36 / 80
旦那様Side②
しおりを挟む
その日の夕食の席。
ワンピースに着替え、結婚前にプレゼントしたリボンで髪を結ったヴィーがかわいすぎて、彼女が入ってきたときには直視できないほど胸が高鳴った。
ヤバい。かわいすぎるだろう!
初夜の時もそうだった。
あんなに透け透けのナイトドレスは反則だ。鼻血が吹き出すんじゃないかと思って、すぐに目を逸らすしかなかった。
一度抱いてしまえば、そのまま毎晩、足腰立たなくなるまで抱き潰す自信がある。
そうなったらダンジョン攻略どころではなくなるし、そもそも好きでもない男に毎晩そんなことをされるのは嫌に違いないと思ったのだ。
しかし妙に拗れてしまった今になって振り返ると、あのタイミングで打ち明けてしまったほうがよかったと後悔している。
実は、自分がロイであることを。
最初のうちはいつ気付くだろう、気付いた時にどんな顔をするだろうって思っていたのだが。
きっと驚いて、理由も告げずにいなくなったことを責めて泣いた後に再会を喜んでくれるだろうと思っていたのに——我が妻はまったくこれっぽっちも気付く気配がない。
一緒にイカ焼きを食べたり、ダンジョンの大樹にもうすぐ花が咲く話をして気付いてくれるよう努力したつもりだったが、ヴィーはそれが初耳であるかのように振る舞った。
エリックに、ヴィーに話したのかと尋ねられて、気付いてもらえなくて困っているとこぼすと笑われた。
「あの子は今、ダンジョン攻略で頭がいっぱいだから」
そもそも結婚した途端、仕事に忙殺されてろくに顔を合わせる機会すらないのだ。その責任の一端はエリックにもあると思う。
「気付くわけないよ。猫かぶってるなんていうレベルじゃなくて、丸っきり他人かってぐらい違いすぎるもん。髪と目の色だけならともかく、ロイのときの君は口調も性格も全て乱暴すぎるんだよ」
そうだろうか。これはもはやこちら側の問題ではなく、ヴィーが鈍さが問題なのではないか。
「じゃあ、王子様の姿でヴィーに会ってみろ。どうせ気付かれっこないから」
「いいだろう。やろうじゃないか」
そんな売り言葉に買い言葉で、夜会に出席することとなった。
夜会用のドレスがあまりにもエロキュートなせいで、男たちがチラチラとヴィーの背中に視線を向けている。
けしからん。早くエリックを探し、対面させたら帰ろうと焦ったのがマズかった。
主催者であるバージェス公爵の二女、ルナール嬢に捕まってしまったのだ。
「わたしに落とせない男はいない」
そう豪語する男癖の悪い尻軽女で、父親であるバージェス公爵も手を焼いているという。
派手な顔立ちに大人の女の色気を放つ煽情的な体つきは、ちょっとした火遊びにはちょうどよさそうだが、絶対に妻にはしたくないというのが高位貴族の男たちの共通認識だ。
自分がそんな風に言われていることを知ってか知らずか、腕に絡みつくフリをして大きな胸を押し付けられて嫌悪感が募る。
ここがもしダンジョンなら、
「おのれサキュバスめ!」
と言って、大剣でバッサリ瞬殺してやるのに!
脳内でルナール嬢を100回ほど斬りつけながら表面上は笑顔を保つ。
「酔っているのなら別室で休憩しますか」
提案すると、彼女は一瞬してやったりという顔を見せた。
自宅なだけに、どの部屋なら人が来ないというのも心得ているのだろう。
ルナール嬢は嬉々とした様子で「こっちよ」と廊下に並ぶ扉のひとつを開けると先に入っていく。
そこで扉がバタンと閉まった。
否、正確には扉を強引に閉めて内側からは開けられないよう魔法をかけたのだ。
「おかしいなあ、開きませんね。人を呼んできます」
棒読みでそう言って、その場を立ち去る。
夜会が終わるまでその部屋でおとなしくしているがいい。
エリックを探すはずがとんだ遠回りになってしまった。どうしてこんなに何もかもうまくいかないんだろうか。
会場に戻ると、友人のひとりが「おい、いいのか?」と駆け寄ってくる。
なにかと思えば、言いにくそうに教えてくれた。
「バルコニーでエリック殿下が君の妻の背中を撫でまわして親密そうにしているんだが……」
はあっ!?
エリックのヤツ何やってんだ。ぶっ殺す!
慌ててバルコニーへと向かった。
ワンピースに着替え、結婚前にプレゼントしたリボンで髪を結ったヴィーがかわいすぎて、彼女が入ってきたときには直視できないほど胸が高鳴った。
ヤバい。かわいすぎるだろう!
初夜の時もそうだった。
あんなに透け透けのナイトドレスは反則だ。鼻血が吹き出すんじゃないかと思って、すぐに目を逸らすしかなかった。
一度抱いてしまえば、そのまま毎晩、足腰立たなくなるまで抱き潰す自信がある。
そうなったらダンジョン攻略どころではなくなるし、そもそも好きでもない男に毎晩そんなことをされるのは嫌に違いないと思ったのだ。
しかし妙に拗れてしまった今になって振り返ると、あのタイミングで打ち明けてしまったほうがよかったと後悔している。
実は、自分がロイであることを。
最初のうちはいつ気付くだろう、気付いた時にどんな顔をするだろうって思っていたのだが。
きっと驚いて、理由も告げずにいなくなったことを責めて泣いた後に再会を喜んでくれるだろうと思っていたのに——我が妻はまったくこれっぽっちも気付く気配がない。
一緒にイカ焼きを食べたり、ダンジョンの大樹にもうすぐ花が咲く話をして気付いてくれるよう努力したつもりだったが、ヴィーはそれが初耳であるかのように振る舞った。
エリックに、ヴィーに話したのかと尋ねられて、気付いてもらえなくて困っているとこぼすと笑われた。
「あの子は今、ダンジョン攻略で頭がいっぱいだから」
そもそも結婚した途端、仕事に忙殺されてろくに顔を合わせる機会すらないのだ。その責任の一端はエリックにもあると思う。
「気付くわけないよ。猫かぶってるなんていうレベルじゃなくて、丸っきり他人かってぐらい違いすぎるもん。髪と目の色だけならともかく、ロイのときの君は口調も性格も全て乱暴すぎるんだよ」
そうだろうか。これはもはやこちら側の問題ではなく、ヴィーが鈍さが問題なのではないか。
「じゃあ、王子様の姿でヴィーに会ってみろ。どうせ気付かれっこないから」
「いいだろう。やろうじゃないか」
そんな売り言葉に買い言葉で、夜会に出席することとなった。
夜会用のドレスがあまりにもエロキュートなせいで、男たちがチラチラとヴィーの背中に視線を向けている。
けしからん。早くエリックを探し、対面させたら帰ろうと焦ったのがマズかった。
主催者であるバージェス公爵の二女、ルナール嬢に捕まってしまったのだ。
「わたしに落とせない男はいない」
そう豪語する男癖の悪い尻軽女で、父親であるバージェス公爵も手を焼いているという。
派手な顔立ちに大人の女の色気を放つ煽情的な体つきは、ちょっとした火遊びにはちょうどよさそうだが、絶対に妻にはしたくないというのが高位貴族の男たちの共通認識だ。
自分がそんな風に言われていることを知ってか知らずか、腕に絡みつくフリをして大きな胸を押し付けられて嫌悪感が募る。
ここがもしダンジョンなら、
「おのれサキュバスめ!」
と言って、大剣でバッサリ瞬殺してやるのに!
脳内でルナール嬢を100回ほど斬りつけながら表面上は笑顔を保つ。
「酔っているのなら別室で休憩しますか」
提案すると、彼女は一瞬してやったりという顔を見せた。
自宅なだけに、どの部屋なら人が来ないというのも心得ているのだろう。
ルナール嬢は嬉々とした様子で「こっちよ」と廊下に並ぶ扉のひとつを開けると先に入っていく。
そこで扉がバタンと閉まった。
否、正確には扉を強引に閉めて内側からは開けられないよう魔法をかけたのだ。
「おかしいなあ、開きませんね。人を呼んできます」
棒読みでそう言って、その場を立ち去る。
夜会が終わるまでその部屋でおとなしくしているがいい。
エリックを探すはずがとんだ遠回りになってしまった。どうしてこんなに何もかもうまくいかないんだろうか。
会場に戻ると、友人のひとりが「おい、いいのか?」と駆け寄ってくる。
なにかと思えば、言いにくそうに教えてくれた。
「バルコニーでエリック殿下が君の妻の背中を撫でまわして親密そうにしているんだが……」
はあっ!?
エリックのヤツ何やってんだ。ぶっ殺す!
慌ててバルコニーへと向かった。
76
お気に入りに追加
1,945
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる