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あなただけにご奉仕♡きゅるるんおちんぽメイド (完)

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 久しぶりに向かった『おむ♡ふぁた~る』は臨時休業だった。
 ピンクと白のキンガムチェックの扉には、ハート型の看板が掛けられている。いつの間にか、ここに入ることに恥じらいはなくなっていた。
 何も臆することなく、扉を開けた。

「おかえり! ご主人クン!」

 飛び込んできた恋人を両手で受け止める。すき、と甘く言われ、腕に力が籠もった。
 ピンクをベースに作られた店内は装飾が控えめで、だからこそ彼の可愛らしさが一層際立っていた。ん~、と小さく鳴いて手を離したため、俺も彼と少しだけ距離を取る。
 目の前で一回転し、今日の衣装を見せてくれた。

「ご主人クンに秘密にしてた、メイド服だよ~。メイドっぽくないから、不採用にしたんだ~」

 確かにメイド服と言うよりは、ロリータに雰囲気が近かった。広い丸襟は鎖骨を隠し、ピンクのワンピースに黒いリボンで胸元から腰に掛けて一直線に編み込みをされている。腰には白いエプロンが巻き付いており、正面からでも背面の大きなリボンが見えた。膝を覆うほどの長さのスカートは空気が入ったときだけうっすらと膨らんだ。襟や袖口、エプロン、スカート、手首についたアクセサリーと、至る所がフリルやピンクのリボンで彩られている。小さなお団子を作った赤茶の髪にも、フリルとリボンで構成されたヘッドドレスが乗っている。俺よりも綺麗な形を作っているから、きっと彼の先輩によるものだろうと察した。

「でも、これは完璧じゃないの……!」

 めいは柔く微笑み、俺の鞄を指さした。
 出社したときは言葉を失ったけど、以前のように理由あっての行動だったらしい。丁寧に仕舞っておいたものを、中から取り出した。伸ばされた手に鞄を預けるとすぐに、彼は屈んでこちらへ頭を差し出した。
 すでに出来上がったお団子に、ピンクのリボンを飾り付けた。お団子の根本にある黒ゴムをリボンで覆い隠して、上書きしていく。

「出来たよ」

 そう言えば、身体を上げて、楽しそうに上半身を揺らした。

「可愛くなった?」
「うん、一番可愛くなったよ」
「りっちゃんなんかより、ご主人クンの方がお上手ね~!」

 そんなことないよ、とは言いたくなかった。彼の恋人になった以上、そうありたいと思っていた。
 いつもの席に座ると、めいは待っててね~とキッチンへ消えていった。横の席には先客がおり、頭を抱え俯いている。

「だ、大丈夫ですか?」

 声を掛ければ、ギリッと強く睨まれた。

「大丈夫なわけないでしょう!?」

 言葉の勢いで、赤いリボンのヘッドドレスがわずかにずれた。そんなのは構ってられないとばかりに、言葉を続ける。

「さっき全部聞きましたけど、どう考えても阿左美は主藤さんのストーカーじゃないですか! 深く聞かなかったのが悪いとずっと反省してますけど、俺だって阿左美のことを信用してたんですよ!? 見たことないくらい真剣だし、少しずつ人間らしくなっていくし、主藤さんはまともな人間だし……。でも、あいつの根っこは何一つ変わってなかった!」
「え、えっと、ストーカー……?」
「メイドを諦めなくていいと思ったら、犯罪の片棒を担がされていた人間の気持ちが分かりますか!?」
「犯罪の片棒……?」

 俺のいない間に一体どんな話をしていたのだろう。今日の臨時休業の理由はりっちゃんさんにあるとは、めいからも聞いていた。

「よく分からないですけど、このメイドカフェのおかげでめいと恋人になって、りっちゃんさんとも知り合えたので、俺はお店が好きですよ」
「そういうところ! 主藤さん、あいつのことを甘やかさないで下さい!」
「それは……」

 言葉を遮るように、俺達の間にオムライスが置かれた。丸く成形され、ケチャップで三角の目とギザギザの口が書かれている。脇にはサラダも添えられていた。

「好きって言わないで」
「ごめんね、めい」

 睨む彼に謝れば、途端に顔を赤く染めていく。りっちゃんさんが横で、うわ気持ち悪、と吐き捨てていた。

「それも言わないでって、お願いした!」
「そうだったね、めいくん」
「それでいいの。……でも、おうち帰ったら、いっぱい言ってね」

 そう言って、キッチンへとまた去っていく。

「あの気持ち悪い阿左美なんですか? 本当に気持ち悪いんですけど」
「照れちゃうみたいで……」

 今朝、名前を呼んだときからこんな状態だった。どきどきするから駄目、と可愛く怒られて、外では呼ぶのを禁止されてしまった。俺の名前も同じらしく、二つの呼び方を本人の気分に合わせて使い分けている。
 でも、この呼び方も、特別な感じがして好きだ。

「主藤さん、一つ言っておきますけど、初めての恋人ってそんな純粋なものじゃないですからね。特定の誰かを作らなかったってだけの話で、倫理観がイカれてる奴ですよ」
「めいくんほど可愛い人だったらそうですよね……。彼らしいところも多いので、価値観の違いも大切にしていけたらって思ってますよ」
「本当に苦しくなってきた……。なんで、俺はこの人を阿左美に易々と渡してしまったんだろう……」

 強い音を立てて、パフェグラスが置かれる。カボチャやおばけ型のクッキーや、蜘蛛の巣のチョコが盛りつけられており、見ているだけでも楽しい。どちらもハロウィンの試作メニューなのだろうと思った。

「ベタベタしないでくれる~? おれだけのご主人クンなの、お前のじゃないの」

 めいはこちらに身を乗り出し、俺の頬を掴んだ。そのまま唇が押し当てられ、強引に舌が侵入してくる。口内で絡め合った後、に少しだけ唇が浮いた。めいに誘い出された舌は、そのまま外でも互いを求め合う。知り合いの、よりにもよって協力までしてくれた彼の先輩に、欲に浮かされた浅ましい行為が見られている。そう理解すると、舌全体が敏感になって、身体が与えられるすべてを快楽だと捉えてしまっていた。垂れ目はうっとりと俺だけを見ていて、目を逸らすことも叶わない。
 頬は掴まれたまま、めいが離れていく。二人分の唾液で濡れた舌先が徐々に乾いていく。

「ねえ、有クン。舌も仕舞えないくらい気持ち良かったの? りっちゃんに見られて、お~くんにも、癸にも見られる場所でするキスは、気持ち良かった?」

 慌てて口を閉じれば、あざ笑われた。

「閉じたところでどうにもならないのに、必死で可愛い! もっと、おれだけの有クンだって、教えてあげようね」
「阿左美、てめェ……! ふざけんな!」

 りっちゃんさんの怒声が聞こえたと思ったら、カウンター内に回り込んでいた。そのまま、取っ組み合いになりかけて、たまたま近くに来たみ~くんさんが怒っている彼を羽交い締めにしていた。

「ほら、りっちゃんサンの綺麗な顔面が崩れちゃうっすよ!」
「うるさい! 俺は怒ってたって綺麗だろうが!」

 どうすれば良いか分からないまま眺めていれば、元凶のめいから早く食べてと促されてしまった。一口食べれば感想を求められ、それが原因でまたりっちゃんさんを怒らせてしまい、申し訳ない悪循環がしばらく続いていた。


 結局、めいにお願いしてりっちゃんさんには二人で謝った。とは言っても、俺の方を見ながらの謝罪ではあったが、阿左美が謝るなんて……といたく感動され、この件は収拾がついた。
 食器を片しためいが、スタンプを持って俺の前にやってきた。当然といった顔で手を差し出され、ポケットからスタンプカードを取り出す。押してもらえるかもと思い、退勤時に財布から取り出して忍ばせておいた。
 スタンプカードの、最後が埋まった。

「こんなにおれに会いに来てくれたのね……! ご褒美をあげる!」

 レジの方へ向かい何かを掴んだ後、俺の横までやってきた。

「スタンプカードが貯まった特典に、当店スタッフで専属メイドであるめいくんとのツーショチェキか単体チェキが撮れます。どちらか一つのみとさせていただいております」

 急に事務的な口調で説明する彼に笑ってしまった。最初もこんな感じでお店のシステムを教えてくれていた。

「でも、有クンなら、どっちもしていいよ……!」
「ううん、今日はめいくんだけを撮るね。次貯まったら、一緒に撮りたいな」
「そっか、今は可愛いおれが欲しいのね! 前に一緒に撮ったもんね~!」
「う、うん……」

 それは、あまり思い出したくなかったかもしれない。あのチェキは家に保管しているが、福に見られたらどうしようとびくびくいていた。
 チェキを手渡した後、めいは店内をさまよい、ここにしよ~、と俺を手招きした。周りには机等がなく、ピンクの壁紙を背景に、可愛くしゃがみ込んだ。

「有クンにとって一番可愛いおれを、チェキに残して」

 甘くおねだりされて、胸の奥で熱がじんわりと広がっていく。
 そうか。チェキなら、可愛い彼の一瞬を切り取ることが出来るのか。
 自然とチェキを持つ手に力が籠もる。小さな窓越しに見るめいは、どんなフリルやレースやピンクに負けない、可愛いメイドだった。りっちゃんさんが選んだであろうメイド服や小物も、俺の選んだリボンも、めいの可愛さの前ではすべてが無力だった。俺だけが、可愛い彼を、フィルムの中に収めることが出来た。
 浮かぶ笑みは、おれが一番可愛い、とこちらに訴えかけていた。両手を握り込んで顎に当て、緩く首を傾げる。
 今だ。頭で考えると同時に、指はボタンを押し込んでいた。
 パシャッ。
 眩しい光を浴びて、彼の可愛さは切り取られた。ジーっと言いながら、フィルムが吐き出される。白い枠内は真っ黒だったが、次第に俺だけの可愛い姿が浮かび上がってきた。
 めいは近寄って、俺の顔をのぞき込んだ。手元は一切気にしておらず、こちらの様子を不安そうに伺っている。

「有クンにとって一番可愛いおれが撮れた?」
「うん、一番可愛いめいだよ。チェキ撮るのって、楽しいね。もっと、いろんな君が撮りたいな」
「……ありがと。毎日ここに帰ってきてね、やくそく」
「約束する」

 頷けば強く抱き締められ、つむじに柔らかいものが降ってきた。くすぐったくなり顔を振れば、不意に丸襟の向こうが視界に入る。鎖骨の綺麗なカーブに乗っかるほくろが目に留まった。
 めいに少しだけ身体を離された。

「えっち」

 その言葉にはっとして顔を上げれば、悪戯っぽい笑みに変わっていた。

「……今日も、一緒に帰ってくれる?」

「ご主人クンの命令なら、聞いてあげないとね~!」
 俺の命令の意味を、メイドはしっかりと理解してくれていた。


  *


「ちゃんと見て、有クン」

 甘ったるい声に支配されて、俯いていた顔が勝手に上がっていく。けれど、恥ずかしく、途中で顔を逸らそうとした。

「出勤後に用意してあげたんだよ。ほら、ちゃんと見て。たまには、おれの一番可愛い有クンを自覚して」

 脳に直接囁きかけられたようだった。逃げ道を潰されて、ついに正面に向き合う。
 姿見には、快楽でぐずぐずになった俺が、情けない顔を晒していた。絶頂に耐えきれなかった証拠に瞳には涙が浮かび、だらしなく開く唇からは唾液が漏れていた。はだけたワイシャツから、めいに弄ばれて赤くなった乳首が見え隠れし、時々擦れて気持ちが良かった。腹部は自分の精液で汚れ、自分の視線に気付いて陰茎が震える。スカートの内部が晒され、生々しい結合部すら映っていた。
 これが、めいとセックスしているときの自分。

「メイドに犯されてる、ご主人クンのお顔はどう? と~っても可愛いでしょ! こうやっていつもおれと繋がってるんだよ。あ、ちゃんと自覚出来たね~! きゅ~って今おれのこと締め付けた、そうだよずっと離さないでね」

 めいに責められるたびに、俺の顔がだらしなく溶けていた。幸せそうに、けれど物欲しそうにしている自分が恥ずかしい。
 今まで、人と付き合ったことも、セックスをしたこともなかった。事務的な自慰で満足出来ていた。それなのに、この子に会ってからは、ずっとおかしくされたいと願っている。
 愛おしいという感情も、身を滅ぼすような欲望も、全部めいから与えられたものだった。
 鏡越しに視線が合い、全身で彼の存在を歓喜した。無自覚に腰を振り始め、それが鏡によって自覚させられる。

「有クンってば! あはは、おれのことが恋しいのね」

 キスが出来ない代わりに、唇はいつになく饒舌だった。

「めい、すきっ、すきだよっ」

 熱に浮かされて、馬鹿みたいに彼の名前と好きという言葉しか言えなかった。想いは届いたようで、強く奥を殴られ、思わず仰け反ってしまう。俺の身体を支え、めいの唇が頬に当てられた。
「おれも、有クンが大好き! 有クンだけのおちんぽメイドとして、もっと気持ち良いことを教えてあげるね」
 何度も抉られた肉壁は、容赦ないピストンに耐えることなど出来なかった。ぱんっぱんっと腰が打ち付けられるたび、聴覚が行為の輪郭を浮かび上がらせた。快楽が互いの境界線を溶かしていく。

「いっ、いっちゃっ……!」
「おれもっ」

 必死な声色に、脳がじんわりと痺れる。何度も最奥を殴られて、甘い稲妻が走り耐えきれずに射精すると同時に、胎内でも熱いものが広がっていく。
 絶頂の余韻が俺達の繋がりをより鮮明にしていく。
 もう、ストレスや欲求不満による不眠なんて、治ってしまっていた。めいがいれば安心して眠くなることだってある。明日も仕事があるのにこうやって夜更かしをしているのは、彼が好きだから以外の理由なんてなかった。

「めい、可愛い」

 体重を預けて呟けば、めいが俺の身体をぎゅっと抱き締めた。

「有クンも、可愛いよ。……その顔は、おれだけにしか見せないでね」

 おれを叱った後、首筋を甘噛みした。普段とは正反対な言い方も、拗ねる仕草も、可愛い。
 もう少しだけ、今日は夜更かしをしよう。恋人と過ごすには頼りなく、愛おしい時間だった。
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