白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美

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ミミックにおさげを食べられました④

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「どうしようっ、どうしたらいいのおぉぉぉっ!」
 わたしは頭を抱えた。
 
 細切れにしたミミックから出た戦利品は実に豪華だった。
 大量のイリジム鉱石をはじめとする鉱石類、金貨、冒険者が落としたのかそれとも食べた冒険者が身に着いていたのか盾や剣といった装備品に高価そうな懐中時計、武器にはめ込む魔石もどっさり出た。
 
 どうやらあのミミックは長い間討伐されることなくダンジョン内を徘徊していたようだ。
 しかしその戦利品の中に肝心なものがなかった。
 そう、わたしのおさげが見当たらなかったのだ。
 
「しょうがない、人毛は戦利品じゃないってことだろ」
 
 おのれハットリめ、他人事だと思って笑ってんじゃないわよっ。

 ちぎれていても、せめてあのおさげが戻ってくれば復元するなりピンで止めてごまかすことができたかもしれないのに!
 ご機嫌なハットリの様子に腹が立つ。

 ハットリがご機嫌なのは、地下41階で思った以上に上手く戦えたことや(もちろんエルさんのおかげだ)、イリジム鉱石が大量に手に入ったこと(全部持ち帰れたのはペットのおかげだ)、そしてその大量の戦利品を冒険者協会の裏手にある広場でペットから取り出したときに、周りで見ていた冒険者たちの羨望の眼差しを集めたためだ。
 
「あいつ、誰だ?」
「ロイパーティーの新人らしい」
「BAN姉さんを攻略してペットを持ってるんだとさ」

 そんな声がしっかり聞こえているハットリは、わざとほっかむりを取ってドヤ顔を晒している。
 ゲットしたイリジム鉱石で新たなクナイを作ってもらう交渉をハットリと鍛冶屋がしはじめたところで、わたしはひと足先に酒場に戻ってきた。
 
 ビアンカさんの回復魔法で失った三つ編みをどうにかできないかと期待していたのだが……。
 
 髪がちぎれたのは怪我や病気ではないから、ヒーリングをしても髪が急激に伸びたり復元したりはしないと言われてしまった。
 それでもとお願いしてヒーリングを施してもらった結果、引き倒されたときにミミックの箱の縁にぶつけてできた後頭部のコブが消滅しただけだった。
 
「ヒーリングで割れたお皿が元に戻らないのと同じってことよ。ごめんね、ヴィーちゃん」
 腰までの長さがあった三つ編みと食器を一緒にしないでもらいたいとは思ったものの、心底申し訳なさそうにしているビアンカさんにこれ以上わがままを言ったり八つ当たりするのは筋違いだろう。
 
 となると最後の望みは……。
「わたしにも変身魔法をかけてくださいっ!」
 ハットリと一緒に遅れて帰ってきたエルさんに飛びついた。

 エルさんのように見た目を変えてしまえばいいんだ。
 そうしたら、急に髪が短くなったということに気づく人はいないわけで、お屋敷であれこれ胡散臭そうな目で見られることもない。
 いい考えだと思ったが、エルさんの答えはノーだった。

「この容姿を変える魔法はね、本当に変えているわけではないんだよ。見る側に錯覚を起こさせているんだ。僕を見る全ての人の視覚に作用するとても高度で持久力のいる闇魔法だってこと」
 闇魔法ですって!?
「だからここで僕がヴィーにその魔法をかけてもね、ヴィー自身がそれを維持できなければすぐに解けてしまうんだ。わかる?」

 しょんぼりしながらトールさんを見上げる。
「じゃあトールさんも、自分でその魔法を維持しているってことですか?」
 トールさんは無言のままこくこくと頷く。
 ただその眼差しは、いつになく同情的だ。

 第二王子の近衛兵だものね、それぐらいの魔法が使えて当然か。
 仕方ない。

 気分転換に図書室の中で自分で髪を切ったと言うしかないだろう。
 肩の少し上でざんばらになった髪を手櫛でといた。
 髪を代償にして「お仕置きドン」を会得できたのなら本望だ。髪は少しずつ伸びていつか元通りになる! そう自分に言い聞かせてみても、気が晴れない。

 ダンジョンの戦闘中に考え事をしていたわたしの不注意が招いたことではあるけど、そもそも「お仕置きドン」をマスターしたいと思ったのは旦那様にお仕置きしたいからであって、ということはつまり……。

「こうなったのも全部、旦那様のせいよっ!」
 拳を握って叫ぶと、エルさんが慌てた様子でわたしのその手を両手で包み込む。

「わあぁぁぁっ、ヴィー落ち着いて。拳からヘンな煙が出てるよ、怖いなあもう」
 そして眉を八の字にして、心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。
 
「ヴィーの旦那様ってさ、本当に愛人がいるの? もう一度よく考えてみたらいいかもしれないよ」
 
 もう一度よく?
 初夜で言われたことを思い出せってこと?

 なだめようとしているのか、エルさんがわたしの背中をトントンしながらソファに座らせてくれた。
 腰を落ち着けたちょうどいいタイミングでハットリがグリーンティーを差し出してくれる。
 
 ありがたくそれを頂戴しながら、気持ちを落ち着けてあの夜に旦那様から言われたことを思い出してみた。
 たしか「きみを抱くことは控えさせてもらう」「酷いことを言っているという自覚はある」だったかしら。
 愛人がいるとは一言も言われていないけど、それ以外に理由があるのだとしたら何だろう。
 
 ————!
 まさか……。

「もしかすると旦那様は、男色家なのかも!」
 
 一緒にグリーンティーを飲んでいた男3人が一斉にブッ!と吹き出した。

「あ、夕食の時間なので帰りますね。お疲れさまでした」
 
 慌てて鉢植えにダイブしたとき「あーあ、もう知らなーい」というエルさんの呆れた声が聞こえた。

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