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ミミックにおさげを食べられました②

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 第一印象は最悪だったけど、結果的にロイさんたちのおかげでくまーと大金を手に入れたわけだし、まあ数回手伝ってあげようか。
 最初はそういうつもりだった。
 初心者で何の取柄もないわたしが、いきなり最前線で戦えるはずなどないことぐらいわかっていたから。
 
「それで転移装置で戻ったんだけど、ここでロイさんが『あ゛~~~っ!』って叫んで膝から崩れ落ちたんですよね」
「そんなこともあったねえ」
 エルさんと当時のことをハットリに説明しながら地下41層にやってきた。
 背後でトールさんも無言のままうんうんと頷いている。
 
「入り口で何かあったってことか?」
 言っている意味がわからないといった様子でハットリが首を傾げた。
 
「ここで拾ったイリジム鉱石を、このあたりまで運んで積み上げていたらしいの。少しずつ運べないかってことでね。それが全て消えていたのよ」
 あのときのロイさんの取り乱しようを思い出して、笑いながら答える。
 
「他のパーティーに取られたってことか?」
「いい線いってるけど、そうじゃなかったの」
 
 たしかに戦利品をよそのパーティーに横取りされて揉めることもある。
 でもあの頃はまだ、この階層まで到達しているパーティーがほとんどない状況で、ロイさんたちが離れていた時間もさほど長くなかった。
 よほどの人海戦術でも使わない限り、そんな短時間で全て奪える量ではなかったらしい。

 では消えたのはなぜか。
 ロイさんたちはミミックの仕業だと断定した。
 
 ミミックは宝箱に擬態した魔物だ。
 ダンジョンの片隅で宝箱のふりをしながら獲物を待ち続けるトラップ的な魔物と思われがちだが、実は彼らの行動範囲は広く、マーシェスダンジョンでは階層を越えてどこにでも出没する唯一の魔物でもある。
 
 とても悪食で、何でも食べることで有名だ。
 宝箱と勘違いして近づいた冒険者はもちろんのこと、仲間であるはずの魔物や、冒険者たちの落とし物、拾い損ねた戦利品など、有機物無機物問わず何でも食べる。

 魔物としての攻略難易度は意外と高く、一対一で戦うと負けてしまうこともある。
 負けたらもちろん食べられてしまうわけで、ある程度食べられたところでダンジョンの外へ自動転送されるのだが、治療が遅れて足が元通りにならなかった冒険者もいるらしい。
 
 ミミックを倒すメリットは、なんといっても報酬だ。
 これまでその個体が飲み込んでいた戦利品や落とし物が全てドロップするという、まさに「宝箱」なのだ。
 当たりはずれはもちろんあるけれど、金貨だけでも相当な額で、腕に自信のある冒険者ならミミックとのエンカウントは幸運に分類される。
 
「で、そのミミックは見つかったのか?」
「うん、ミミックがまだこの階層にいたの。ロイさんったら、そこまでギッタンギッタンにしなくてもって呆れるぐらいに圧倒して取り戻したの」
 あのときのロイさんを思い出して、また笑いが込み上げてくる。
 
 そうやってハットリと話している間も、わたしたちはせっせと岩石系の魔物を倒していく。
 アタッカーはハットリとトールさんで、エルさんは戦闘補助バッファーとしてふたりの身体強化と武器に雷撃を付与している。
 岩石系の魔物は、魔法攻撃を単体で使用するよりも物理攻撃と組み合わせた方が効率よく倒していける。
 
 そして、通路の先に敵が何体潜んでいるか地面に手を当てて探索したり、自爆岩の自爆攻撃に合わせて土壁のシールドを展開したり、岩ゴーレムの足元に泥の沼を出現させて動きを封じたりするのが、サポーターとしてのわたしの役割だ。
 
 戦利品の鉱石や金貨、ハットリが投げたシュリケンは、くまーとサラちゃんがせっせと拾い集めている。
 もちろん重たいイリジム鉱石もラクラクお腹に収めていくのだから、見ていて清々しさしかない。

 自爆岩か岩ゴーレム以外の魔物とのエンカウントの時は、わたしのサポートは不要だ。
 その合間にわたしは「お仕置きドン」のイメージトレーニングに励んでいた。
 そもそも、それがしたくてここへやって来たのだから。
 
「人差し指一本で瞬時に衝撃波ソニックブームを出そうっていうのがおかしいと思うよ。せめて手のひら全体を使って、そこにエネルギーを溜めるための時間も必要だよね」
 
 わたしのイメージがより具体的になるよう、エルさんが「音速を越える」とか「圧力変動が……」とあれこれ難しい話を持ち出して、ソニックブームとはなんぞやを説明してくれた。

 なにもそこまで大げさなものじゃなくて、旦那様をちょっとこらしめる程度でいいんだけどね?
 だってそんな魔法をまともに受けたら、旦那様が死んでしまうかもしれないじゃないの。

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