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加入テストはこれで終わりではありません①

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 翌朝、いつものように庭師のマックとともに庭仕事を終えると、たまっていた侯爵夫人としての雑用をまとめて片付けることにした。

 領地運営に関しては旦那様と執事のハンスに任せていて、わたしはむしろ手出し無用と言い渡されている。しかし、領地内にある孤児院の寄付は、侯爵夫人の名義で行うことが慣例となっている。
 他にもいくつか、どうしてもわたし自身の署名が必要な書類や手続きがあり、そういった事務仕事を定期的にまとめて行うようにしているのだ。

 孤児院への寄付金額を確認して書類と小切手に署名をする。
 パーティーやお茶会へのお誘いには、やんわりとお断りの返事を書く。
 その通常業務に紛れて、ハットリのパーティー加入手続きのための書類作成も行った。

 昨日のテストではビジター扱いのパーティーの一員だったが、今日からは一応正式にロイパーティーの一員だ。
 冒険者協会でハットリの冒険者カードの裏面にパーティーの情報を追加登録してもらわなければならず、そのための提出書類が数枚ある。
 ハットリ本人に記入してもらわなければならない個人情報や署名の欄以外を全て記入し終えると、それを折り畳んで封筒に入れた。

 午後、いつものように土人形にお留守番を任せて観葉植物の鉢植えからパーティーの拠点であるビアンカさんの酒場の2階へ行くと、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

 メンバーのエルさんとトールさん、そしてハットリがダンジョンの地図を広げながら歓談していたのだ。

 エルさんは行方知れずのリーダーであるロイさんの右腕として長い間パーティーを牽引し続けた初期メンバーで、とても優秀な魔術師。トールさんは寡黙なマッチョで、斧を振り回す剛腕だ。

 エルさんがプライベートで何者なのかはよく知らないけれど、振る舞いから察するにかなり高貴な人かもしれないと思っている。
 そしてエルさんにいつもくっついているトールさんは、その従者なのではないかと思っているのだが、プライベートの話をするのはタブーという風潮が我がパーティーにはあるため、心の中にそっとしまっている。

 わたしもここでは「ヴィー」と名乗り、素性を明かしてはいない。
 マーシェス侯爵夫人になったのだと言おうものなら、そのことが旦那様に伝わって面倒なことになるのは必至だ。

 去年、結婚を機にエルさんが一線を退いて、現在はボス戦などどうしても戦力が必要というとき以外はあまり姿を見せなくなった。エルさんに張り付いているトールさんも当然同じ行動であるため、ふたりに会うのは3か月ぶりぐらいだろうか。

 ロイさんが来なくなった直後は何かと心配してくれて顔を出してくれたが、わたしがロイさんの大剣と実質的なリーダーを引き受けてパーティーを立て直し、それが軌道に乗るとここへ来る頻度は減った。
 単純にプライベートが忙しいだけなのかもしれないけれど。

「やあ、ヴィー。久しぶり。結婚したんだってね、おめでとう」
 エルさんが笑顔を見せる。トールさんは無表情ではあるものの、わたしに向かってこくこくと頷いている。

「ありがとうございます。おかげさまでわたしもお嫁に行くことができましたよ。エルさんとトールさんもお元気そうで何よりです」 

 この2年間、ダンジョンに潜り続けて泥まみれになり、魔物の血を浴びまくり、擦り傷切り傷は日常茶飯事で、何度「もうお嫁に行けない~!」と叫んだことか。

「よかったじゃないか。ヴィーのような可愛い妻を娶った男は果報者だね」

 何をおっしゃいます!
 旦那様とはあの黒歴史になるであろう初夜の翌日に本宅を追い出されて以来、かれこれ1か月お会いしてませんが?

 リアルのお飾り妻生活について暴露したら話が長くなりそうだから話題を変えることにした。
「ハットリ、これがパーティー加入手続きの書類なんで、空欄になっている箇所の記入をお願いね」

 エルさんとわたしのやり取りを眺めていたハットリに書類の入った封筒を渡し、記入が済んだら冒険者協会に赴いてカード情報の追加をしてもらうという流れを説明する。

「ねえ、ヴィー」
 ハットリが書類の記入に集中していることを確認して、エルさんに手招きされた。
 彼がチョイチョイと親指以外の指4本を折り曲げて人を呼ぶときは、内緒話がしたいという合図だ。
 椅子に座るエルさんへ上半身を傾けて耳を寄せる。

「彼さ、BAN姉さんいけるんじゃない?」
 ごにょごにょと囁かれた言葉に大きく頷いた。
「エルさん、お時間あるなら同行してもらってもいいですか?」

「いいね、久しぶりのダンジョンだ」
 エルさんが嬉しそうに笑った。
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