27 / 80
冒険者協会の会合に参加しました⑥
しおりを挟む
今頃、旦那様が会長室にいないわたしを探しているかもしれない。
急がないと!
酒場から駆け出したものの、途中で失速してしまった。
ロイさんが自ら登録を抹消していたなんて知らなかった。
どうしてジークさんは知っていたんだろう。
とぼとぼ広場まで歩き、空いているベンチに腰を下ろすと立ち上がれなくなった。
話し合いを上手くまとめられなかったことも、ロイさんが冒険者を辞めてしまったことも、どちらもショックが大きい。
もしかすると最後の最後にロイさんが来てくれるかも!っていう淡い期待を抱いていたのは、何だったのか。
わたしも冒険者を辞めてしまおうかな……。
そう思ってうつむいた時だった。
「ヴィクトリア?」
背後からわたしを呼ぶ声がする。顔を上げて振り向くと旦那様が立っていた。
しまった!
ロイさんのことで感傷的になっている場合じゃなかった。
旦那様のことを忘れていたわ!
「すぐ見つかってよかった。部屋にいなかったから探したんだよ?」
旦那様がわたしの横に腰を下ろして顔を覗き込んでくる。
「申し訳ありません」
あなたの存在を忘れていました——そこまではさすがに言わないけれど。
「いや、こちらこそすまなかった。あっさり終わるはずの会合が長引いてしまって、暇つぶしに外へ出たんだろう?迷子にでもなったのか? 泣きそうな顔をしている」
謝らないでください。会合が長引いたのはわたしのせいです。
おまけに何度も旦那様に助けていただきました。ありがとうございます。
泣きそうなのはあなたとは全く関係ない理由です——正直にそう言えたらいいのに、言えるはずもない。
旦那様がわたしの肩を抱いて引き寄せ、大きな手でわたしの頭をポンポンと撫でる。
「せっかくだから、イカ焼きを食べて帰ろうか」
どうしたんだろう。
旦那様が何だか甘すぎる。
こくんと頷きそうになったところで背後からヒソヒソ声が聞こえた。
「あら、領主様だわ」
「奥様とご一緒でデートかしら。仲がおよろしいわね」
「だって新婚さんですものね」
なるほど、人目があるから仲睦まじく見せようとしていたわけね。
また騙されるところだったわ。わたしって、どこまで馬鹿なのかしら。
縦に振るつもりだった首を微かに横に振る。
「いいえ、もう帰りましょう」
作り笑顔で立ち上がると、旦那様の手を引っ張った。
傍目には、そろそろ行きましょうとおねだりしているような雰囲気で。
「イカ焼きは?」
旦那様、まだそんなことおっしゃってるんですか?
「もう十分です」
わたしたちが領主夫婦だと気付いた人たちにはもう十分見せつけたのだから、これぐらいでいいだろう。
腕を組んで歩き、冒険者協会の前で待たせていた馬車に乗った。
帰り道はまた窓の外を見ながら、これからどうすればいいのかと考え続けた。
冒険者を引退するという選択肢は無い!と言い切っていた威勢のいいわたしは、もういない。
わたしにとってのダンジョン攻略は、ロイさんがいてこそ成り立っていたのだから。
リアルが忙しくてなかなか戻ることができないのかもしれない。
それとも、ふらっとソロでダンジョンに潜ってみたら秘密の通路でも見つけて、そこが思いのほか深くて、ダンジョンの奥で魔物を煮炊きして食べながらサバイバル生活でも送っているのかもしれない。
そんな風に思っていた。
彼が大事にしていたパーティーを存続させて、いずれ戻ってきたときに褒めてもらおう。最下層を踏破して大樹に花が咲いたら、噂を聞きつけて戻ってくるかもしれない。
そう期待していたのに、ロイさんはとっくに冒険者を辞めていた。
でもここでわたしも辞めてしまったら、こんなお飾り妻の茶番だけを続けていくことになるのだ。
ダンジョン攻略を続けても続けなくても、どっちも辛い。
思わずため息をつくと、隣に座る旦那様が「大丈夫か?」と窺ってきた。
さっきから何か話しかけられていたのだが、わたしは自分自身を悩ませる諸問題をどう解決するかの思案に没頭していて、旦那様の話をちっとも聞いていなかった。
「はい、大丈夫です」
「よかった。では明日、一緒に王都へ行こう」
ちょっ……ええっ?
何の話!?
戸惑うわたしをよそに、旦那様はにこっと笑った。
急がないと!
酒場から駆け出したものの、途中で失速してしまった。
ロイさんが自ら登録を抹消していたなんて知らなかった。
どうしてジークさんは知っていたんだろう。
とぼとぼ広場まで歩き、空いているベンチに腰を下ろすと立ち上がれなくなった。
話し合いを上手くまとめられなかったことも、ロイさんが冒険者を辞めてしまったことも、どちらもショックが大きい。
もしかすると最後の最後にロイさんが来てくれるかも!っていう淡い期待を抱いていたのは、何だったのか。
わたしも冒険者を辞めてしまおうかな……。
そう思ってうつむいた時だった。
「ヴィクトリア?」
背後からわたしを呼ぶ声がする。顔を上げて振り向くと旦那様が立っていた。
しまった!
ロイさんのことで感傷的になっている場合じゃなかった。
旦那様のことを忘れていたわ!
「すぐ見つかってよかった。部屋にいなかったから探したんだよ?」
旦那様がわたしの横に腰を下ろして顔を覗き込んでくる。
「申し訳ありません」
あなたの存在を忘れていました——そこまではさすがに言わないけれど。
「いや、こちらこそすまなかった。あっさり終わるはずの会合が長引いてしまって、暇つぶしに外へ出たんだろう?迷子にでもなったのか? 泣きそうな顔をしている」
謝らないでください。会合が長引いたのはわたしのせいです。
おまけに何度も旦那様に助けていただきました。ありがとうございます。
泣きそうなのはあなたとは全く関係ない理由です——正直にそう言えたらいいのに、言えるはずもない。
旦那様がわたしの肩を抱いて引き寄せ、大きな手でわたしの頭をポンポンと撫でる。
「せっかくだから、イカ焼きを食べて帰ろうか」
どうしたんだろう。
旦那様が何だか甘すぎる。
こくんと頷きそうになったところで背後からヒソヒソ声が聞こえた。
「あら、領主様だわ」
「奥様とご一緒でデートかしら。仲がおよろしいわね」
「だって新婚さんですものね」
なるほど、人目があるから仲睦まじく見せようとしていたわけね。
また騙されるところだったわ。わたしって、どこまで馬鹿なのかしら。
縦に振るつもりだった首を微かに横に振る。
「いいえ、もう帰りましょう」
作り笑顔で立ち上がると、旦那様の手を引っ張った。
傍目には、そろそろ行きましょうとおねだりしているような雰囲気で。
「イカ焼きは?」
旦那様、まだそんなことおっしゃってるんですか?
「もう十分です」
わたしたちが領主夫婦だと気付いた人たちにはもう十分見せつけたのだから、これぐらいでいいだろう。
腕を組んで歩き、冒険者協会の前で待たせていた馬車に乗った。
帰り道はまた窓の外を見ながら、これからどうすればいいのかと考え続けた。
冒険者を引退するという選択肢は無い!と言い切っていた威勢のいいわたしは、もういない。
わたしにとってのダンジョン攻略は、ロイさんがいてこそ成り立っていたのだから。
リアルが忙しくてなかなか戻ることができないのかもしれない。
それとも、ふらっとソロでダンジョンに潜ってみたら秘密の通路でも見つけて、そこが思いのほか深くて、ダンジョンの奥で魔物を煮炊きして食べながらサバイバル生活でも送っているのかもしれない。
そんな風に思っていた。
彼が大事にしていたパーティーを存続させて、いずれ戻ってきたときに褒めてもらおう。最下層を踏破して大樹に花が咲いたら、噂を聞きつけて戻ってくるかもしれない。
そう期待していたのに、ロイさんはとっくに冒険者を辞めていた。
でもここでわたしも辞めてしまったら、こんなお飾り妻の茶番だけを続けていくことになるのだ。
ダンジョン攻略を続けても続けなくても、どっちも辛い。
思わずため息をつくと、隣に座る旦那様が「大丈夫か?」と窺ってきた。
さっきから何か話しかけられていたのだが、わたしは自分自身を悩ませる諸問題をどう解決するかの思案に没頭していて、旦那様の話をちっとも聞いていなかった。
「はい、大丈夫です」
「よかった。では明日、一緒に王都へ行こう」
ちょっ……ええっ?
何の話!?
戸惑うわたしをよそに、旦那様はにこっと笑った。
49
お気に入りに追加
1,908
あなたにおすすめの小説
婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
私は婚約者に騙されて、全てを失いました――
私の名前はシエル。元々貧しいスラムの住人でしたが、病弱なお母さんの看病をしていた時に、回復魔法の力に目覚めました。
これで治せるかと思いましたが、魔法の練習をしていない私には、お母さんを治せるほどの力はありませんでした。
力があるのに治せない……自分の力の無さに嘆きながら生活していたある日、私はお城に呼び出され、王子様にとある話を持ちかけられました。
それは、聖女になって各地を巡礼してこい、その間はお母さんの面倒を見るし、終わったら結婚すると言われました。
彼の事は好きではありませんが、結婚すればきっと裕福な生活が出来て、お母さんに楽をさせられる。それに、私がいない間はお母さんの面倒を見てくれる。もしかしたら、旅の途中で魔法が上達して、お母さんを治せるようになるかもしれない。
幼い頃の私には、全てが魅力的で……私はすぐに了承をし、準備をしてから旅に出たんです。
大変な旅でしたが、なんとか帰ってきた私に突きつけられた現実は……婚約などしない、城から追放、そして……お母さんはすでに亡くなったという現実でした。
全てを失った私は、生きる気力を失いかけてしまいましたが、ある事を思い出しました。
巡礼の途中で出会った方に、とある領主の息子様がいらっしゃって、その方が困ったら来いと仰っていたのです。
すがる思いで、その方のところに行く事を決めた私は、彼の住む屋敷に向かいました。これでダメだったら、お母さんの所にいくつもりでした。
ですが……まさか幸せで暖かい生活が待ってるとは、この時の私には知る由もありませんでした。
騎士様に愛されたい聖女は砂漠を行く ~わがまま王子の求婚はお断り!推しを求めてどこまでも~
きのと
恋愛
大好きな小説の登場人物、美貌の聖女レイシーに生まれ変わった私。ワガママ王子の求婚を振り切って、目指すは遥か西、灼熱の砂漠の国。
そこには最愛の推しキャラ、イケメン騎士のサリッド・アル=アスカリーがいる。私の目的はただ一つ、彼の心を射止めること。前世の知識を駆使して、サリッドの旅に同行することに成功。恋愛テクニックで彼の気を引くつもりが、逆にきゅんきゅんさせられてしまったり。それでも確実に二人の距離は縮まっていった。サリッドが忠誠を捧げた国王陛下までも味方につけ、順風満帆!……だったはずが、とんでもない邪魔が!なんとワガママ王子が旅についてくるという。果たしてこの恋、成就できるの?
[完]ごめんなさい、騎士様。あなたの意見には従えません。
小葉石
恋愛
最も小さい国と言われている小国トルンフィス王国に聖女があらわれた。
神の使いとも称される尊い聖女。
彼女達の魔を祓い邪を清める浄化の力は一介の魔道士、魔術師など足元にも及ばない。
そんな聖女を守る組織ガルンドーラ聖騎士団から小国トルンフィス王国に聖騎士アールシスが遣わされた。
女神の啓示により召し出された新たな聖女を守る為に。
その聖女の中身は15歳になったばかりの極普通の少女だった…
※あまりシリアスな感じでは書かないつもりです。面白く読んでいただけたらと。
※完結まで描き終わりました
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる