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書道部のみんなはパフォーマンスを終えて撤収し、校舎の裏へと移動していく。
それを追いかけて声をかけようとしたけれど、広場のはしっこにいるふたりに気がついて足を止めた。
筆化けと紙舞だ。
このふたりに手助けしてもらってこその大成功だったのだから、お礼を言わないといけない。
それなのにふたりは腕をしっかりと相手の背中に回してぎゅうっと抱き合い、ふたりだけの世界にひたっているようだ。
やっぱり後回しでいいかと思いはじめたところで筆化けが気づいて、今度はわたしに抱きついてきた。
『あかり! 書道パフォーマンスというのはとても興奮するね! 部員たちの熱い思いに胸をうたれたよ』
『感動的でした! みなさんのがんばりもさることながら、筆化け様のりりしいお姿もすてきでしたわ』
『舞ちゃんのあの紙吹雪のタイミングもなんとも絶妙ですばらしかったよ』
『まあ、筆化け様ったら』
お互いを褒めあうのはいいけれど、わたしに抱きつきながらまたふたりの世界に入っていこうとするのはやめてほしい。
「ありがとうございました。とても幻想的ですてきだったとわたしも思います。おふたりのおかげです!」
お礼を言いながら両手で押してどうにかふたりから離れた。
筆化けと紙舞は、これからも書道部のことを見守っていこうと熱く語り合っている。
これで当分の間は仲良く過ごしてくれそうだけど、墨を欠かさず定期的に貢ぎ続けるとなおいいかもしれない。
京香ちゃんに、部室の後ろの棚に墨を置いておくと運気がアップすると言っておこう。
そして筆化けと紙舞に手をふって別れ、書道部を追いかけて校舎の裏へと向かったのだった。
校舎の建物の角を曲がろうとしたところで、書道部の顧問の先生の声が聞こえてきた。
2週間後に書道パフォーマンス甲子園の出場をかけて地区代表校をきめる予選大会があるらしい。
その内容を聞いて、いまここで部外者のわたしが行くべきではないと足を止めて話が終わるのを待った。
まず京香ちゃんに、とっても感動的だったと言おう。
そのあと藤堂君に約束通りたこ焼きを買ってきたことを話して、そのついでに……かっこよかったと伝えたい。
ドキドキしながらそんなことを考えていた。
「以上です。では着替えをして道具を部室に片付けたらあとは自由行動ということで解散してください」
顧問の先生が話をしめくくる声が聞こえた。
着替えて後片付けをして……どのタイミングで声をかければいいだろう。
第二校舎は向こう側にあるから、部員さんたちはこっちを通らず反対側へ移動してしまうはずだ。
いま話しかけるより第二校舎の前で待っておくほうがいいかな。
顔だけのぞかせて様子をうかがってみる。
すると、パフォーマンスメンバーのひとりだった女の子が藤堂君に何か言いながらタオルを差し出している光景が目に飛び込んできた。
藤堂君も何か言いながらタオルを受け取り、首や顔をふいている。
その横顔は、いつも1年5組の教室で見せている不機嫌そうな表情ではなく、とてもいい笑顔だった。
わたしはその光景になぜかひどくショックを受けて、足を動かせなくなってしまった。
藤堂君たちのパフォーマンスを見てすごく感動したということをすぐにでも伝えたくてここまで追いかけてきた高揚感が、あっというまにしぼんでいく。
かたむけていた上半身をまっすぐにもどし、その場でじっと書道部のみんなが移動していく音を聞いていた。
妖に憑かれやすい体質のせいで青春することもできないと言ういつも不機嫌な藤堂君に、こういう「ザ・青春」みたいな体験をするチャンスを逃してほしくなかった。
そして、怖い人だと勘違いされやすい藤堂君が本当はよく笑うわたしたちと同じただの高校1年生の男の子なんだということを、まわりの人たちにわかってほしかった。
書道パフォーマンスをやってみればいいじゃないかと強引にすすめたのはわたし自身だ。
パフォーマンスは大成功したし、藤堂君は短期間で書道部の1年生たちとすっかり打ち解けている。
わたしの目論見通りの結果になったのだから、喜ばしいことのはずだ。
それなのに、ちっともうれしくない。
他の子に、あんなふうに笑わないでほしい。
そうに思ってしまった自分の心のせまさがイヤでしかたない。
藤堂君が本当はよく笑う人だってみんなに知ってもらいたい――それは裏を返せば「みんなが見たことのない藤堂君の笑顔をわたしは知っている」「わたしといるときにしか見せないんだから」という傲慢なうぬぼれだったんだと気づいた。
うぬぼれとやきもち。
気づいてしまえばとてもシンプルなことで、つまりわたしは藤堂君のことが好きだったんだ。
たぶん、あの笑顔をはじめて見たときからずっと――。
それを追いかけて声をかけようとしたけれど、広場のはしっこにいるふたりに気がついて足を止めた。
筆化けと紙舞だ。
このふたりに手助けしてもらってこその大成功だったのだから、お礼を言わないといけない。
それなのにふたりは腕をしっかりと相手の背中に回してぎゅうっと抱き合い、ふたりだけの世界にひたっているようだ。
やっぱり後回しでいいかと思いはじめたところで筆化けが気づいて、今度はわたしに抱きついてきた。
『あかり! 書道パフォーマンスというのはとても興奮するね! 部員たちの熱い思いに胸をうたれたよ』
『感動的でした! みなさんのがんばりもさることながら、筆化け様のりりしいお姿もすてきでしたわ』
『舞ちゃんのあの紙吹雪のタイミングもなんとも絶妙ですばらしかったよ』
『まあ、筆化け様ったら』
お互いを褒めあうのはいいけれど、わたしに抱きつきながらまたふたりの世界に入っていこうとするのはやめてほしい。
「ありがとうございました。とても幻想的ですてきだったとわたしも思います。おふたりのおかげです!」
お礼を言いながら両手で押してどうにかふたりから離れた。
筆化けと紙舞は、これからも書道部のことを見守っていこうと熱く語り合っている。
これで当分の間は仲良く過ごしてくれそうだけど、墨を欠かさず定期的に貢ぎ続けるとなおいいかもしれない。
京香ちゃんに、部室の後ろの棚に墨を置いておくと運気がアップすると言っておこう。
そして筆化けと紙舞に手をふって別れ、書道部を追いかけて校舎の裏へと向かったのだった。
校舎の建物の角を曲がろうとしたところで、書道部の顧問の先生の声が聞こえてきた。
2週間後に書道パフォーマンス甲子園の出場をかけて地区代表校をきめる予選大会があるらしい。
その内容を聞いて、いまここで部外者のわたしが行くべきではないと足を止めて話が終わるのを待った。
まず京香ちゃんに、とっても感動的だったと言おう。
そのあと藤堂君に約束通りたこ焼きを買ってきたことを話して、そのついでに……かっこよかったと伝えたい。
ドキドキしながらそんなことを考えていた。
「以上です。では着替えをして道具を部室に片付けたらあとは自由行動ということで解散してください」
顧問の先生が話をしめくくる声が聞こえた。
着替えて後片付けをして……どのタイミングで声をかければいいだろう。
第二校舎は向こう側にあるから、部員さんたちはこっちを通らず反対側へ移動してしまうはずだ。
いま話しかけるより第二校舎の前で待っておくほうがいいかな。
顔だけのぞかせて様子をうかがってみる。
すると、パフォーマンスメンバーのひとりだった女の子が藤堂君に何か言いながらタオルを差し出している光景が目に飛び込んできた。
藤堂君も何か言いながらタオルを受け取り、首や顔をふいている。
その横顔は、いつも1年5組の教室で見せている不機嫌そうな表情ではなく、とてもいい笑顔だった。
わたしはその光景になぜかひどくショックを受けて、足を動かせなくなってしまった。
藤堂君たちのパフォーマンスを見てすごく感動したということをすぐにでも伝えたくてここまで追いかけてきた高揚感が、あっというまにしぼんでいく。
かたむけていた上半身をまっすぐにもどし、その場でじっと書道部のみんなが移動していく音を聞いていた。
妖に憑かれやすい体質のせいで青春することもできないと言ういつも不機嫌な藤堂君に、こういう「ザ・青春」みたいな体験をするチャンスを逃してほしくなかった。
そして、怖い人だと勘違いされやすい藤堂君が本当はよく笑うわたしたちと同じただの高校1年生の男の子なんだということを、まわりの人たちにわかってほしかった。
書道パフォーマンスをやってみればいいじゃないかと強引にすすめたのはわたし自身だ。
パフォーマンスは大成功したし、藤堂君は短期間で書道部の1年生たちとすっかり打ち解けている。
わたしの目論見通りの結果になったのだから、喜ばしいことのはずだ。
それなのに、ちっともうれしくない。
他の子に、あんなふうに笑わないでほしい。
そうに思ってしまった自分の心のせまさがイヤでしかたない。
藤堂君が本当はよく笑う人だってみんなに知ってもらいたい――それは裏を返せば「みんなが見たことのない藤堂君の笑顔をわたしは知っている」「わたしといるときにしか見せないんだから」という傲慢なうぬぼれだったんだと気づいた。
うぬぼれとやきもち。
気づいてしまえばとてもシンプルなことで、つまりわたしは藤堂君のことが好きだったんだ。
たぶん、あの笑顔をはじめて見たときからずっと――。
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