上 下
38 / 66

ルーン岬のバカンス(1)

しおりを挟む
 試験が終わり無事に進級が決定したわたしたちは、長期休暇に入った。

 アデルが故郷に帰る前に4人で旅行することとなったのだが、その行き先が――。

「ルーン岬!?」
 驚いて思わず大きな声が出てしまった。

「うん!」
 リリカが元気よく頷く。今回の旅行の幹事はリリカだ。

「叔母さまがルーン岬リゾートの出資者でね、すっごく豪華なホテルの宿泊券をもらっちゃったの!」
「わぁ! すごいですね!」
 アデルが無邪気に手を叩いて喜んでいる。

 しかしわたしの胸中は複雑で、咄嗟にどんな反応をすればいいかわからないまま固まってしまった。
 ハルアカでも長期休暇のバカンスはルーン岬へ行くイベントが発生する。
 
 今回みんなで旅行しょうという話が持ち上がった時に、真っ先にその行き先が脳裏をよぎった。
 リリカを幹事にしておけばルーン岬にはならないだろうと思っていたのに、なんてことだろう……。
 これもシナリオ強制力なのだろうか。

 ゲームシナリオでは、ルーン岬リゾートの出資者にミヒャエルも名を連ねていて、宿泊券を提供するのはドリスだった。
 ヒロインはドリスが苦手だから誘いを断ろうと思うものの、オスカーも一緒に来ると聞いて迷った末に行くことを決意する。
 それほどオスカーが気になる存在になっていたのだ。
 ちなみにハルアカでは、どのキャラで攻略を進めていても、ここは「行く!」の選択肢しか存在しない。

 そしてルーン岬でさらにあるイベントが発生する。
 その流れを思い返していると、カタリナに話しかけられて現実に引き戻される。

「ドリスさんは、あまり気が進まないようね?」
「ち、違うのよ」
 慌てて否定する。
「ルーン岬は、人気のリゾート地でしょう? まさか行けるとは思っていなかったから」

 リリカに向き直った。
「ありがとう。楽しみにしているわね」
「うん! 楽しみだね!」
 
「ではドラール家の馬車を出しますわ」
「やったー!」
「助かります!」
 カタリナの提案に、リリカとアデルが喜んでいる。

「オスカーを同行させてもいいかしら……?」
 盛り上がっている3人におずおずと尋ねてみた。

 カタリナはおそらく侍女をひとり連れてくると思う。
 女子だけの旅に男性のオスカーを同行させるのは、受け入れてもらえるだろうか。

 ハルアカでは婚約者のオスカーとの仲を見せつけようとしたドリスの思惑が外れ、逆にヒロインとオスカーが急接近するイベントが発生する。
 今のわたしは、この3人の誰かとオスカーが円満にハッピーエンドを迎えてくれることを心から望んでいる。
 だから旅先がルーン岬と決まったからには、なんとしてでもオスカーを連れて行かないといけない。

「かまいませんわ」
「うん! いいよー!」
「もちろんです」
 3人が快諾してくれたことにホッとする。

 楽しみにしていてちょうだい。
 ラブラブイベントであなたたちの恋心に火をつけてあげるわっ!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

処理中です...