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3回目の会合です①
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ジークパーティーが地下49階をクリアしたことを受けて三回目の会合が招集されたのは、わたしが実家に担ぎ込まれた5日後のことだった。
わたしはそれまでの間、王都のマーシェス侯爵家の本宅で過ごした。
訪問の前日にわたしが実家で神官による治療を受けたことは義両親には内緒にして予定通りの訪問を装った。
領地の屋敷の方もあの日わたしが姿を消した件に関して旦那様が上手くごまかしてくれたようだ。
夜は旦那様と同じベッドで眠ったけれど、本当の夫婦になるのはダンジョン攻略が終わってからと約束している。
だから手を繋いで寝るだけという、この歳になって何ともおままごとのようなわたしたちだ。
「こういうのを生殺しと言うのだな」
毎朝旦那様がブツブツつぶいていたけれど、お仕置きだと思ってもらいたい。
わたしたちが頻繁に視線を絡めて微笑み合う様子を見て、義母はとても喜んでいる。
早くこちらで一緒に暮らそうと熱心に言うお義母様への返答に困っていると、旦那様が助け舟を出してくれた。
「ヴィクトリアにも冒険者協会の仕事を手伝ってもらっているところなんです。もうすぐ落ち着くと思いますから楽しみにしておいてください」
義父は会うたびに少しずつ衰弱している。
きっと義母もそれが不安で、息子夫婦にそばにいてほしいのだと思う。
冒険者協会の先代会長だった義父にダンジョンの大樹が開花したと報告したら喜んでくれるだろう。
早くダンジョンの攻略を終えて王都での同居を開始しなければという新たな目標を秘めて迎えた三回目の会合だった。
もう変装する必要のなくなったわたしは、普段着のワンピースを着てやって来た。
旦那様とともに冒険者協会の入り口で馬車から降りたところで聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、いきなりぎゅうっと抱きしめられた。
「ヴィー! 心配していたんだよ、頭を打った上に窒息したんだろう? 怖い目に遭ったね、そばにいてやれなくてごめん」
お腹に大穴が空いたことのあるあなたより全然マシです。
そう言おうと思ったらグイッと引き離されて、わたしとエルさんの間に不機嫌そうな顔をした旦那様が立ちはだかった。
「やめろ、触るな」
「嫉妬深い男は嫌われるって知らないのか? 愛人問題が解決したら突然独占欲むき出しかよ」
「愛人問題など元々ない。人聞きの悪いことを言うな」
「あははっ」
ふたりのやり取りから察するに、旦那様はエルさんの正体がエリック殿下だと知っている様子だ。
では、あの夜会でエリック殿下に紹介したいと言っていたのは、わたしとエルさんを引き合わせることでぼろを出したわたしが自ら冒険者であると白状することを狙っていたんだろうか。
「エルさんて、わたしの旦那様がマーシェス侯爵だって最初から知っていたってことですよね?」
思わず声が低くなる。
旦那様が冒険者のヴィーだと知りながらわたしに求婚してきたとき、エリック殿下の推薦状を携えていたのだ。普通に考えて知らなかったはずがない。
全部知りながらニヤニヤしていたとは、なんて悪趣味なんだろうか。
「ヴィー」
エルさんが憂いを含んだ微笑みでわたしの手を両手で包み込んだ。
「立場上あれこれ言えないことがたくさんあるんだ。わかってくれるよね」
この人はいつもこうやって奥様のことも煙に巻いているに違いない。
それはズルい言い訳だと抗議しようとした時に、上からシュパッと手刀が振り下ろされて手が離れた。
「だから、触るな!」
旦那様がより一層不機嫌そうな顔をしている。
ここは話題を変えた方がよさそうだ。氷漬けにされたらたまらない。
焦りながら、ところでエルさんはどうしてここにいるのかと聞くと、もちろん会合に参加するためだと言われて戸惑ってしまう。
「なぜですか?」
「なぜって、ジークに文句を言ってやらないと気が済まないからだよ。もしも次の討伐隊のリーダーになるってまだ主張するなら僕があいつの頭をソニックブームで吹っ飛ばしてやるから、任せてね」
にっこり笑いながら怖いことを言わないでください!
「それよりも……わたしロイさんのこと、わかっちゃったんです!」
エルさんは、わたしの正体を知っていながらずっと知らないふりをしていたのだ。本当はロイさんのことだって知っているに違いない。
「え! 気づいたの?」
ほら、その言い方。やっぱり知ってるんだわ。
ここ数日、ロイさんと再会した時のことを思い返す度にあれこれ考えて、やっぱりそうなんだと納得して気持ちの整理はもうついている。
少々声を潜めて静かに告げた。
「ロイさんって、もう死んでるんですよね?」
そう言うや否やエルさんとトールさんは同時にブッと吹き出して笑い始め、旦那様は残念そうに肩を落とした。
わたしが真面目な話をしていると言うのに、エルさんだけでなく寡黙なトールさんまで笑ってるってどういうこと!?
ロイさんが死んだと思ったのは勘違いだったんだろうか。
「いや、そう思ってくれていい。うん、それがいい」
そう答えたのは旦那様だった。
残念そうな表情の理由はやっぱりロイさんがもうこの世にいないということなのだろう。
口調の歯切れの悪さは、すでにロイさんが冒険者ではないにしても守秘義務違反になる恐れがあるからに違いない。
「やっぱりそうだったんですね……」
しんみるするわたしの横で、尚もエルさんがお腹を抱えて笑い続けていたのだった。
わたしはそれまでの間、王都のマーシェス侯爵家の本宅で過ごした。
訪問の前日にわたしが実家で神官による治療を受けたことは義両親には内緒にして予定通りの訪問を装った。
領地の屋敷の方もあの日わたしが姿を消した件に関して旦那様が上手くごまかしてくれたようだ。
夜は旦那様と同じベッドで眠ったけれど、本当の夫婦になるのはダンジョン攻略が終わってからと約束している。
だから手を繋いで寝るだけという、この歳になって何ともおままごとのようなわたしたちだ。
「こういうのを生殺しと言うのだな」
毎朝旦那様がブツブツつぶいていたけれど、お仕置きだと思ってもらいたい。
わたしたちが頻繁に視線を絡めて微笑み合う様子を見て、義母はとても喜んでいる。
早くこちらで一緒に暮らそうと熱心に言うお義母様への返答に困っていると、旦那様が助け舟を出してくれた。
「ヴィクトリアにも冒険者協会の仕事を手伝ってもらっているところなんです。もうすぐ落ち着くと思いますから楽しみにしておいてください」
義父は会うたびに少しずつ衰弱している。
きっと義母もそれが不安で、息子夫婦にそばにいてほしいのだと思う。
冒険者協会の先代会長だった義父にダンジョンの大樹が開花したと報告したら喜んでくれるだろう。
早くダンジョンの攻略を終えて王都での同居を開始しなければという新たな目標を秘めて迎えた三回目の会合だった。
もう変装する必要のなくなったわたしは、普段着のワンピースを着てやって来た。
旦那様とともに冒険者協会の入り口で馬車から降りたところで聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、いきなりぎゅうっと抱きしめられた。
「ヴィー! 心配していたんだよ、頭を打った上に窒息したんだろう? 怖い目に遭ったね、そばにいてやれなくてごめん」
お腹に大穴が空いたことのあるあなたより全然マシです。
そう言おうと思ったらグイッと引き離されて、わたしとエルさんの間に不機嫌そうな顔をした旦那様が立ちはだかった。
「やめろ、触るな」
「嫉妬深い男は嫌われるって知らないのか? 愛人問題が解決したら突然独占欲むき出しかよ」
「愛人問題など元々ない。人聞きの悪いことを言うな」
「あははっ」
ふたりのやり取りから察するに、旦那様はエルさんの正体がエリック殿下だと知っている様子だ。
では、あの夜会でエリック殿下に紹介したいと言っていたのは、わたしとエルさんを引き合わせることでぼろを出したわたしが自ら冒険者であると白状することを狙っていたんだろうか。
「エルさんて、わたしの旦那様がマーシェス侯爵だって最初から知っていたってことですよね?」
思わず声が低くなる。
旦那様が冒険者のヴィーだと知りながらわたしに求婚してきたとき、エリック殿下の推薦状を携えていたのだ。普通に考えて知らなかったはずがない。
全部知りながらニヤニヤしていたとは、なんて悪趣味なんだろうか。
「ヴィー」
エルさんが憂いを含んだ微笑みでわたしの手を両手で包み込んだ。
「立場上あれこれ言えないことがたくさんあるんだ。わかってくれるよね」
この人はいつもこうやって奥様のことも煙に巻いているに違いない。
それはズルい言い訳だと抗議しようとした時に、上からシュパッと手刀が振り下ろされて手が離れた。
「だから、触るな!」
旦那様がより一層不機嫌そうな顔をしている。
ここは話題を変えた方がよさそうだ。氷漬けにされたらたまらない。
焦りながら、ところでエルさんはどうしてここにいるのかと聞くと、もちろん会合に参加するためだと言われて戸惑ってしまう。
「なぜですか?」
「なぜって、ジークに文句を言ってやらないと気が済まないからだよ。もしも次の討伐隊のリーダーになるってまだ主張するなら僕があいつの頭をソニックブームで吹っ飛ばしてやるから、任せてね」
にっこり笑いながら怖いことを言わないでください!
「それよりも……わたしロイさんのこと、わかっちゃったんです!」
エルさんは、わたしの正体を知っていながらずっと知らないふりをしていたのだ。本当はロイさんのことだって知っているに違いない。
「え! 気づいたの?」
ほら、その言い方。やっぱり知ってるんだわ。
ここ数日、ロイさんと再会した時のことを思い返す度にあれこれ考えて、やっぱりそうなんだと納得して気持ちの整理はもうついている。
少々声を潜めて静かに告げた。
「ロイさんって、もう死んでるんですよね?」
そう言うや否やエルさんとトールさんは同時にブッと吹き出して笑い始め、旦那様は残念そうに肩を落とした。
わたしが真面目な話をしていると言うのに、エルさんだけでなく寡黙なトールさんまで笑ってるってどういうこと!?
ロイさんが死んだと思ったのは勘違いだったんだろうか。
「いや、そう思ってくれていい。うん、それがいい」
そう答えたのは旦那様だった。
残念そうな表情の理由はやっぱりロイさんがもうこの世にいないということなのだろう。
口調の歯切れの悪さは、すでにロイさんが冒険者ではないにしても守秘義務違反になる恐れがあるからに違いない。
「やっぱりそうだったんですね……」
しんみるするわたしの横で、尚もエルさんがお腹を抱えて笑い続けていたのだった。
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