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閑話 ルークとオスカーの嫉妬
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勉強と投資事業の傍ら孤児院の慰問も続けている。
女の子たちはわたしのお下がりの悪趣味なドレスを大層喜んでくれて、日常的に「悪役令嬢ごっこ」で遊ぶのが流行っているらしい。
まさか、いじめられ役がいて悪役令嬢のわがままを聞くような笑えない遊びなのかと思ったら違っていた。
全員が悪役令嬢になるらしい。
そしてお互いのドレスをお嬢様言葉で褒めあいながら紅茶を飲む。それが「悪役令嬢ごっこ」なんだとか。
彼女たちの悪役令嬢のイメージがそれなんだとしたら、なんとも平和だ。
寄贈したボールは男の子にも女の子にも好評で、お天気の日には中庭にボールの弾む音と子供たちのはしゃぐ声が響くらしい。
わたしも慰問した時にはもちろんボール遊びに参加している。
わたしが見せる剛腕に子供たちが目を丸くするのが痛快だ。
何を隠そう、前世の子供時代はドッジボールが得意だったのよ!
「おりゃあっ!」
掛け声とともに思い切りボールを投げる。
「ドリスお嬢様、ドレスが汚れます」
最初は口うるさく言っていたオスカーだったが、そのたびにボールを投げつけてやったらあきらめた。
オスカーがどんな球筋でもボールをきちんと受け止めるのは気に入らなかったけれど。
孤児院は15歳になれば大人として社会に出ていくことになる。
希望の職業に就ける孤児はいいとして、そうでなかった場合はエーレンベルク伯爵家の使用人にならないかと声をかけている。
我が家はこれまで使用人が極端に少なかった。
ドリスが辞めさせたり、自分から辞めていったりしたせいで人手不足に陥っていた。
だから何人来てくれてもかまわないし、お給料ももちろんしっかり払う。
「ありがとうございます。ドリスお嬢様は慈悲深くていらっしゃいますね」
孤児院のジュネ院長はそう言ってくれるけれど、それは違う。
わたしは慈悲深くなどない。
打算まみれと言ってちょうだい!
ノートとペンをせっせと寄贈し、さらに文字や計算を教えているのだって、この子たちが将来貴族社会を支える優秀な人材になってほしいと期待しているからだ。
大人になった彼らはきっと、わたしを守ってくれるだろう。
ハルアカのドリスはオスカーに追放されたときに修道院を目指した。
孤児院になど見向きもしていなかったドリスは、修道院よりも孤児院のほうが伯爵邸から距離が近いことに気付いていなかったのかもしれない。
わたしは、そうはならない。
万が一、オスカーに追放されそうになっても、孤児院出身の使用人たちが味方してくれるだろうと期待している。
それに間違いなくジュネ院長はわたしを受け入れてくれるだろう。
だから打算まみれだ。
でも子供たちがかわいくてついつい慰問に来てしまうのも本当のことだった。
「ねえ、ルークも15になったらうちに来てちょうだい」
初対面の時にきれいな文字を書いていたルークは、頭がよくてリーダーシップもある。
ぜひ執事見習いとして採用したい。
「俺がドリスを嫁さんにしてやってもいいぜ」
4歳年下のルークはわたしの名を呼び捨てにして生意気なことばかり言う。
「いけません!」
わたしより先に反応したのはオスカーだった。
わたしとルークの間に割って入り、威圧的な態度でルークを見下ろしている。
この男は子供相手になにをやっているんだろうか。
オスカーを押しのけてルークに笑顔で告げた。
「立派ないい男になってね。その時にもう一度わたしにプロポーズしてちょうだい!」
「わかった。待ってろよ」
茶褐色の目をキラキラ輝かせるルークに向かって大きく頷いた。
やったわ! 結婚相手を見つけたわ!
これでエーレンベルク伯爵家も安泰だ。オスカーになど譲ってやるものか。
帰りの馬車の中で上機嫌に頬を緩ませるわたしとは逆に、オスカーはずっと険しい表情だった。
「お嬢様、あの安請け合いはいただけません。立場をお考え下さい」
「あら、考えた上で言ったのよ」
小首を傾げて口角を上げる。
「ルークはわたしを裏切らないし、一途に愛してくれそうだもの。あんなにストレートにプロポーズしてくれるだなんて、好感度爆上がりだわ!」
にっこり笑うわたしを、オスカーが険しい表情のまま見つめていた。
こうして転生してから2年の月日があっという間に過ぎていき、わたしはついに貴族学校の入学を迎えたのだった。
女の子たちはわたしのお下がりの悪趣味なドレスを大層喜んでくれて、日常的に「悪役令嬢ごっこ」で遊ぶのが流行っているらしい。
まさか、いじめられ役がいて悪役令嬢のわがままを聞くような笑えない遊びなのかと思ったら違っていた。
全員が悪役令嬢になるらしい。
そしてお互いのドレスをお嬢様言葉で褒めあいながら紅茶を飲む。それが「悪役令嬢ごっこ」なんだとか。
彼女たちの悪役令嬢のイメージがそれなんだとしたら、なんとも平和だ。
寄贈したボールは男の子にも女の子にも好評で、お天気の日には中庭にボールの弾む音と子供たちのはしゃぐ声が響くらしい。
わたしも慰問した時にはもちろんボール遊びに参加している。
わたしが見せる剛腕に子供たちが目を丸くするのが痛快だ。
何を隠そう、前世の子供時代はドッジボールが得意だったのよ!
「おりゃあっ!」
掛け声とともに思い切りボールを投げる。
「ドリスお嬢様、ドレスが汚れます」
最初は口うるさく言っていたオスカーだったが、そのたびにボールを投げつけてやったらあきらめた。
オスカーがどんな球筋でもボールをきちんと受け止めるのは気に入らなかったけれど。
孤児院は15歳になれば大人として社会に出ていくことになる。
希望の職業に就ける孤児はいいとして、そうでなかった場合はエーレンベルク伯爵家の使用人にならないかと声をかけている。
我が家はこれまで使用人が極端に少なかった。
ドリスが辞めさせたり、自分から辞めていったりしたせいで人手不足に陥っていた。
だから何人来てくれてもかまわないし、お給料ももちろんしっかり払う。
「ありがとうございます。ドリスお嬢様は慈悲深くていらっしゃいますね」
孤児院のジュネ院長はそう言ってくれるけれど、それは違う。
わたしは慈悲深くなどない。
打算まみれと言ってちょうだい!
ノートとペンをせっせと寄贈し、さらに文字や計算を教えているのだって、この子たちが将来貴族社会を支える優秀な人材になってほしいと期待しているからだ。
大人になった彼らはきっと、わたしを守ってくれるだろう。
ハルアカのドリスはオスカーに追放されたときに修道院を目指した。
孤児院になど見向きもしていなかったドリスは、修道院よりも孤児院のほうが伯爵邸から距離が近いことに気付いていなかったのかもしれない。
わたしは、そうはならない。
万が一、オスカーに追放されそうになっても、孤児院出身の使用人たちが味方してくれるだろうと期待している。
それに間違いなくジュネ院長はわたしを受け入れてくれるだろう。
だから打算まみれだ。
でも子供たちがかわいくてついつい慰問に来てしまうのも本当のことだった。
「ねえ、ルークも15になったらうちに来てちょうだい」
初対面の時にきれいな文字を書いていたルークは、頭がよくてリーダーシップもある。
ぜひ執事見習いとして採用したい。
「俺がドリスを嫁さんにしてやってもいいぜ」
4歳年下のルークはわたしの名を呼び捨てにして生意気なことばかり言う。
「いけません!」
わたしより先に反応したのはオスカーだった。
わたしとルークの間に割って入り、威圧的な態度でルークを見下ろしている。
この男は子供相手になにをやっているんだろうか。
オスカーを押しのけてルークに笑顔で告げた。
「立派ないい男になってね。その時にもう一度わたしにプロポーズしてちょうだい!」
「わかった。待ってろよ」
茶褐色の目をキラキラ輝かせるルークに向かって大きく頷いた。
やったわ! 結婚相手を見つけたわ!
これでエーレンベルク伯爵家も安泰だ。オスカーになど譲ってやるものか。
帰りの馬車の中で上機嫌に頬を緩ませるわたしとは逆に、オスカーはずっと険しい表情だった。
「お嬢様、あの安請け合いはいただけません。立場をお考え下さい」
「あら、考えた上で言ったのよ」
小首を傾げて口角を上げる。
「ルークはわたしを裏切らないし、一途に愛してくれそうだもの。あんなにストレートにプロポーズしてくれるだなんて、好感度爆上がりだわ!」
にっこり笑うわたしを、オスカーが険しい表情のまま見つめていた。
こうして転生してから2年の月日があっという間に過ぎていき、わたしはついに貴族学校の入学を迎えたのだった。
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