな注目を集めるようになり、雑貨屋の客も増え、メグミに名前を覚えてもらう作戦として、店頭にない品を取り寄せるという方法を思いつく客が出てきていた。
先ほどの客もその一人で、木製の名刺入れを注文し、届いた後に名入れを追加で頼むという、なんとも涙ぐましい努力をしていた。
休憩前に入荷を確認していたメグミは、あとで電話をかけるつもりだったのだが、カフェの客席にその姿を見つけ、思い切って声をかけた。
気をよくした男性客は、勢いに任せて相席を勧めたというわけだ。
しかし、下心など一切なく、男性の扱いにも慣れていないメグミは戸惑ってしまい、誰か助けてくれないかと視線をさまよわせたところ、ミサキがそれを察知してくれて今に至る。

「愛されオーラが出てるからねー。今、モテ期なんだよメグちゃん」
「この間も、そうおっしゃってましたけど、よくわからないです」
「そう?今、すっごく幸せーって感じでしょ?」
ミサキに言われ、顔をポッと赤く染めてしまう。何も言わなくても、それが答えになっている。
「いいわよねー若いって」
「ミサキさんのモテ期はどうだったんですか?美人だから、すごくモテたんですよね」
「えっ」
思わぬメグミの反撃に、一瞬たじろぐミサキ。
そこに通りかかった女性スタッフから
「恋バナですか?わたしも混ぜてもらいたいから、今度飲み会でも」
なんて声がかかる。忙しい為、そのまま通り過ぎて行ったが、自分の話はともかく、それもいいかもと思うミサキだった。

客席で、そんな様子を遠巻きに見ていた先ほどの男性客は、雑貨屋に寄るのは、メグミがいる時にしようと、カフェを後にして職場に戻って行った。

タモツは、メグミに寄り付く男どもを、どうやって追い払うか思案にくれるのだった
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