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聖女の覚醒(4)

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 ◇◇◇

『結婚してください』
 オスカーからそのセリフを引き出したことに達成感を覚えながら
『はい。末永くよろしくおねがいします』
を選択する。
 夕日に染まるルーン岬をバックに、アデルとオスカーが口づけをかわした。
 
「オスカー! カッコよすぎぃ!」
 エンドロールが流れる画面を見つめながら、最後の場面を思い出してニマニマする。

 ドはまりしている乙女ゲーム、ハルアカの3周目が終わった。
 ヒロインのアデルは噂通り……いや、噂以上のハードモードで大変だった。

 学生時代のエピソードでは騎士を目指すがゆえにゲーム内での日々の訓練に時間を費やした。
 それなのにステータスパラメーターは少しずつしか上がらない。
 上がらないどころか、病気や怪我で逆に下がっていく始末。おまけに悪役令嬢ドリスの邪魔は入るし、さんざんだった。
 
 イージーモードのリリカとは大違いだ。
 でも後半の戦争の場面では、常にオスカーを支えている感じがすごくよかったと思う。
 戦場で互いのことが気になりつつも、そんな場合ではないと気持ちを押し殺す。
 なんとももどかしくなるやり取りが続き、戦争終結直後にオスカーからプロポーズされるのだ。

 ゲームを知り尽くしているはずのわたしでも、うんと時間と手間がかかった。
「感無量!」
 スマホを膝の上に置き、天井を仰ぎ見る。
 よく頑張った、わたし!

「でもなぁ……」
 心残りもある。
 絵の得意なわたしが今好んで描いているファンアートは、実は悪役令嬢ドリス・エーレンベルクだ。
 ドリスは愚かでわがままで利己的な悪役キャラだけれど、それがなんとも人間らしく感じたからだ。

 2周目でさいはめルートを選択して呪いアイテムを使ってみたら、ドリスの登場シーンがダイジェストで終わってしまった。
 ラクだったのは確かだが、なんだか味気なかった。
 3周目、アデルルートに苦戦しつついろんなことを試してみた。
 ドリスが死なずにオスカーと結ばれる「ドリスルート」がないものかと模索を繰り返し、ドリス×オスカーの甘々ファンアートをたくさんSNSに上げた。
 
 でも残念なことに、ドリスルートの手がかりは見つけられなかった。
「悪役令嬢は悪役のままかぁ……」
 立ち上がって部屋を出ようとした時、背後から声がした。

「ドリスちゃん! わたしたち、ずっ友だって約束したよね。だから早く……!」

 驚いて振り返る。
 今の声は、ハルアカのリリカの声だ。

 まさかエンドロールの後に続きが!?
 慌ててスマホの画面を覗いたわたしは、突然まばゆい白い光に包まれて――。


 ん? ここはどこだっけ?
 どうやらわたしはベッドに寝かされているらしい。
 首を横に向けると、オスカーがうたた寝をしていた。
 そんな姿も綺麗なのだから、わたしの愛しい人は反則がすぎる。

 あれ? どっちが夢?
 頭が混乱している。今のわたしはどっち……?

 起き上がろうとしたけど、力が入らない。
「……ぁ」
 オスカーを呼ぼうとしても、喉がカラカラで声もうまく出せない。

 それでも、オスカがハッと目を覚ました。
「ドリィ?」
 立ち上がったオスカーと目が合った。
「オ……」
 もう一度オスカーの名前を呼ぼうとして咳き込んでしまう。体のあちこちが痛い。

「ドリィ、無理しなくていい」
 オスカーが青灰の目に涙をためている。
「ありがとう。戻ってきてくれてありがとう、ドリィ」
 ぎゅうっと抱きしめられると、首筋にオスカーの涙の熱さを感じた。

 今は夕方だろうか。部屋から見える空は、茜色に染まっていた。
 
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