異世界大戦

第16話

　意識は全て俺に向かって来る侵略者のみに向ける。そう強く思えば思うほどに集中力が高まるが、それに釣られるように周りからのものへと意識が遠ざかる。

　ただただ侵略者を殺すことに意識を向けたからか、俺に向かって迫る侵略者の動きがよく見える。

　振るわれるグールの腕の軌道を読み解き、グールを目隠しに接近していた眷属狼の足を狙った噛み付きを足を後ろに振りかぶるようにして下げることで躱すと、俺は足を眷属狼の頭部目掛けて振り抜く勢いで蹴りを放つ。

　足の甲に眷属狼がぶつかり衝突する重みを感じるが、そのまま足を振り抜いた。

　頭部を蹴り抜かれた眷属狼が仰け反りながら地面に転がるのが視界に映るなかで、俺は目の前の俺に掴み掛かろうとするグールへとエネルギーを纏う拳を繰り出す。

　顔面に一直線に向かう拳はそのままグールに命中すると、グールの頭部が弾けて殺せたが、グールの身体は何故かまだ動いており、完全に死ぬ前にグールは倒れながら俺に抱き付いてきた。

　「次が来るってのに！？離せッ！！！」

　俺自身にしがみ付くように抱き付いているグールの亡き骸を無理矢理に振り解こうとする間に、俺に向かって侵略者たちが殺到してくる。

　既に死んでいるグールの胴体に必殺技の【エナジーナックル】を使うのはエネルギー消費がもったいなく感じるが、ここは仕方がないと諦めて思い切り頭のないグールの胴体を殴った。

　グールの胴体はエネルギーの込められた拳が減り込み命中したことで、殴った場所を中心に弾けて上半身と下半身が半分に分かれる。

　だが、それでも俺にしがみ付いているグールの上半身をそのままに、俺は自身に迫って来ている侵略者への対処へと動く。

　下半身が無くなったことで重く感じたグールの死体は軽くなり、今もしがみ付くグールの上半身を盾にして迫って来ていたグールの引っ掻き攻撃を防ぐ。

　「少し便利だな、これ。」

　既に【超強化再生】の力で再生が終わっている武装の金属装甲だが、それでもまだ強化が不十分でグールや眷属狼からの攻撃を受ければ簡単に傷付いてしまうだろう。

　それが重くなってしまったがグールの上半身を盾にすることで防げ、更にグールからの攻撃に対して反撃を行なうことでグールに致命的なダメージを与えることに成功する。

　何も俺が頭部を破壊して倒さなくても、この場には他にも侵略者と戦う選ばれし者は居るし、致命傷を与えれば大抵は地面に倒れることを利用して、未だにゲートを目指して向かって来ている侵略者たちに踏まれて勝手に死ぬだろう。

　殺すことを意識せず相手を動かなくすることを優先すれば、侵略者へ攻撃すればいい場所が増える。そのお陰もあり、俺に向かって行なわれる攻撃を受けるのも武装の装甲だけで済んだ。

　肉体の再生に使われるエネルギー量が減る（それでも限界を超えて動かしているので肉体にはダメージがある）ことで、少しでも攻撃に使えるエネルギー量が増える。

　若干だが増えたエネルギーが拳に向かうことで振るわれる拳での打撃力が上昇し、ダメージを与えるだけに意識した攻撃でも偶にだが侵略者が死ぬほどの一撃が与えられることがあった。

　それからどれくらいの時間が経っただろうかは分からない。それほど向かって来ている侵略者を倒すのに集中していた俺の周りには多くの侵略者の亡き骸が転がっていた。

　「はぁ、はぁ、はぁ……終わったのか？」

　集中力が途切れた俺は辺りを確認するが未だに第二陣の侵略者の群れはおり、俺の周りにだけ何故か居ない状況になっていた。

　なぜ俺の周りには侵略者たちが向かって来ないのか。その疑問に答えるかのように1人の上等な服を着た眷属人でもグールでもない存在が俺に向かって来る。

　「よくもまあ1人でこんなに殺してくれたな。お前は俺が殺してやるよ！」

　殺気立つ男は俺にそう言った。