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「おかしくない? お祓いで祓ったものって誰かに乗り移ったりするものなの?」
「普通はそうじゃないだろうな」

 参道の脇にある待合所の外側。
 竹製の長椅子にならんで座り、あれこれ疑問だらけのこの状況を整理することにした。

「だったらどうしてそのまんま飛んできて藤堂君にくっついちゃうの?」
「うちのじいちゃんはちゃんとお清めもしてたんだけどさ、父さんに代替わりしてからこうなったんだ」
 藤堂君が遠い目で空を見ている。

 予想通り、昔わたしのお祓いをしてくれたあの神主さんが藤堂君のおじいさんのようだ。

「じいちゃんはさ、俺が憑かれやすい体質だってわかってたらしくて、よく『それは神様からの贈り物だから悲観することはない』って言ってくれたんだ。2年前に死んじゃったけどな」

 おじいちゃんのことが大好きだったという藤堂君に「わたしもまったく同じことを言われたよ」と言っていいのかわからなくて、うんうんとうなずくにとどめた。

 つまり、おじいさんが亡くなって代替わりした2年前から藤堂君の背中に妖が積もりはじめたということか。

「でも藤堂君のお父さんって、なんでも簡単に祓っちゃう凄腕の祓い屋だって評判だよね?」
「うん。だからさ、あの人は清めることまではできないけど、憑き物をはがすのは得意でなんだってはがせるってこと」

 憑き物をはがすのが得意な父親と、憑かれるのが得意な息子――組み合わせとしては悪くない気もする。

 お父さんにお祓いしてもらったことはあるのかと聞くと「当然ある」と藤堂君がご機嫌ななめな様子で答えた。
「一斉に飛んで行ったあと、ゴムでつながってんのかって思うぐらいあっけなくみんな戻ってくる」

 なんとなく予想していた通りの返答だ。
 うん、そうなっちゃうだろうね。
 じゃあどうしようもないよね。
 
 藤堂君のひざの上に乗る猫はまだ拝殿のほうを見つめている。

『弥一の背中はねえ、居心地がいいんだよう』
『わたしたちここで少しずつ癒されているのよ』
 藤堂君が背負っている山からそんな声が聞こえてくる。
 
 なるほど、藤堂君の体からはマイナスイオンが出ているってことでオーケー?

 あまりくわしくはないけど、たしか死者の霊は成仏させたほうがいいはずだ。
 それに対して妖はもともと人間と共存していた存在で、いたずら好きではあるけど本来ひどい悪さはしないと聞いたことがある。
 でも妖たちの機嫌を損ねるようなことをして怒らせたり、人間の悪意や悪い環境に長い間さらされているうちに「闇落やみおち」してしまうこともあるらしい。

 人にべったり憑いている妖はたいてい闇落ちした妖だ。
 だからわたしは、山ほど妖を背負っている藤堂君のことをどんだけ罪深い人なんだろうかと思っていた。
 でも、藤堂君が背負っている妖たちは周囲をまきこむような悪いことはしていない。
 その理由がわかった。
 
 藤堂君がどこまで意識してやっているのかは知らないけど、闇落ちして悪いことばかりをくりかえしていた妖たちは、祓われて藤堂君にくっついたあと、そこでゆっくりけがれを落としているってことだ。

 だから藤堂君に乗っかってる妖たちはみんないい表情をしているんだね。

 妖とは直接会話したくないわたしは、彼らの主張を藤堂君に伝えた。
「弥一の背中は居心地が良くて、そこでゆっくり癒されているらしいよ」

「もしかして会話できんの? やば……すげえじゃん。俺はコイツらのことつかめるけど声は聞こえないんだ。っていうか、いきなり下の名前で呼ぶなよ」

 しまった。妖と会話できるのを自分からバラしてしまった!
「妖の言葉をそのまま伝えただけだよ。藤堂君、みなさんから『弥一』って呼ばれて慕われてるよ。人間からも妖からもモテモテだね」

「浮島さん、下の名前は?」
「え、あかりだけど」

 すると藤堂君がちょっと意地悪そうに笑う。
「みんなー、この子のこと『あかり』って呼んでやって」

『あかりー』
『あかり!』
 妖たちの「あかりコール」がはじまった。

 ちょっと! やめてよ! なんの嫌がらせ!?

 
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