52 / 80
旦那様Side①
しおりを挟む
「早く追いついてみせなさいよ」
会合の席で、いけ好かないジークに向かってそう言い放ったヴィーは、実に堂々としていた。
短気なジークが怒っていまにも殴りかかるのではないかという一触即発の状況になっても一歩も引かず、むしろ応戦するように人差し指を立てるものだから、待ったをかけた。
あのまま傍観し続けていたら、ジークの頭が吹っ飛んでいたかもしれない。
それを見たい気持ちもほんの少しあったが、座長として看過するわけにもいかないため氷漬けにすると脅して止めたのだ。
地下49階をクリアすれば最下層のリーダーを譲る提案は、簡単なようでいてなかなか困難だ。
あの階層はゼリースライムというブヨブヨの魔物が大量に出現し、フロアボスも巨大なゼリースライムだ。
ジークパーティーの基本戦術が物理攻撃のアタッカーでごり押しするスタイルのため、この手の魔物にはめっぽう弱い。
刃物で切れないわけではないし時間をかければ倒せる。しかしそれでは、与えるダメージ量が少なくて体力の消耗が激しい。
しかも刃にべったりくっつくゼリー状の残滓を頻繁に拭きとる手間を考えると、強力な魔術師がいないと厳しい。
ロイパーティーはエリックとヴィーを中心に、魔術師たちが魔力回復エーテルをガブ飲みしながら魔法で凍結させたスライムを物理攻撃で粉砕。
あるいは泥沼に誘導して沈めたりと、魔法を駆使して前進したらしい。
ボスにはあらゆる属性の強力な魔法をぶつける「魔法ゴリ押し」であっさり攻略したと聞いている。
ジークパーティーが同じ作戦で攻略するためには、まず使える魔術師たちを募るところから始めなければならない。
ヴィーもそれがわかっているから「何週間かかっても、何か月かかっても」と言ったのだ。
今回のヴィーの服装は、前回と同じ「ニンジャスタイル」ではあるものの、借り物ではなくきちんとあつらえた物だった。
エリックによれば、ロイパーティーの新人がニンジャという耳慣れない職種で、ヴィーと仲がいいらしい。おまけにペットまで持っているとか。
嫉妬しかない。
なんとも腹立たしい限りだ。
自分の抜けた穴が大きいことはわかっていた。
だからせめてもと思って、受付のアナベルには有望な新人が来たら、まずロイパーティーを斡旋してほしいとお願いした。
「ロイパーティーの士気低下は、マーシェスダンジョン全体の稼働率低下につながるから」
そんな理由で。
陰ながら応援している気持ちは、ヴィーにはまったく伝わっていないようだけれど。
イカ焼きを食べてながら試しにクラーケン討伐の話を振ってみたが、相変わらず俺の正体に気付く気配がない。
ただし「ロイ」の姿は思い返していたようだった。
寂しそうな顔で大樹を見上げたヴィーは、静かに泣いていた。
衝動的にヴィーの手を強く握る。
「しばらく王都で暮らさないか。母が会いたがっているんだ」
ヴィーは少し驚いた様子で何度か目を瞬いた後、にっこり笑って了承してくれた。
「はい。明日は孤児院の慰問があるので、三日後からでいいでしょうか。準備しておきますね」
「楽しみに待ってる」
もうあれこれ考えるのはやめて、ヴィーが王都の本宅に来たら正直に打ち明けよう。
もしも責められたら、ヴィーの気が済むまで許しを請おう。
そして本当の夫婦になろう。
そう決心したのに――。
会合の席で、いけ好かないジークに向かってそう言い放ったヴィーは、実に堂々としていた。
短気なジークが怒っていまにも殴りかかるのではないかという一触即発の状況になっても一歩も引かず、むしろ応戦するように人差し指を立てるものだから、待ったをかけた。
あのまま傍観し続けていたら、ジークの頭が吹っ飛んでいたかもしれない。
それを見たい気持ちもほんの少しあったが、座長として看過するわけにもいかないため氷漬けにすると脅して止めたのだ。
地下49階をクリアすれば最下層のリーダーを譲る提案は、簡単なようでいてなかなか困難だ。
あの階層はゼリースライムというブヨブヨの魔物が大量に出現し、フロアボスも巨大なゼリースライムだ。
ジークパーティーの基本戦術が物理攻撃のアタッカーでごり押しするスタイルのため、この手の魔物にはめっぽう弱い。
刃物で切れないわけではないし時間をかければ倒せる。しかしそれでは、与えるダメージ量が少なくて体力の消耗が激しい。
しかも刃にべったりくっつくゼリー状の残滓を頻繁に拭きとる手間を考えると、強力な魔術師がいないと厳しい。
ロイパーティーはエリックとヴィーを中心に、魔術師たちが魔力回復エーテルをガブ飲みしながら魔法で凍結させたスライムを物理攻撃で粉砕。
あるいは泥沼に誘導して沈めたりと、魔法を駆使して前進したらしい。
ボスにはあらゆる属性の強力な魔法をぶつける「魔法ゴリ押し」であっさり攻略したと聞いている。
ジークパーティーが同じ作戦で攻略するためには、まず使える魔術師たちを募るところから始めなければならない。
ヴィーもそれがわかっているから「何週間かかっても、何か月かかっても」と言ったのだ。
今回のヴィーの服装は、前回と同じ「ニンジャスタイル」ではあるものの、借り物ではなくきちんとあつらえた物だった。
エリックによれば、ロイパーティーの新人がニンジャという耳慣れない職種で、ヴィーと仲がいいらしい。おまけにペットまで持っているとか。
嫉妬しかない。
なんとも腹立たしい限りだ。
自分の抜けた穴が大きいことはわかっていた。
だからせめてもと思って、受付のアナベルには有望な新人が来たら、まずロイパーティーを斡旋してほしいとお願いした。
「ロイパーティーの士気低下は、マーシェスダンジョン全体の稼働率低下につながるから」
そんな理由で。
陰ながら応援している気持ちは、ヴィーにはまったく伝わっていないようだけれど。
イカ焼きを食べてながら試しにクラーケン討伐の話を振ってみたが、相変わらず俺の正体に気付く気配がない。
ただし「ロイ」の姿は思い返していたようだった。
寂しそうな顔で大樹を見上げたヴィーは、静かに泣いていた。
衝動的にヴィーの手を強く握る。
「しばらく王都で暮らさないか。母が会いたがっているんだ」
ヴィーは少し驚いた様子で何度か目を瞬いた後、にっこり笑って了承してくれた。
「はい。明日は孤児院の慰問があるので、三日後からでいいでしょうか。準備しておきますね」
「楽しみに待ってる」
もうあれこれ考えるのはやめて、ヴィーが王都の本宅に来たら正直に打ち明けよう。
もしも責められたら、ヴィーの気が済むまで許しを請おう。
そして本当の夫婦になろう。
そう決心したのに――。
30
お気に入りに追加
1,945
あなたにおすすめの小説
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです
珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。
そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。
日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる