41 / 80
旦那様へのお仕置きを妄想してみました③
しおりを挟む
領地に戻った翌日の昼下がり、数日ぶりに会うハットリは相変わらず酒場の2階で寝泊まりし、毎日地図を頼りにソロでダンジョンの低層階を攻略しているらしい。
加入早々ほったらかしで申し訳ないとは思っているが、これが我がパーティーの現状だ。
カリスマ的な存在だったロイさんがいなくなってバラバラになってしまった。
みんなそれなりの手練れであるため、そこそこの階層までならソロか2、3人で十分攻略できる。
召集を呼びかけない限りは、この部屋へは立ち寄らずに直接ダンジョンに行ってそのまま帰るというスタイルが主流になった。
「地下のはずなのに海があったり、日が照っていたり、ダンジョンって不思議だよなあ」
ハットリがクナイの手入れをしながら首を傾げている。
ダンジョンの階層は「地下何階」と表現されているが、実際は地下深くに存在しているわけではなく異空間だ。
ダンジョン内でのみ使える転移装置や繰り返しリポップする魔物たちをダンジョンの外に持ち出すことはできないし、ダンジョンの外に魔物が出ることもない。
ただし、倒した魔物から得られる戦利品や宝箱の中身は持ち出せるという、なんとも都合のいいシステムになっている。
イカ焼きの原料であるクラーケンは、定期的に冒険者協会が主催してパーティーの枠を超えた討伐隊を組んで倒しに行くのが恒例のお祭りイベントだ。
ダンジョンは、今から200年ほど前に存在した偉大な魔術師ダニエル・ローグが生み出した魔法空間。
各領主の元に『活用していない土地にダンジョンという娯楽はいかがですか』との謳い文句の案内チラシと取扱説明書と共に、握りこぶし大の種が送りつけられたのが始まりだと語り継がれている。
ちなみにわたしの実家であるクラリッド男爵家が国王陛下から爵位と領地を賜ったのは100年ほど前のため、残念ながらご先祖様は「ダンジョンの種」をもらっていない。
いや、もらっていたとしても大半の領主は一方的に送られてきたその種を訝って、土に埋めることなく処分してしまったようだから、うちもおそらくそうしていたことだろう。
マーシェスダンジョンがあるこの周辺の土地は元々、農業にも牧畜にも向いていない乾いた荒れ地が広がっていたようだ。
だからこそ、そこに種を蒔いてみる気になったのかもしれない。
マーシェスダンジョンの場合は樹が大きくなるにつれて土壌も豊かになり、ダンジョン内に次々に新たな階層が生まれた。
そこに冒険者が集まると街が発展していくという良いことづくめだったわけだが、よその領地では上手く育たないまま枯れてしまった樹も多かったと聞く。
「ダニエル・ローグが自分の魔術の集大成として作った種は無限の可能性を持っていたって言われていて、早い話が何でもありってことみたいね。マーシェスダンジョンは地下50階が最下層みたいだけど、今後さらに拡張される可能性だってあるみたいよ」
実はこういったダンジョンの起源の話は、ダンジョンガイドブックやダンジョンの研究書からの受け売りだ。
でもハットリは、感心したように何度も頷いている。
わたしは話をしながら人差し指と親指を立てて拳銃のようにし、「お仕置きドン」のイメトレ中だ。
その様子を見たハットリに何をしているのかと尋ねられ、愛人を囲っている夫にいつかお仕置きしてやるのだと説明する。
「風魔法になるのかしら。指先からドン! って衝撃波を出して旦那様にお仕置きしてやるんだから!」
「こえーな、おい」
ハットリが呆れたようにつぶやいた。
加入早々ほったらかしで申し訳ないとは思っているが、これが我がパーティーの現状だ。
カリスマ的な存在だったロイさんがいなくなってバラバラになってしまった。
みんなそれなりの手練れであるため、そこそこの階層までならソロか2、3人で十分攻略できる。
召集を呼びかけない限りは、この部屋へは立ち寄らずに直接ダンジョンに行ってそのまま帰るというスタイルが主流になった。
「地下のはずなのに海があったり、日が照っていたり、ダンジョンって不思議だよなあ」
ハットリがクナイの手入れをしながら首を傾げている。
ダンジョンの階層は「地下何階」と表現されているが、実際は地下深くに存在しているわけではなく異空間だ。
ダンジョン内でのみ使える転移装置や繰り返しリポップする魔物たちをダンジョンの外に持ち出すことはできないし、ダンジョンの外に魔物が出ることもない。
ただし、倒した魔物から得られる戦利品や宝箱の中身は持ち出せるという、なんとも都合のいいシステムになっている。
イカ焼きの原料であるクラーケンは、定期的に冒険者協会が主催してパーティーの枠を超えた討伐隊を組んで倒しに行くのが恒例のお祭りイベントだ。
ダンジョンは、今から200年ほど前に存在した偉大な魔術師ダニエル・ローグが生み出した魔法空間。
各領主の元に『活用していない土地にダンジョンという娯楽はいかがですか』との謳い文句の案内チラシと取扱説明書と共に、握りこぶし大の種が送りつけられたのが始まりだと語り継がれている。
ちなみにわたしの実家であるクラリッド男爵家が国王陛下から爵位と領地を賜ったのは100年ほど前のため、残念ながらご先祖様は「ダンジョンの種」をもらっていない。
いや、もらっていたとしても大半の領主は一方的に送られてきたその種を訝って、土に埋めることなく処分してしまったようだから、うちもおそらくそうしていたことだろう。
マーシェスダンジョンがあるこの周辺の土地は元々、農業にも牧畜にも向いていない乾いた荒れ地が広がっていたようだ。
だからこそ、そこに種を蒔いてみる気になったのかもしれない。
マーシェスダンジョンの場合は樹が大きくなるにつれて土壌も豊かになり、ダンジョン内に次々に新たな階層が生まれた。
そこに冒険者が集まると街が発展していくという良いことづくめだったわけだが、よその領地では上手く育たないまま枯れてしまった樹も多かったと聞く。
「ダニエル・ローグが自分の魔術の集大成として作った種は無限の可能性を持っていたって言われていて、早い話が何でもありってことみたいね。マーシェスダンジョンは地下50階が最下層みたいだけど、今後さらに拡張される可能性だってあるみたいよ」
実はこういったダンジョンの起源の話は、ダンジョンガイドブックやダンジョンの研究書からの受け売りだ。
でもハットリは、感心したように何度も頷いている。
わたしは話をしながら人差し指と親指を立てて拳銃のようにし、「お仕置きドン」のイメトレ中だ。
その様子を見たハットリに何をしているのかと尋ねられ、愛人を囲っている夫にいつかお仕置きしてやるのだと説明する。
「風魔法になるのかしら。指先からドン! って衝撃波を出して旦那様にお仕置きしてやるんだから!」
「こえーな、おい」
ハットリが呆れたようにつぶやいた。
55
お気に入りに追加
1,945
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる