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8皿目 アルミラージのホットスープ
(9)
しおりを挟む洞穴の入り口に張ったレジャーシートの隙間から差し込むまぶしい光で目が覚めた。
頬をくすぐるモフモフの白い毛はコハクのもので、一晩中ずっと寄り添ってくれていたためちっとも寒くはなかった。
そこまで考えて、ガバッと上半身を起こした。
やだ! もう朝ってことは、ランタンの当番を交代せずにずっと寝てたってこと!?
ランタンは灯ったままで、しかも温かさも維持している。つまり――。
「よお、リリアナちゃん。朝から元気だな」
振り返ると、シュラフに足を突っ込んだ状態で岩壁にもたれて座っているアルノーがいた。
無精ひげが生え、目の下にはうっすらとクマが見える。
「ごめんなさい! 朝ごはんを作るから、その間休んでて」
自分が起きなかったせいでアルノーが寝ずの番をしてくれたのだろう。
そう思い込んでいるリリアナは昨夜のアルノーとコハクによる緊迫した出来事など梅雨知らず、焦りながら謝罪する。
アルノーは目を細めて笑った。
「ありがとよ、そうさせてもらう」
シュラフに身を包んでゴロリと横になるアルノーの様子を見届けて、気を取り直して料理に取り掛かるリリアナだ。
コハク用に取っておいたアルミラージの生肉を皿にのせて渡す。
「ありがとう、コハクのおかげでちっとも寒くなかったわ」
首やあごを撫でるとコハクは嬉しそうに喉を鳴らし、生肉を食べ始めた。
そしてリリアナは、昨日食べずに残しておいたアルミラージの骨付きモモ肉を取り出した。
一晩香辛料に漬けていたため、ちょうどいい具合に味がしみてやわらかくなっているに違いない。
魔導コンロに火をつけ、フライパンをのせて骨付きもも肉4つを並べる。
ジュージューと肉の焼ける音と香ばしい匂いに食欲をそそられ、リリアナの腹の虫が大騒ぎしはじめた。
昨日の食事は一般的には適量だが、大食いのリリアナにとってあの量はつまみ食い程度にしかならない。
我慢できずにマジックポーチからチョコレートバーを取り出し、かじりながら調理を続ける。
ぐっすり眠らせてもらったおかげで魔力はバッチリ回復している。外の吹雪もおさまったようだから、非常食を温存させておく必要もないだろう。
表面にほどよい焦げ目をつけて焼きあがった骨付き肉をひとつずつ皿に盛る。
「お待たせ!」
リリアナが肩を軽く揺すると、アルノーは大あくびをしながら体を起こした。
「美味そうな匂いだな」
後頭部をボリボリかきながらシュラフから抜け出したアルノーに皿を差し出す。
「さ、食べましょっ!」
もう待ちきれないリリアナだった。
アルミラージのモモ肉から立ち上る湯気がなんとも薫り高い。
骨を持ってひと口かじると、表面の香ばしさの後にジューシーな肉汁が広がった。肉は骨から簡単に外れるほどやわらかく、噛むたびに旨味があふれ出す。
リリアナは無言のままアルミラージのモモ肉を堪能し、あっという間に食べ終えた。
アルノーはまだ半分も食べていない。
「リリアナちゃん若いなあ。いいよ、腹減ってんなら残りも食べて」
「ありがとう! 遠慮なくいただくわ!」
残りのモモ肉もペロリと平らげるリリアナを、アルノーは呆れて苦笑しながら見ていた。
片づけを終えて、洞穴を出た。
雪は膝下まで積もっているが、空は晴れている。
探索スキルの高いアルノーが拠点を探してくれるだろう。
そう思いながらリリアナがコハクに跨ろうとした時、遠くからテオの声が聞こえた。
「リリアナー!!」
探しに来てくれたんだ!
リリアナは返事の代わりに手のひらを空に向け、魔法を編んで閃光弾を2発上げる。
ほどなくして、雪を掻きわけながら走ってくるテオの姿が見えた。
「テオー! こっち、こっち!」
リリアナが笑顔で手を振ると、テオは一瞬立ち止まり顔をゆがませた。
そしてさらにスピードを速めてやってきたテオは、リリアナをぎゅうっと抱きしめる。
テオの顔がとても熱く感じるのは、自分の顔が冷え切っているからだろうか。
「テオ? もしかして泣いてるの?」
「泣いてねーし!」
リリアナはテオの顔を見ようともがいたものの、さらに強く抱きしめられてしまった。
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