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ミヒャエルの病気(5)
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ミヒャエルは、体調が持ち直したと思えばまた崩れて寝込む日々を繰り返している。
ゲームの中でもこうやって徐々に体力を失い弱っていくのだ。
「そろそろ爵位をオスカーに譲ったほうがいいかもしれないな」
冗談とも本気ともとれるそんな弱音まで吐くようになった。
実のところ、伯爵としての事務仕事の大半はオスカーが代行してやっている。
だからといって、そんなことを言わないでほしい。
「冗談でもそんなことを言わないでちょうだい。長生きしてくれないといやよ」
「ああ、そうだね」
笑顔にもどうも力がないミヒャエルだ。
体調を崩しがちになって瘦せてしまったし、見た目も急に老けてきた気がする。
ミヒャエルが内心喜んでいる時に見えていたぶんぶん揺れる尻尾も、今ではもう見る影もない。
「それよりも、学校にはきちんと通っているのか?」
わたしが学校を休みがちであることを心配してくれているらしい。
「ええ。大丈夫よ!」
質問をはぐらかして、心配無用だとだけ胸を張って答える。
マイヤ夫人が残してくれた課題のおかげで成績はずっと上位をキープしている。
ハルアカでも悪役令嬢ドリスだってなにかと理由をつけて授業をサボっていたけれどちゃんと卒業できていたのだから、わたしも大丈夫だろう。
いざとなれば悪役令嬢っぽくお金で解決してもいいし、なんなら留年したって問題ない。
自分の卒業よりも、ミヒャエルの体のほうが大事なのだ。
アルトはなにか手がかりを持ってきてくれるだろうか。あれからまだなんの音沙汰もない。
3カ月後。
やっとアルトから訪問したいとの伝令が届いた。
いつ来てくれてもかまわないと返すと、その翌日に屋敷まで足を運んでくれた。
「アルトお兄様、いらっしゃい」
はやる気持ちを抑えながら玄関で出迎える。
「やあ、ドリスちゃん。そんな待ち焦がれていた顔はしないほうがいいね。僕の命がいくつあっても足りない」
苦笑するアルトの視線の先では、オスカーが険しい顔をしている。
以前から薄々気付いてはいたけれど、どうやらオスカーはずいぶんと嫉妬深いようだ。
「興味深い話を持ってきたよ」
アルトの発言に胸が高鳴る。
ミヒャエルが元気になる解決策があるのかしら!?
「ただし、オスカーも同席してもらいたい。いいね?」
アルトが笑顔を引っ込めて、真面目な顔でわたしを見据える。
こちらに拒否権はないとでも言いたげな様子だ。
あまりいい話はないのかもしれない……。急に怖くなってきた。
それでも今は、藁にもすがるような気持ちでアルトに望みを託すしかない状況だ。
「わかりました。応接室で聞きます」
わたしは大きく頷いて、オスカーと共にアルトを応接室に案内した。
お茶を用意してくれたハンナが下がると、まずオスカーにアルトへ何を依頼していたかを説明した。
その後、さっそくアルトが話しはじめる。
「なかなか手がかりがなかったんだけどね、ひとつだけもしかしてっていうのが見つかったよ」
わたしは、ごくりと唾をのみこんで身を乗り出した。
「なんですか?」
「熱と倦怠感が断続的に続いて体力を奪われていく。病気や毒以外でそれに合致するのはね……呪いだ」
ゲームの中でもこうやって徐々に体力を失い弱っていくのだ。
「そろそろ爵位をオスカーに譲ったほうがいいかもしれないな」
冗談とも本気ともとれるそんな弱音まで吐くようになった。
実のところ、伯爵としての事務仕事の大半はオスカーが代行してやっている。
だからといって、そんなことを言わないでほしい。
「冗談でもそんなことを言わないでちょうだい。長生きしてくれないといやよ」
「ああ、そうだね」
笑顔にもどうも力がないミヒャエルだ。
体調を崩しがちになって瘦せてしまったし、見た目も急に老けてきた気がする。
ミヒャエルが内心喜んでいる時に見えていたぶんぶん揺れる尻尾も、今ではもう見る影もない。
「それよりも、学校にはきちんと通っているのか?」
わたしが学校を休みがちであることを心配してくれているらしい。
「ええ。大丈夫よ!」
質問をはぐらかして、心配無用だとだけ胸を張って答える。
マイヤ夫人が残してくれた課題のおかげで成績はずっと上位をキープしている。
ハルアカでも悪役令嬢ドリスだってなにかと理由をつけて授業をサボっていたけれどちゃんと卒業できていたのだから、わたしも大丈夫だろう。
いざとなれば悪役令嬢っぽくお金で解決してもいいし、なんなら留年したって問題ない。
自分の卒業よりも、ミヒャエルの体のほうが大事なのだ。
アルトはなにか手がかりを持ってきてくれるだろうか。あれからまだなんの音沙汰もない。
3カ月後。
やっとアルトから訪問したいとの伝令が届いた。
いつ来てくれてもかまわないと返すと、その翌日に屋敷まで足を運んでくれた。
「アルトお兄様、いらっしゃい」
はやる気持ちを抑えながら玄関で出迎える。
「やあ、ドリスちゃん。そんな待ち焦がれていた顔はしないほうがいいね。僕の命がいくつあっても足りない」
苦笑するアルトの視線の先では、オスカーが険しい顔をしている。
以前から薄々気付いてはいたけれど、どうやらオスカーはずいぶんと嫉妬深いようだ。
「興味深い話を持ってきたよ」
アルトの発言に胸が高鳴る。
ミヒャエルが元気になる解決策があるのかしら!?
「ただし、オスカーも同席してもらいたい。いいね?」
アルトが笑顔を引っ込めて、真面目な顔でわたしを見据える。
こちらに拒否権はないとでも言いたげな様子だ。
あまりいい話はないのかもしれない……。急に怖くなってきた。
それでも今は、藁にもすがるような気持ちでアルトに望みを託すしかない状況だ。
「わかりました。応接室で聞きます」
わたしは大きく頷いて、オスカーと共にアルトを応接室に案内した。
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その後、さっそくアルトが話しはじめる。
「なかなか手がかりがなかったんだけどね、ひとつだけもしかしてっていうのが見つかったよ」
わたしは、ごくりと唾をのみこんで身を乗り出した。
「なんですか?」
「熱と倦怠感が断続的に続いて体力を奪われていく。病気や毒以外でそれに合致するのはね……呪いだ」
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