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旦那様Side③
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「見損なったよ、ロイ」
駆けつけたバルコニーでいきなりエリックに責められた。
いやいや、待て待て。
「2年後に離婚とか、愛人とか何の話だ。俺のヴィーを手籠めにしようったって無駄だからな」
「なにが『俺のヴィー』だよ。ほったらかしでどこ行ってたのさ。僕がいなかったらヴィーはエロオヤジに連れていかれるところだったんだよ?」
エリックは呆れ声だ。
「偉そうに言う割にまだ手も出してないじゃん。初夜を拒絶するとかなにそれ、ヘタレなの?」
今度は怒りだした。
「親父さんがヴィーの素性を調べた上で僕に推薦状まで書かせてさあ、あんなに喜んでいたくせになに? 花嫁に恥をかかせて傷つけたくせに亭主面なんかするなよ。知ってるだろ、白い結婚はどちらか一方の申し立てで離婚が成立するってことぐらい。ヴィーはもうその先のビジネス構想があるみたいだよ」
傷つけた自覚はある。
あの夜のことを思い出すにつけ、どうしてこうなったんだと胸が痛む。
「愛人なんていない。仕方ないだろ、こっちから正体を明かせない事情があることぐらいわかってるだろ? それにあいつが好きなのはロイであって、ロナルド・マーシェスではない」
「なに言ってんの、同一人物だよ? 自分で自分に嫉妬してるとか、もはや拗らせてる以前の話だろ。差し支えない範囲で早く正直に言えばよかったのに馬鹿なの?」
心底呆れているといった表情のエリックだ。
まさにその通りでなにも言い返せない。己のふがいなさが招いたことだとわかってはいる。
ここでエリックが突然何かを思い出したように顔を輝かせた。
「あ! そうそう、ヴィーは僕がエルだってすぐに気付いたよ」
やっぱり師弟愛は最強だよねと言ってドヤ顔をするエリックに腹が立つと同時に、何故……とショックを受ける。
高等学院卒業後に就職もせずにダンジョンで暴れまわっていたら、その噂をどこで聞いたのかエリックがダンジョン攻略についてくるようになった。
王子という立場上、護衛の近衛兵まで必ず一緒だ。
エリックがわがままを言い出したらきかない奔放な性格であることや、魔術師としては超一流であることはよく知っている。
すぐに3人でダンジョンに行くのが当たり前になり、それならばパーティーを結成したほうがいいだろうとなって作ったのがロイパーティーだった。
エリックは元々、他者との距離が近い。
天然なのか狙ってやっているのかは定かではないが、ヴィーに魔法の使い方を教える時も手をしっかり握ったり、後ろから抱きしめるように腕を回したりとボディタッチが多い。
ちなみに自分も魔法科出身だから知っているが、そんな親密な距離でなければ魔法が教えられないなんてことは一切ない。
最初のうちは親密そうな様子を見せつけられても、エリックに対して
「おまえ婚約者がいるんだから、ほどほどにしておけよ」
と呆れるだけで、ヴィーに対しては特別な感情は何もなかった。
それがいつからだろう。
溌溂とした声で「ロイさん!」と呼ばれると、口元が思わず緩むようになったのは。
ペットとヴィー本人を有効活用するためには彼女の土魔法の技術をどうにか向上させねばならなかった。
土魔法は、実は使い手が少ない希少魔法だ。
自分の手には負えなさそうだと思ったのも理由のひとつだが、正直面倒だという思いが大きくて、その指導をエリックに丸投げした。
ヴィーは魔法の覚えは遅いし、瞬時の判断力にも欠けていて最初はまったく使い物にならなかった。
他のメンバーからも大不評だった。
「ヴィーがいると返って邪魔だ」
「パーティー内に敵がいるようでおちおち背中を任せられない」
メンバー全員が泥の沼に沈められそうになった時は、俺もブチギレた記憶がある。
それでもヴィーは、その都度、誠心誠意謝罪しながら、さっきのあの場面ではどう立ち回ればよかったのかとか、連携技のタイミングとか、次につながる質問と反省を怠らずに経験を積んでいくひたむきさを見せた。
さらには地図の作成・販売や他パーティーとの戦利品の交換といった対外的な交渉事で感心するほどの商才を見せ始めるころには、メンバーたちも一目置く存在となったのだ。
ヴィーを安心して見守れるようになり、手のかかる子供をようやく独り立ちさせたような気持ちでいたが、それは違っていた。
エリックにベタベタされているのを見るとモヤモヤして腹が立ってきて、それでもエリックにまったくなびく様子がないことに安堵して、どうやらこれは恋なのかもしれないとようやく気付いたのだった。
駆けつけたバルコニーでいきなりエリックに責められた。
いやいや、待て待て。
「2年後に離婚とか、愛人とか何の話だ。俺のヴィーを手籠めにしようったって無駄だからな」
「なにが『俺のヴィー』だよ。ほったらかしでどこ行ってたのさ。僕がいなかったらヴィーはエロオヤジに連れていかれるところだったんだよ?」
エリックは呆れ声だ。
「偉そうに言う割にまだ手も出してないじゃん。初夜を拒絶するとかなにそれ、ヘタレなの?」
今度は怒りだした。
「親父さんがヴィーの素性を調べた上で僕に推薦状まで書かせてさあ、あんなに喜んでいたくせになに? 花嫁に恥をかかせて傷つけたくせに亭主面なんかするなよ。知ってるだろ、白い結婚はどちらか一方の申し立てで離婚が成立するってことぐらい。ヴィーはもうその先のビジネス構想があるみたいだよ」
傷つけた自覚はある。
あの夜のことを思い出すにつけ、どうしてこうなったんだと胸が痛む。
「愛人なんていない。仕方ないだろ、こっちから正体を明かせない事情があることぐらいわかってるだろ? それにあいつが好きなのはロイであって、ロナルド・マーシェスではない」
「なに言ってんの、同一人物だよ? 自分で自分に嫉妬してるとか、もはや拗らせてる以前の話だろ。差し支えない範囲で早く正直に言えばよかったのに馬鹿なの?」
心底呆れているといった表情のエリックだ。
まさにその通りでなにも言い返せない。己のふがいなさが招いたことだとわかってはいる。
ここでエリックが突然何かを思い出したように顔を輝かせた。
「あ! そうそう、ヴィーは僕がエルだってすぐに気付いたよ」
やっぱり師弟愛は最強だよねと言ってドヤ顔をするエリックに腹が立つと同時に、何故……とショックを受ける。
高等学院卒業後に就職もせずにダンジョンで暴れまわっていたら、その噂をどこで聞いたのかエリックがダンジョン攻略についてくるようになった。
王子という立場上、護衛の近衛兵まで必ず一緒だ。
エリックがわがままを言い出したらきかない奔放な性格であることや、魔術師としては超一流であることはよく知っている。
すぐに3人でダンジョンに行くのが当たり前になり、それならばパーティーを結成したほうがいいだろうとなって作ったのがロイパーティーだった。
エリックは元々、他者との距離が近い。
天然なのか狙ってやっているのかは定かではないが、ヴィーに魔法の使い方を教える時も手をしっかり握ったり、後ろから抱きしめるように腕を回したりとボディタッチが多い。
ちなみに自分も魔法科出身だから知っているが、そんな親密な距離でなければ魔法が教えられないなんてことは一切ない。
最初のうちは親密そうな様子を見せつけられても、エリックに対して
「おまえ婚約者がいるんだから、ほどほどにしておけよ」
と呆れるだけで、ヴィーに対しては特別な感情は何もなかった。
それがいつからだろう。
溌溂とした声で「ロイさん!」と呼ばれると、口元が思わず緩むようになったのは。
ペットとヴィー本人を有効活用するためには彼女の土魔法の技術をどうにか向上させねばならなかった。
土魔法は、実は使い手が少ない希少魔法だ。
自分の手には負えなさそうだと思ったのも理由のひとつだが、正直面倒だという思いが大きくて、その指導をエリックに丸投げした。
ヴィーは魔法の覚えは遅いし、瞬時の判断力にも欠けていて最初はまったく使い物にならなかった。
他のメンバーからも大不評だった。
「ヴィーがいると返って邪魔だ」
「パーティー内に敵がいるようでおちおち背中を任せられない」
メンバー全員が泥の沼に沈められそうになった時は、俺もブチギレた記憶がある。
それでもヴィーは、その都度、誠心誠意謝罪しながら、さっきのあの場面ではどう立ち回ればよかったのかとか、連携技のタイミングとか、次につながる質問と反省を怠らずに経験を積んでいくひたむきさを見せた。
さらには地図の作成・販売や他パーティーとの戦利品の交換といった対外的な交渉事で感心するほどの商才を見せ始めるころには、メンバーたちも一目置く存在となったのだ。
ヴィーを安心して見守れるようになり、手のかかる子供をようやく独り立ちさせたような気持ちでいたが、それは違っていた。
エリックにベタベタされているのを見るとモヤモヤして腹が立ってきて、それでもエリックにまったくなびく様子がないことに安堵して、どうやらこれは恋なのかもしれないとようやく気付いたのだった。
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