埃の上で

町田 翔太

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1章

特急キンモクセイ

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暗闇に飲まれ列車が走る

死者を乗せているからなのか冷房がやけに効いている

それとも私が濡れているからなのか

私以外の乗客は歯を食いしばったり、真っ黒だったりでよく分からない
前に座っている白髪の老人も呼吸をするので精一杯のようだ

ただ全員が手に握らされている金木犀が香っている

湿った私の花は匂いを一層立たせ、染み付いた鉄と油の臭いを消す

私はポケットから煙草を取り出し、中身を床へ捨てると花を仕舞った

「一本もらえるか?」
顔を上げると白髪の老人と目があった

「たばこ、もらえるか?」老人は私に向かってそう言った

もう呼吸は落ち着いたようだ

私は何も言わなかったが老人は散らばった煙草を拾うのでライターを渡した

老人は目を細め美味そうに吸う
体に刺さった半透明の管から煙が漏れている

金木犀の香りは車内から消えた
私はこの空気に耐えられなかった
皆がこっちを見ているのだ
逃げるようにこの車両を去った


女性専用車両




[3号車]
隣の子供は痣のある頬を窓ガラスにくっつけて景色を見ていた

白や橙の街灯がポツリポツリと並べられ星のように瞬く
ゆっくりと流れて窓の隅へ吸い込まれていく

光に照らされ窓の雨粒も輝く
雨粒もまた合体し、分裂しまた合体して窓の隅へ吸い込まれる

合体した雨粒はスーパーノヴァのように激しい光と音を放ち消えてゆくのだった



この列車は何処へゆくのだろう
アナウンスが聞こえる
次は塩尻、塩尻です

窓に映る私と目が合う
瞬き三回 停車する

プラットホームを降りると雨の溶けた匂いとりんごの匂い

さっきまで乗っていた列車はもういなかった


2019 10 18
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