破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます

時岡継美

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デビュタント(2)

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 案の定、会場でヒロインたちを見つけてもオスカーはまったく目もくれず、ひたすらわたしだけを見て甘く微笑み続けている。
 カタリナは大人っぽいシックな紫色のドレスを綺麗に着こなしている。
 リリカはレースやリボンがたくさんついた子供っぽいピンクのドレスだが、妙に似合っていてかわいらしい。
 アデルはスラっと背の高いスレンダーな体型に真っ赤なドレスが映えて、とてもカッコいい。
 
 3人とも自分に最も適した衣装を的確に選んだことで、すべてのパラメーターがプラスされているはずだ。
 この3人が多くの男性たちの視線を釘付けにしているというのに、オスカーは大丈夫だろうか。
 悪役令嬢を溺愛しているだなんて、悪趣味にもほどがある。

 窮地だったとはいえバグ利用したわたしがどの口で言うのかと批判されるのを承知で言おう。
 ゲームの運営管理者さん!
 ニヨニヨしながら見ているんだったら、早くバグ修正してください!
 
 舞踏会はデビュタントたちの初々しいダンスでスタートした。
 
 この日のために、わたしたちはダンスの猛特訓をしてきた。
 一生に一度のデビュタントの晴れ舞台で恥をかくわけにはいかない。
 ヘタすると、それがずっと社交界での自分の立ち位置に影響を及ぼす恐れさえあるからだ。
 
 同学年の生徒たちが一斉にデビュタントとなるため、学校の授業でもダンスレッスンがあるし、休み時間中も友人同士でさんざん練習した。
 ちなみにアデルは、男性役として女子生徒たちにモテモテだったことも言い添えておこう。

 わたしはダンスの先生から体幹がしっかりしていると褒められた。
 そりゃそうだ。
 自分の身を自分で守るために、わたしはこの3年間泳いだりスケートしたり走り回ったり、体を動かすことを怠らなかったんだもの!

 オスカーとのダンスの息もぴったりだ。
 何年も一緒に過ごしてきたからだろうか。それともわたしがハルアカのオスカーを知り尽くしているからだろうか。
 優しいけれど少し強引で不器用。
 表情には出ないけれど、実は今とても緊張しているはずだ。

 音楽に合わせてステップを踏みながら、目が合うと微笑みあう。
 わたしたちは互いを異性として意識して、たしかに想いあっているのだ。焦がれるほど強く。
 それなのに、この状況はいただけないと思っている自分がいる。
 
 いっそこのまま時が止まってしまえばいいのにと思う。
 ここでエンドロールになって、
『悪役令嬢ドリスは命を落とすことなくオスカーとミヒャエルと共に末永く幸せに暮らしました』
ってナレーションが入らないかしら。

 なんかいきなりバタバタ話をたたんでサービス終了しちゃったねぇ……とファンに惜しまれてもいい!
 そんな馬鹿げたことを考えているうちに、無情にも曲が終わった。
 
 デビュタントでのイベントも着々と進行中かもしれない。
 ゲームはまだ終わらない。だったらこれからも抗い続けるしかないのだ。

 一旦ダンスの輪から離れてのどを潤していると、背後から聞き覚えのある声がした。

「きみたちふたりが一番目立ってたよ。ズルいね、こんな美男美女カップルは」

 この声は――。
 
「アルトお兄様!」
 振り返ると、アルトがにこやかに笑って立っていた。
 
 途端にオスカーが不機嫌オーラを纏いはじめる。
「ドリィ、いつも言っているだろう? こいつは呼び捨てでいいって」
「ひどいなあ」
 アルトが苦笑する。騎士服を着ているということは、仕事中だろうか。
 
「今日はお仕事ですか?」
「そうなんだよ。不審者を見かけたっていう通報があってね」
 
 アルトの発言に首をひねる。
 そんなシナリオあったかしら……?

「ねえ、ドリスちゃん。オスカーの愛は重たすぎると思うんだよ」
 アルトの発言で思考が遮られる。
「僕みたいなさぁ、なんのしがらみもないお気楽な三男坊が一番ドリスちゃんには合っていると思うんだよね。だから……ぐはっ!」

 オスカーがアルトを羽交い絞めにする。
「ドリィのことを気安く呼ぶな。早く仕事に戻れ!」
 またいつものやつが始まった。

 そう思って苦笑した次の瞬間、アルトの去り際の言葉に固まってしまった。

「もしも、小柄でネズミ顔の怪しい男を見つけたら知らせてね!」

 ネズミ顔ですって?
 それってもしかして、エセ投資家のローレン・ビギナーのこと!?

 
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