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ラスボスの正体とロイさんの正体①

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 てくてくと中央に進み出たロイさんが何を言い出すのだろうと全員が見守る中、彼はとんでもない発言をした。

「はい、俺がラスボスね。さあかかってこい」

 棒読みでそう言って大剣を構えたものの、それに反応する者は誰もいない。
 みんな一様に、どういうことだと首を傾げて顔を見合わせている。

「ロイ、おまえ、そんなつまらねえ冗談言うヤツじゃなかっただろ?」
 最初に口を開いたのはジークさんだった。

「冗談なものか。俺こそがラスボスだ、おまえらなんてまとめて蹴散らしてやるよ、ほらかかってこい」
「だっておまえ、冒険者だろ」
 
「バーカ! おまえらみんな俺に騙されてたんだよ!」
「ふざけんな。さっきサイクロプスのラストアタックまで奪ったくせに何言いやがる! 最後の最後で出てきやがってズルいだろうが」

「主役は最後に登場するのがお決まりなんだよ。おまえなんかにラストアタック取らせるかっての、バーカ!」
「ロイ、コラァ! テメーなんざ俺がぶっつぶす!」
「おう、かかってこいよ」

 ロイさんとジークさんの子供の喧嘩のようなやり取りを、一同唖然としながら眺めている。
 もちろんわたしもそのひとりだ。
 わたしたちは何を見せられているんだろうか。

 というか、死んでなかったのね!?
 しかも旦那様がロイさんに変身したように見えたのは、どういうからくりだろう……?

 あの大人げない口の悪さは確かにロイさんだが、彼がラスボスというのはどういうことなのかいまだに理解が追い付かない。
 それでも本人が「我こそはラスボスである」と言うのなら、ラスボス戦のしょっぱなに放つと決めていた作戦を静かに実行した。

 大地の亀裂!

 わたしがダンと片脚を踏み鳴らすと同時にロイさんの足元の地面がぱっくりと割れる。
 
「うわっ……と、あぶね」
 ロイさんの体がふわりと浮いた。

「てめえ、卑怯だぞ! なんで飛べるんだよ!」
 ジークさんの言う通りだ。
 ダンジョン内では浮遊魔法は使えない仕様のはずだ。
 
「なんでってラスボスなんだから何でもありなんだよ! チートだ、バーカ」

 悪びれもせずにそう言って笑うロイさんの様子を見てふと思った。

 大地の亀裂という大技をラスボスに使うことをリーダーたちの作戦会議では話していなかった。地面が深く割れると巻き込まれる人がいるかもしれないため、状況次第では使えないまま終わるかもしれないと思っていたからだ。
 それを事前に知っていたのはエルさんとハットリと、夢の中で会ったロイさんだけのはずだ。

 あれが夢ではなかったのだとすると、ロイさんが簡単に亀裂をかわしたのはわたしがあの時にしゃべったせいかもしれない。
 どうしよう、ラスボスに加担してしまったわ。
 
 混乱して戸惑うばかりでどうしたらいいのかわからない。
 怒りすらわいてこないから、お仕置きドンも撃てそうにないし……。
 助けを求めようとしたエルさんは、お腹を抱えて笑っていてまったく役に立たない状況だ。
 
「なんかよくわかんねえな」
「どうすんのこれ」
「ロイって人間じゃなかったのか?」
「確かに人間離れしてたよな」
 
 ざわめきが大きくなってゆく。
 ラスボス戦の緊張感など微塵もなく、場がすっかりシラけてしまったのは間違いない。
 
 ロイさんが頭を掻きながら安全な場所に降り立った。
「あーもうほんと、こんな茶番やってらんねえよな」

 そして、再び棒読みで宣言したのだった。
「はい降参ですう、参りましたー」
 
 わたしたちが呆然としている中ロイさんの輪郭が揺らぎ始め、彼はこちらに向かって笑顔で言った。
「ヴィー、早くこの亀裂を閉じろ。お宝が全部落っこちるぜ?」

 ハッと我に返って慌てて亀裂を閉じたと同時にロイさんの姿が霧散して消え、その場にはロイさん愛用の大剣だけが残された。
 その直後に大量の戦利品の山が出現し、どこに用意してあったのか天井に花火がパンパンと打ちあがった。

「討伐完了 完全制覇おめでとう!」
 どこからともなく、そんな声が聞こえる。
 声の主はロイさんに違いない。
 
「何がおめでとうだ! ロイのヤツ、ふざけやがってぇぇぇっ!」
 ジークさんが顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。

 こうしてわたしたちは無事に、そして消化不良のままマーシェスダンジョンを踏破したのだった。

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