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初回特典:ハメ撮りチェキ 1

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 待ちに待った金曜日。今日こそ、ぐっすり寝るぞ! なんて、意気込んで帰路を進む。残業続きの身体は千鳥足さながらの不安定な足取りをしていた。
 社内のデザイン部に配属されてもう半年以上が経つ。社員の一人が育児休暇を取得することになり、その穴埋め要員として当てられたのが俺だった。特にデザインの知識もないが、パソコンの扱いが上手いから、という滅茶苦茶な理由だけでご指名された。
 独身なのもあり割り当ての多い仕事、期日ギリギリに来る依頼、専門でもないせいでリテイクの嵐、深夜に帰宅しても妙な緊張状態でろくに取れない睡眠。俺の身体は限界状態でいつも動いている。
 自宅までの最短ルートは、この飲み屋街を通る必要があった。他者から見ても限界社会人といった雰囲気が出ているのか、キャッチすら俺を避ける。もしも声をかけてくることがあっても、聞き流して進む。
 いつもはそうだった。

「ねえ、おに~さん。おれがいっぱい癒してあげる」

 耳に残る甘ったるい声が俺を誘っている。
 普段なら聞き流していたのに、思わずそちらを見る。声の主と目が合ってにこにこと手を振られた。
 異様な出で立ちだった。俺よりも身長のあるメイド服の男。夜でも目立つピンクの丈の短いワンピース、その上につけている白いエプロンの大きめなフリルは彼のガタイの良さをどうにか隠そうとしている。黒のニーハイを穿いており、ミニスカートの割に生肌はほんの少ししか出ていない。顔はアイドルのように整っていて、垂れ目の左側にある涙ぼくろからは女性関係に困ったことがなさそうで、それでいて様々なトラブルを引き起こしていそうな危険さがある。フワフワした赤茶色の髪には、端にピンクのリボンがついたフリルのカチューシャが乗っかっていた。
 男性なのに、その姿はとても似合っていた。

「やっと気付いてくれた! おれ、おに~さんの専属メイドだから、帰ってくるのずっと待ってたんだよ」
「は、はあ……」

 生返事をしながら、彼の持っている看板を読む。

『メイドカフェ おむ♡ふぁた~る 男性メイドによるおもてなし』

 店名の下には細々と料金説明が書いてあった。
 なんとも怪しいキャッチだ。そう思うのに、どうしてか離れようと思えなかった。いっぱい癒してあげる、それはここ半年の極限状態から解放されない己の身体に差し伸べられた唯一の救いに聞こえたからかもしれない。

「身体も動かせないくらい疲れてるんだね……、可哀想なおに~さん。よ~し、めいくんが精一杯ご奉仕してあげる!」
「えっ、あ、ってちょっと!?」

 同意もなしに自称メイドは俺の手を掴んで、ぐんぐんとビルの中へ引っ張っていく。不意に入り口にあった鏡の俺と目が合った。中肉中背に黒目黒髪といったどこにでもいるクールビズ仕様の草臥れたサラリーマンが、デカいメイドに連れ去られる奇妙な光景が映し出されていた。
 階段だから気をつけてね~、と気の抜けた声で注意されながら、一段一段下っていく。危険なら手を離して欲しいのだが、それをお願いできるほど図太かったらとっくに自宅に帰れていた。
 一面の灰色を蛍光灯が申し訳程度に照らしている。時折大丈夫~? とか、もうすぐだよ、とか声をかけられながら地下まで降りきると、灰色の先に主張の激しいピンクと白のキンガムチェックの扉が現れた。ハート型の看板には、先ほど地上で見たのと同じ『おむ♡ふぁた~る』の文字がある。ここに入らないといけないという気恥ずかしさが更に足取りを悪くさせた。
 メイドは何も臆することなく、その扉を開けた。

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 中にいたメイド達にそう声をかけられる、勿論男だった。
 全体的にピンクをベースに作られた店内は、装飾が控えめで思ったよりもチカチカする感じはない。二人のメイドが接客している相手は女性で、明らかに俺は場違いだ。

「……ここは俺の家ではないので、その、やっぱり入店やめても」
「何言ってるの、ここはおに~さんのお屋敷じゃん」

 こんなメルヘンな自宅があってたまるか!

「もしかして、記憶がない……? しょうがないなあ、とっておきのお部屋にご案内してあげるね」

 メイドは一方的に話を進めていく。ホールを突っ切って、明らかにスタッフしか入らないであろうスペースにある一室の扉を開いた。
 ホールとは打って変わって、リボンやハートを基調とする数々の装飾に包まれた部屋には、その中心に真っ赤なソファーとローテーブルが置いてある。部屋の隅には部屋に合わせた雰囲気の姿見や収納があり、店舗の一室にしては生活感が出てしまっている。そして、何故か壁側にピンクのフリフリなベッドが設置されていた。

「ここは、おに~さんことご主人クンのお部屋で~す」
「なにこのやばい部屋……」
「ご主人クンのために、めいくんが頑張って作ったお部屋だよ」

 そう言って照れる素振りを取られる。反応に困っていたら、褒めてよ~と奉仕する側から注意された。

「えっと、めいくん……? は、すごいね……?」
「そうでしょ~」

 嬉しいですとでかでかと顔に書いているような、とろける笑顔が俺に向けられた。男の子なのに、その笑顔はピンクのメイド服と合っている。
 ……可愛いかもしれない。
 そう思うのは、俺が疲れているからに違いがなかった。
 彼に案内されてソファーに座る。彼は俺の隣に腰を下ろして、肩をぴったりとくっつけてきた。ここまで距離を詰められてやっと、フワフワの赤茶から覗く耳に大量のピアスがついていることに気付いた。変に心臓の鼓動が早くなる。

「えー、当店では、ワンドリンクワンフード制となっておりまして、初回帰宅特典としてメイドとチェキを撮ることが出来ます。また、大変申し訳ないのですが、当店では帰宅していただいたご主人様のことをお名前で呼ぶことを禁止しておりますので、予めご了承下さい。また、おれのことは気軽に、めいくん、と呼んで下さい」
「急に事務的過ぎる……」

 ドキドキしていた心臓は一瞬にして平常に戻っていた。

「これ言わないとメイド長に怒られるんだよね~。本当はご主人クンのことを有クンって呼んであげたいんだけど、ごめんね」
「……え?」
「主藤有クン。主人の主に、花の藤、有無の有で、しゅどうある。違う?」

 間違いなく、俺の本名だった。

「なんで、知って……」
「だっておれはご主人クンの専属メイドなので~」

 適当にはぐらかされた。どんどん怖くなってきて、深く考えるのをやめることにした。

「あ、自分だけ知られてるっていうのも怖いよね! おれは、阿左美めい。えっとね、ちょっと待って」

 そう言ってバタバタと部屋を出たと思ったら、何かを握ってすぐに戻ってきた。

「はい!」

『××大学 阿左美めい 経済学部』

 出されたものを無意識に読んで、慌てて目を逸らした。

「なんで、見てくれないの? おれはご主人クンに全部知ってほしいのに」
「そういうのは見せない方がいいと思うけど!?」
「ご主人クン以外にはする気ないから、安心してよ~」
「分かったから! 君のことはよく分かったから! ほら、仕舞って!」

 彼はしょうがないといった風に、エプロンのポケットに学生証を入れた。

「それじゃあご主人クンにおれを知ってもらえたということで、注文どうする?」

 また俺の横に座る。どこからか取り出したメニューを開いて、一つ一つご丁寧に説明してくれた。
 正直な話、食事は出来る気がしなかった。激務でまともに固形物を食べておらず、メニューに書かれているものは胃が拒絶しそうだった。
 そうだ、ここは食事メニューの注文が必要だ。食べれないと言えば、帰してもらえるのではないのだろうか?

「俺、ご飯もの食べたら吐いちゃいそうだから注文できないかもなあ、なんて」
「ご主人クンはいつも大変そうだもんね。分かったよ、今日はめいくんの特別大サービスメニューに決まり~!」

 パタンと音を立てて、メニューが閉じられる。めいくんは薄く膨らむスカートを揺らして、再び去って行った。
 どうしよう。最初からそうだけど、全然話を聞いてもらえない。
 彼を待つ間、先ほど見せられた学生証を思い返した。誰でも知ってるほどの有名大学の学生で、俺より四つ下の二十一歳だった。実家の妹と同じ年齢だ、そんな子にずっと振り回され続けている。大人としてどうなんだろう。
 考え込んでいたら、扉の外側から少しこもった声で開けて~と命令された。どちらが主人なのか、やはり怪しい。

「ありがとね~ご主人クン」

 扉を開けば、またあの笑顔が俺に向けられる。顔が整ってるからか変にどぎまぎして、誤魔化すように無言でソファーに戻った。
 彼はローテーブルに持ってきたグラスとチェキを置く。部屋とは似つかわしくない小さな気泡の混ざった深緑色は、どうみても野菜スムージーだ。中心にはハート型に丸まったピンクのストローがご丁寧に刺さっている。

「めいくんスペシャルおまたせしました~」
「あ、ありがとう」
「おれの自信作! ご主人クンの弱った胃も大喜び間違いなし!」

 もう俺の横は彼の定位置となっていた。何事もないように座って、俺の方に身体を寄せる。何も気にしていないのか、スカートがはだけて、綺麗な筋肉質の白い太股を晒していた。ニーハイとフリルの間に生まれた一瞬の隙間は妙に艶めかしかった。
 視線は泳いで、無意識に彼の首もとに着地する。よく見れば襟のボタンが外れていて、僅かに覗く鎖骨にはほくろがあった。美しいカーブの上に黒い点が乗っかっている。

「えっち」

 頭上から投げかけられた言葉は、自分を責めるような様子はなく、むしろ誘うような雰囲気さえある。顔を上げれば、めいくんは俺の視線に対してあざとく微笑み返した。
 突然、彼がグラスを手に取って、野菜スムージーを口に含む。形の良い唇が怪しく濡れているのを観察していれば、後ろ頭に手が回った。
 彼の美しい双眼がぶつかりそうなほど近くにある。身体を背もたれ側に緩く押し倒され、意図せず開けてしまった唇から何かが侵入してきた。肉厚な舌を伝うようにドロドロとしたものが移動して、少しだけ端からこぼれる。すべてを移すと物足りなさそうに唇が離れ、頬に垂れていったそれを舐めあげた。

「おいしくなぁれの魔法ってやつ! どう、おいしい?」

 互いの唾液混じりのスムージーは、全然味がしなかった。それなのに、飲み込むと腹部がじくじくと熱を持ち始めていく。
 嫌な予感がして股間に視線を落とせば、うっすらと布を持ち上げ始めていた。慌てて手で隠そうとしたが、もうすでに彼にはお見通しだった。
 ソファーから降りて、めいくんは俺の足の間をこじ開けて座る。そして、甘えるようにそこに頬ずりをした。その刺激からか、光景からか、自身の熱が更に強さを増す。

「えっ、な、なにをして……!」
「ご主人クン、おれが癒してあげるね」

 めいくんは俺のスラックスのベルトを緩め、それからホックを外す。持ち上がったそこにキスを落として、白い歯が器用にチャックを掴んだ。見せつけるようにゆっくりと降ろしていくと、灰色のボクサーパンツの中で辛そうにしている俺自身が現れた。からかうように布越しに舐め上げられ、思わず身体が揺れる。久しぶりの快感に、勝手に腰が揺れて彼の顔に押しつける形となった。

「あはは、ご主人クンってばだいた~ん。うんうん、気持ちよくなろうね」
「っあ、そこ、でっ、しゃべらぁっ、ないで」

 息が掛かって先ほどとは異なる刺激が与えられる。言葉は独りでに上擦っていた。
 ワイシャツを手で押さえて、パンツのゴムに赤い唇がかけられる。先ほどとは異なり勢いよく顔を下げれば、解放された反動で俺の陰茎が外に飛び出してめいくんの顔をビンタするように叩いた。跳ねた先走りが彼の頬を汚す。
 めいくんは俺の亀頭にキスをした後、ちろちろと舐めたり軽く吸ってみたりと遊び始めた。たったそれだけでももう限界を迎えそうで、じわじわと溢れる汁が彼の唇を光らせている。

「あっ、やばい、でそうっ……!」
「だ~め」

 そう言って、白い指が俺の根本をぎゅっと握った。悪戯するように口いっぱいに俺を迎え入れていく。生温かい口内では、俺には何も見えないことを良いことに舌が裏筋を舐めたり、寄り添うように巻き付いてみたりと、様々に責め立てていた。吐息とも声ともつかない嬌声が、本能的に漏れる。気持ちが良いのに、それを発散できないもどかしさでもうおかしくなりそうだった。めいくんと視線が重なり、からかうようにじゅるじゅると音を立ててストロークが開始される。
 強い刺激の連続に、放出出来ない熱はどうにかその逃げ場を探し始めていた。

「あぅっ、や、やばい……、めいくんっ」

 脳がチカチカとしてきて思わず彼の名前を呼ぶ。ストロークが勢いを増すと同時に精液をせき止めていた指は離れ、一気に自身の中を登り上がってきた。

「だめぇ、はっ、はなしてっ!」

 限界の寸前で懇願するも、むしろ逆効果でめいくんは亀頭を強く吸い上げた。快感は引っ張り上げられて、そのまま彼の口内に射精した。
 わざとらしく音を立てて、めいの唇が離れる。

「へ~、みへ」

 真っ赤な舌を俺の白い精液の受け皿にして、こちらに見せつけた。そのコントラストにクラクラして、視線が釘付けになる。彼は挑発的に顔を上げて飲み込んでいく。それが喉元へ消えていくのがよく見えた。唇が閉じると同時に、喉がごくんと上下する。またぱっと開いたときには、もうその白はどこになかった。

「き、汚いって!」
「ご主人クンのだから汚くないも~ん。でも、にが~い」

 めいくんは振り返って自分の持ってきた野菜スムージーを飲み始めた。途中でこちらに顔を向けて、またわざとらしく喉を動かし音を立てながら飲み干していく。
 放出したばかりなのに、陰茎がもう一度熱を持ちそうになっている。彼に何かされることを、身体が勝手に期待し始めていた。
 自分が恐ろしくて、彼から目を逸らす。めいくんはゆっくりと立ち上がって、身体を絡ませるように俺の耳元に顔を寄せた。
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