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「パフォーマンス、最前列で応援してくれるんじゃなかったのかよ」
藤堂君の文句は尽きないようだ。
というか、あの状況で最前列の観客の顔を見渡す余裕があったというのがすごいと思う。
「うん、そのつもりだったんだけどね、たこ焼き屋さんが1時間待ちだったんだよ? どうにか間に合いそうだったから買ってから急いで広場に行ったんだけど、もうお客さんたちがかなりいて後ろから背伸びして見るしかなかったの。ごめんね。でもちゃんと応援はしたからね」
言い訳しながら、たこ焼きの入ったビニール袋を持ち上げる。
「はい、たこ焼き。冷めちゃったけど」
「サンキュ。実は腹ペコ」
藤堂君が勢いよく体を起こして袋を受け取った。
たこ焼きで機嫌が直ったようだ。
わたしたちがそんなやりとりをしている間も、花火は上がり続けている。
さっそく袋からたこ焼きを取り出して頬張りはじめた藤堂君の顔を、色とりどりの花火の光が照らす。
少し視線をずらせば同じく花火に照らされる不気味な妖たちと目が合ってしまった。
こんな山を背負っていなきゃ、最高のシチュエーションなんだけどね。
そんなことを考えてニヤニヤしてしまうわたしの口元に、たこ焼きが突き出された。
「はい、あーん」
「ええっ!?」
「買ってくれたごほうび。落ちそうだからはやく!」
せかされて、あわててパクっと一口でたこ焼きを口に入れる。
そのとき、つまようじを持っている藤堂君の指先が一瞬わたしのくちびるに触れて、ドキンと心臓がはねた。
一気にほてった顔は花火の光でバレてはいないはずだ。
ドキドキして、たこ焼きの味がよくわからないままゴクンと飲み込んだところで
「はい、もうひとつ」
と言われてまたたこ焼きが突き出される。
やけくそで勢いよくパクっと食いつくと、藤堂君があははっと楽しそうに笑った。
状況的には、藤堂君と花火をいっしょに見て、たこ焼きを半分こ……とまではいかなかったけど、いっしょに食べた。
恋が叶うというM高祭のジンクスを達成したといっても過言ではない。
でもいまいちそういう気になれないのは、まわりに妖が多いせいだろう。
トイレの花子さんたちは花火を見て大はしゃぎしているし、藤堂君に乗っかっている妖たちも花火に手を叩いていたり、こっちを見てニヤニヤしていたり、わたしと藤堂君にはつねにホラーな雰囲気がつきまとってしまう。
これじゃたしかに、デートなんて無理よね。
そう思ったときにふと、あの光景を思い出してしまった。
書道部の女の子にタオルを差し出された藤堂君がデレデレ笑っていたあれだ。
妖が見えない子が相手なら、やっぱり問題ないじゃん。
何が恋が叶うジンクスだ。
「ねえ、まだ間に合うかもしれないから書道部の子のところに行けば?」
思わずぶっきらぼうな言い方になってしまった。
「は? どういう意味? 俺もう書道部行かないけど。手伝うのは1回だけって約束だったよな」
「なんで?」
「……え、なんでって、なんで?」
おかしい、なんだか急に会話がかみあわない。
「だって、書道部の子となんだかいい雰囲気だったじゃん」
「だれのこと言ってんの」
なんでわたしがそこまで説明しないといけないのよっ!
ムっとしながら、パフォーマンスのあと校舎の裏でタオルを差し出されてデレデレ笑ってたじゃないかと言うと、藤堂君ではなくその背後から声がした。
『ちがうわよう、それかんちがいよ』
細い首をくねくねのばしたろくろ首のお姉さんが藤堂君とわたしの間に入ってニヤニヤしている。
「え、ちがうの?」
『弥一はねえ……ぐえっ』
ろくろ首が何か言いかけたとき、藤堂君が細い首をぎゅっとにぎった。
「余計なこと言おうとしてるだろ」
すごい。
聞こえてないくせにわかっちゃうんだ。
でも何がかんちがいなのか知りたいんだけど!?
藤堂君はろくろ首を後ろに追いやると、なぜかうれしそうにニヤニヤしはじめる。
「それ、やきもち……だよな?」
「――――っ!」
藤堂君の言う通り、ほかの子に向かって笑ってほしくないと思ったあの感情は、まぎれもなくやきもちだ。
自分でもしっかりその自覚があったから、いさぎよく認めてこくんとうなずいた。
「あの子、2組の阿部さんていうんだけどさ、今日好きな男子を花火にさそうんだってはりきってて、あんとき『藤堂君もカノジョと花火を見て、たこ焼きもいっしょに食べないとだめだよ』って言われてただけだよ」
「えっ!?」
「だから、もちろんそのつもりって答えて……もし笑ってたんだとしたら、それは浮島さんのこと考えて笑ってたんだと思う。つーかさ、見てたんならどうして声かけてくれなかったんだよ、さっきも言ったけど、俺すげえ探したんだぜ?」
藤堂君がムスっとしながら説明してくれた。
それが本当なんだとしたら、さっきろくろ首のお姉さんが教えてくれようとした通りで、わたしが勝手にかんちがいしていたことになる。
それに……。
「ねえ、藤堂君ってM高祭のジンクス知ってるの?」
知ってて、たこ焼きをわたしにも分けてくれたの……?
藤堂君が何か言った言葉は、打ち上げ花火のすさまじい音にかき消されてしまった。
連続してすごい数の大玉の花火が夜空を彩る様子に目を奪われた。
たぶん終わりが近いんだろう。
花火が激しく咲き乱れたあとに静寂がおとずれ、グラウンドから拍手がわき起こる。
わたしと藤堂君、そして妖たちも同じく手を叩いて、大成功をおさめたM高祭に拍手をおくった。
藤堂君の文句は尽きないようだ。
というか、あの状況で最前列の観客の顔を見渡す余裕があったというのがすごいと思う。
「うん、そのつもりだったんだけどね、たこ焼き屋さんが1時間待ちだったんだよ? どうにか間に合いそうだったから買ってから急いで広場に行ったんだけど、もうお客さんたちがかなりいて後ろから背伸びして見るしかなかったの。ごめんね。でもちゃんと応援はしたからね」
言い訳しながら、たこ焼きの入ったビニール袋を持ち上げる。
「はい、たこ焼き。冷めちゃったけど」
「サンキュ。実は腹ペコ」
藤堂君が勢いよく体を起こして袋を受け取った。
たこ焼きで機嫌が直ったようだ。
わたしたちがそんなやりとりをしている間も、花火は上がり続けている。
さっそく袋からたこ焼きを取り出して頬張りはじめた藤堂君の顔を、色とりどりの花火の光が照らす。
少し視線をずらせば同じく花火に照らされる不気味な妖たちと目が合ってしまった。
こんな山を背負っていなきゃ、最高のシチュエーションなんだけどね。
そんなことを考えてニヤニヤしてしまうわたしの口元に、たこ焼きが突き出された。
「はい、あーん」
「ええっ!?」
「買ってくれたごほうび。落ちそうだからはやく!」
せかされて、あわててパクっと一口でたこ焼きを口に入れる。
そのとき、つまようじを持っている藤堂君の指先が一瞬わたしのくちびるに触れて、ドキンと心臓がはねた。
一気にほてった顔は花火の光でバレてはいないはずだ。
ドキドキして、たこ焼きの味がよくわからないままゴクンと飲み込んだところで
「はい、もうひとつ」
と言われてまたたこ焼きが突き出される。
やけくそで勢いよくパクっと食いつくと、藤堂君があははっと楽しそうに笑った。
状況的には、藤堂君と花火をいっしょに見て、たこ焼きを半分こ……とまではいかなかったけど、いっしょに食べた。
恋が叶うというM高祭のジンクスを達成したといっても過言ではない。
でもいまいちそういう気になれないのは、まわりに妖が多いせいだろう。
トイレの花子さんたちは花火を見て大はしゃぎしているし、藤堂君に乗っかっている妖たちも花火に手を叩いていたり、こっちを見てニヤニヤしていたり、わたしと藤堂君にはつねにホラーな雰囲気がつきまとってしまう。
これじゃたしかに、デートなんて無理よね。
そう思ったときにふと、あの光景を思い出してしまった。
書道部の女の子にタオルを差し出された藤堂君がデレデレ笑っていたあれだ。
妖が見えない子が相手なら、やっぱり問題ないじゃん。
何が恋が叶うジンクスだ。
「ねえ、まだ間に合うかもしれないから書道部の子のところに行けば?」
思わずぶっきらぼうな言い方になってしまった。
「は? どういう意味? 俺もう書道部行かないけど。手伝うのは1回だけって約束だったよな」
「なんで?」
「……え、なんでって、なんで?」
おかしい、なんだか急に会話がかみあわない。
「だって、書道部の子となんだかいい雰囲気だったじゃん」
「だれのこと言ってんの」
なんでわたしがそこまで説明しないといけないのよっ!
ムっとしながら、パフォーマンスのあと校舎の裏でタオルを差し出されてデレデレ笑ってたじゃないかと言うと、藤堂君ではなくその背後から声がした。
『ちがうわよう、それかんちがいよ』
細い首をくねくねのばしたろくろ首のお姉さんが藤堂君とわたしの間に入ってニヤニヤしている。
「え、ちがうの?」
『弥一はねえ……ぐえっ』
ろくろ首が何か言いかけたとき、藤堂君が細い首をぎゅっとにぎった。
「余計なこと言おうとしてるだろ」
すごい。
聞こえてないくせにわかっちゃうんだ。
でも何がかんちがいなのか知りたいんだけど!?
藤堂君はろくろ首を後ろに追いやると、なぜかうれしそうにニヤニヤしはじめる。
「それ、やきもち……だよな?」
「――――っ!」
藤堂君の言う通り、ほかの子に向かって笑ってほしくないと思ったあの感情は、まぎれもなくやきもちだ。
自分でもしっかりその自覚があったから、いさぎよく認めてこくんとうなずいた。
「あの子、2組の阿部さんていうんだけどさ、今日好きな男子を花火にさそうんだってはりきってて、あんとき『藤堂君もカノジョと花火を見て、たこ焼きもいっしょに食べないとだめだよ』って言われてただけだよ」
「えっ!?」
「だから、もちろんそのつもりって答えて……もし笑ってたんだとしたら、それは浮島さんのこと考えて笑ってたんだと思う。つーかさ、見てたんならどうして声かけてくれなかったんだよ、さっきも言ったけど、俺すげえ探したんだぜ?」
藤堂君がムスっとしながら説明してくれた。
それが本当なんだとしたら、さっきろくろ首のお姉さんが教えてくれようとした通りで、わたしが勝手にかんちがいしていたことになる。
それに……。
「ねえ、藤堂君ってM高祭のジンクス知ってるの?」
知ってて、たこ焼きをわたしにも分けてくれたの……?
藤堂君が何か言った言葉は、打ち上げ花火のすさまじい音にかき消されてしまった。
連続してすごい数の大玉の花火が夜空を彩る様子に目を奪われた。
たぶん終わりが近いんだろう。
花火が激しく咲き乱れたあとに静寂がおとずれ、グラウンドから拍手がわき起こる。
わたしと藤堂君、そして妖たちも同じく手を叩いて、大成功をおさめたM高祭に拍手をおくった。
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