74 / 75
10皿目 試練の塔とクッキー型の秘密
(4)
しおりを挟む
デザートまで全て食べ終えてレオナルドが淹れてくれた紅茶を飲む頃には、窓から見える空がオレンジ色に染まっていた。
「ところで、さっき『大食いの呪い』って言ってたけど、どういった経緯で?」
レオナルドが首を傾げる。
大食いの呪いにかかる魔道具は、クッキー型だけではないらしい。
リリアナはマジックポーチから、大食いの呪いをもたらした星の形のクッキー型を取り出しテーブルの上に置く。
「これよ」
レオナルドはクッキー型を持ち上げると、手首を動かして外側と内側を見てまたテーブルに戻した。
「説明書、読まなかったの?」
「なかったの」
リリアナはテオとは違い、説明書を読まないタイプではない。ごく普通に見えるこのクッキー型が実は魔道具だと最初から知っていれば、触れることさえしなかったはずだ。
「お父様の誕生日にクッキーを焼いてプレゼントしようと思ったの。そしたらどういう訳かこのクッキー型が混ざっていて、呪われちゃったってこと」
実家で起きた不幸な事故について、かいつまんで説明した。
「ふうん。それで、大食いを解除していいんだね?」
レオナルドが口の片方だけを上げてなにか言いたげな顔をしている。
「どういう意味?」
眉を顰めるリリアナに、レオナルドはくくっと笑って椅子の背にもたれた。
「大食いでなくなったら、このクッキー型を活かせなくなるって意味だよ」
思わせぶりな言い方に戸惑うリリアナだ。
「知らないままで構わないわ。わたしは大食いの呪いを解いてもらって、冒険者を引退するつもり……」
ふとハリス、テオ、コハクの顔が浮かんできて、言葉が尻すぼみになった。
「特別に教えてあげよう。その上で決めるといいよ」
レオナルドが立ち上がってクッキー型を手に取る。
「これはね――」
******
「またおいで」
クッキー型を握るリリアナを、レオナルドが優しく抱きしめる。
リリアナが別れの言葉を告げる前に視界が暗転した。
数回の瞬きの後、リリアナはガーデンの門の外に立っていることに気づいた。
まだレオナルドの温もりが残っていて、まるで夢を見ていたかのようだ。
「リリアナ!」
テオの声が聞こえた瞬間、ぎゅうっと抱きしめられる。
「日が暮れても戻ってこないから心配してた」
テオの吐息が耳に当たってくすぐったい。リリアナは、うふふっと笑った。
「レオナルドに会ってきたわ。顔を合わせるなり殴ってやったわよ」
テオの肩越しに、ハリスとコハクが見える。
「そうか。じゃあこれから祝賀会だな」
ハリスが破顔し、コハクが足元にすり寄ってきた。
「腹減ってるだろ、さっそく……」
体を離したテオが張り切った様子でリリアナの手を引こうとして動きを止め、顔をくしゃりとゆがめる。
「そうか。もう大食いじゃなくなったんだよな」
「ところで、さっき『大食いの呪い』って言ってたけど、どういった経緯で?」
レオナルドが首を傾げる。
大食いの呪いにかかる魔道具は、クッキー型だけではないらしい。
リリアナはマジックポーチから、大食いの呪いをもたらした星の形のクッキー型を取り出しテーブルの上に置く。
「これよ」
レオナルドはクッキー型を持ち上げると、手首を動かして外側と内側を見てまたテーブルに戻した。
「説明書、読まなかったの?」
「なかったの」
リリアナはテオとは違い、説明書を読まないタイプではない。ごく普通に見えるこのクッキー型が実は魔道具だと最初から知っていれば、触れることさえしなかったはずだ。
「お父様の誕生日にクッキーを焼いてプレゼントしようと思ったの。そしたらどういう訳かこのクッキー型が混ざっていて、呪われちゃったってこと」
実家で起きた不幸な事故について、かいつまんで説明した。
「ふうん。それで、大食いを解除していいんだね?」
レオナルドが口の片方だけを上げてなにか言いたげな顔をしている。
「どういう意味?」
眉を顰めるリリアナに、レオナルドはくくっと笑って椅子の背にもたれた。
「大食いでなくなったら、このクッキー型を活かせなくなるって意味だよ」
思わせぶりな言い方に戸惑うリリアナだ。
「知らないままで構わないわ。わたしは大食いの呪いを解いてもらって、冒険者を引退するつもり……」
ふとハリス、テオ、コハクの顔が浮かんできて、言葉が尻すぼみになった。
「特別に教えてあげよう。その上で決めるといいよ」
レオナルドが立ち上がってクッキー型を手に取る。
「これはね――」
******
「またおいで」
クッキー型を握るリリアナを、レオナルドが優しく抱きしめる。
リリアナが別れの言葉を告げる前に視界が暗転した。
数回の瞬きの後、リリアナはガーデンの門の外に立っていることに気づいた。
まだレオナルドの温もりが残っていて、まるで夢を見ていたかのようだ。
「リリアナ!」
テオの声が聞こえた瞬間、ぎゅうっと抱きしめられる。
「日が暮れても戻ってこないから心配してた」
テオの吐息が耳に当たってくすぐったい。リリアナは、うふふっと笑った。
「レオナルドに会ってきたわ。顔を合わせるなり殴ってやったわよ」
テオの肩越しに、ハリスとコハクが見える。
「そうか。じゃあこれから祝賀会だな」
ハリスが破顔し、コハクが足元にすり寄ってきた。
「腹減ってるだろ、さっそく……」
体を離したテオが張り切った様子でリリアナの手を引こうとして動きを止め、顔をくしゃりとゆがめる。
「そうか。もう大食いじゃなくなったんだよな」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる