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3回目の会合です②
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冒険者協会の建物の中に入って一番にしたかったことはペットのくまーの召喚だった。
会長室へ向かう旦那様と別れて、わたしはエルさんたちとともに会議室へ向かった。
ペットはダンジョンと協会の敷地内でのみ召喚できる。
ダンジョン地下49階のボススライムの最後の悪あがきで窒息し、意識を失う直前に見たのはくまーが必死にわたしの方へと駆け寄ってくる姿だった。
ありがとうと、わたしは無事だということを伝えたい。
会議室の手前の廊下で召喚すると、くまーはわたしを見るなり大喜びして緑色のもふもふな体で抱きしめてくれた。
「くまー、心配かけてごめんなさい。あの時わたしの顔に落ちてきたゼリーを取ってくれたんでしょう? ありがとう」
あの時の状況をハットリに聞いたという旦那様によれば、わたしの顔面を覆う大量のゼリーをくまーとハットリで懸命に除去している途中でボスの討伐完了となったらしい。
後でハットリにもお礼を言わないといけない。
エルさんは召喚ペットを「高度なマジックアイテム」と言っているけれど、こんなに感情表現豊かな道具なんてあるんだろうかと思う。
その証拠に、くまーは廊下の向こうから歩いて来たジークさんを見つけると憤怒の表情で怒り出したのだ。
そして止める間もなく、ジークさんとの距離を詰めると見事な左フックをかましてジークさんを吹っ飛ばした。
「さすがヴィーのペットだね! よくやった」
エルさんは手を叩いて喜んでいるけれど、協会内での冒険者同士のいざこざは旦那様が許さないはずだ。
見つかったら氷漬けにされてしまうわっ!
しかもタイミングの悪いことにそこへ旦那様がやって来て、足元に転がるジークさんを見下ろしている。
廊下でひっくり返っているジークさんと尚もファイティングポーズをとり続けるくまー。
何が起きたかは一目瞭然のはずだが、旦那様は無表情でその横を通り過ぎた。
「会議を始めます。みなさんどうぞ中へ」
冷ややかな声でそう告げられただけでお咎めなしとなった。
会議室に入ると、待ち構えていたようにユリウスさんにハグされた。
「ヴィーちゃん、今日は若奥様みたいな服装なんだね。それもよく似合っていてかわいいよ。それよりも心配していたんだよ、大怪我を負ったと聞いたから。元気そうでよかった」
5日前のあの出来事は街で大きな噂となっていたようだ。
その内容の大半がジークさんを酷評するもので、長く彼の腹心を務めていた取り巻きの人たちまでジークさんから距離を置くようになったらしい。
無謀な挑戦の果てに仲間を見捨てて逃げたリーダーを見限ったのか、自分まで後ろ指を指されるのが嫌で離れるふりをしているだけなのかは知らないけれど。
「ユリウスさん、ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」
室内の温度が急に下がった気がして慌ててユリウスさんから離れる。
座長席を見ると、普段よりも冷ややかなアイスブルーの瞳がこちらに向けられていて戦々恐々とした。
ちなみにわたしが協会長の妻であることは伏せる方向で旦那様と申し合わせている。
協会職員として親族でも他人と同等の扱いをするっていうことなんだから、この冷たい視線は妻との距離が近すぎる男への嫉妬ではなく、単に早く会議を始めたいのだがという非難だと思うことにする。
エルさんと並んで椅子に座り、その後ろにトールさんとくまーが立った。
ジークさんへの牽制のために敢えてくまーの姿は見せたままにしたのだが、それは不要だった。
驚いたことに、会議が始まってすぐにジークさんのほうから頭を下げてきたのだ。
「申し訳なかった。あんたの言う通り俺たちだけじゃ無理だった。意地を張って無茶なことをしたと今は反省してる。それと、みっともなくすぐに逃げ出した俺の代わりに仲間を助けてくれてありがとうございました」
ジークさんの真面目な表情や声色、深々と頭を下げる様子からして、口先だけのパーフォーマンスではなさそうだ。
周囲から総スカンをくらったことが相当こたえたのだろう。
それにボススライムに苦戦した挙句、狂暴化に恐れをなして真っ先に逃げ出したことを自分なりに反省しているのならそれでいい。
旦那様の事務的な声が響く。
「地下49階をクリアしたら、ジークさんに討伐隊のリーダーを任せることになっている件に関してはどうしますか?」
「お断りします! 俺には無理です!」
ジークさんが首を横に振る。
ここでもしジークさんが、約束通り俺がリーダーになると不遜な宣言をしたり、今度こそきちんと率いてみせるからリーダーをやらせてくれと懇願してきたら、ここにいる全員が反対しただろう。
リベンジの機会を与えることも大事だが、この場面ではない。
求心力と信用が失墜した今の彼にラスボス戦のリーダーは務まらない。
「では、リーダーは当初の予定通りロイパーティーのヴィーさんということでよろしいですね?」
円卓に座る出席者をぐるっと見回しながら旦那様が言うと全員が拍手をし、わたしは立ち上がって頭を下げた。
「よろしくお願いします。力を合わせてマーシェスダンジョン踏破を達成しましょう」
笑顔ではなく、唇を引き結んで力強く宣言する。
義父を元気づけるために、そしてロイさんが安心して天に召されてくれるように、何としてでもラスボス討伐を成功させようと心に誓ったのだった。
会長室へ向かう旦那様と別れて、わたしはエルさんたちとともに会議室へ向かった。
ペットはダンジョンと協会の敷地内でのみ召喚できる。
ダンジョン地下49階のボススライムの最後の悪あがきで窒息し、意識を失う直前に見たのはくまーが必死にわたしの方へと駆け寄ってくる姿だった。
ありがとうと、わたしは無事だということを伝えたい。
会議室の手前の廊下で召喚すると、くまーはわたしを見るなり大喜びして緑色のもふもふな体で抱きしめてくれた。
「くまー、心配かけてごめんなさい。あの時わたしの顔に落ちてきたゼリーを取ってくれたんでしょう? ありがとう」
あの時の状況をハットリに聞いたという旦那様によれば、わたしの顔面を覆う大量のゼリーをくまーとハットリで懸命に除去している途中でボスの討伐完了となったらしい。
後でハットリにもお礼を言わないといけない。
エルさんは召喚ペットを「高度なマジックアイテム」と言っているけれど、こんなに感情表現豊かな道具なんてあるんだろうかと思う。
その証拠に、くまーは廊下の向こうから歩いて来たジークさんを見つけると憤怒の表情で怒り出したのだ。
そして止める間もなく、ジークさんとの距離を詰めると見事な左フックをかましてジークさんを吹っ飛ばした。
「さすがヴィーのペットだね! よくやった」
エルさんは手を叩いて喜んでいるけれど、協会内での冒険者同士のいざこざは旦那様が許さないはずだ。
見つかったら氷漬けにされてしまうわっ!
しかもタイミングの悪いことにそこへ旦那様がやって来て、足元に転がるジークさんを見下ろしている。
廊下でひっくり返っているジークさんと尚もファイティングポーズをとり続けるくまー。
何が起きたかは一目瞭然のはずだが、旦那様は無表情でその横を通り過ぎた。
「会議を始めます。みなさんどうぞ中へ」
冷ややかな声でそう告げられただけでお咎めなしとなった。
会議室に入ると、待ち構えていたようにユリウスさんにハグされた。
「ヴィーちゃん、今日は若奥様みたいな服装なんだね。それもよく似合っていてかわいいよ。それよりも心配していたんだよ、大怪我を負ったと聞いたから。元気そうでよかった」
5日前のあの出来事は街で大きな噂となっていたようだ。
その内容の大半がジークさんを酷評するもので、長く彼の腹心を務めていた取り巻きの人たちまでジークさんから距離を置くようになったらしい。
無謀な挑戦の果てに仲間を見捨てて逃げたリーダーを見限ったのか、自分まで後ろ指を指されるのが嫌で離れるふりをしているだけなのかは知らないけれど。
「ユリウスさん、ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」
室内の温度が急に下がった気がして慌ててユリウスさんから離れる。
座長席を見ると、普段よりも冷ややかなアイスブルーの瞳がこちらに向けられていて戦々恐々とした。
ちなみにわたしが協会長の妻であることは伏せる方向で旦那様と申し合わせている。
協会職員として親族でも他人と同等の扱いをするっていうことなんだから、この冷たい視線は妻との距離が近すぎる男への嫉妬ではなく、単に早く会議を始めたいのだがという非難だと思うことにする。
エルさんと並んで椅子に座り、その後ろにトールさんとくまーが立った。
ジークさんへの牽制のために敢えてくまーの姿は見せたままにしたのだが、それは不要だった。
驚いたことに、会議が始まってすぐにジークさんのほうから頭を下げてきたのだ。
「申し訳なかった。あんたの言う通り俺たちだけじゃ無理だった。意地を張って無茶なことをしたと今は反省してる。それと、みっともなくすぐに逃げ出した俺の代わりに仲間を助けてくれてありがとうございました」
ジークさんの真面目な表情や声色、深々と頭を下げる様子からして、口先だけのパーフォーマンスではなさそうだ。
周囲から総スカンをくらったことが相当こたえたのだろう。
それにボススライムに苦戦した挙句、狂暴化に恐れをなして真っ先に逃げ出したことを自分なりに反省しているのならそれでいい。
旦那様の事務的な声が響く。
「地下49階をクリアしたら、ジークさんに討伐隊のリーダーを任せることになっている件に関してはどうしますか?」
「お断りします! 俺には無理です!」
ジークさんが首を横に振る。
ここでもしジークさんが、約束通り俺がリーダーになると不遜な宣言をしたり、今度こそきちんと率いてみせるからリーダーをやらせてくれと懇願してきたら、ここにいる全員が反対しただろう。
リベンジの機会を与えることも大事だが、この場面ではない。
求心力と信用が失墜した今の彼にラスボス戦のリーダーは務まらない。
「では、リーダーは当初の予定通りロイパーティーのヴィーさんということでよろしいですね?」
円卓に座る出席者をぐるっと見回しながら旦那様が言うと全員が拍手をし、わたしは立ち上がって頭を下げた。
「よろしくお願いします。力を合わせてマーシェスダンジョン踏破を達成しましょう」
笑顔ではなく、唇を引き結んで力強く宣言する。
義父を元気づけるために、そしてロイさんが安心して天に召されてくれるように、何としてでもラスボス討伐を成功させようと心に誓ったのだった。
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