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8皿目 アルミラージのホットスープ

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(アルノー視点)

 リリアナが規則正しい寝息を立て、彼女の体を包むように寄り添うコハクもぐっすり眠っているようだ。
 アルノーは約束を守って魔導ランタンの暖房効果を維持するために微量の魔力を流し続けていたが、その裏でこの機会を待っていたのだ。

 メンバーに見捨てられた悔しさから思わず事情をしゃべりすぎた。リリアナに雪崩を引き起こした原因まで気づかれてしまった。
 ギルドの調査が入って聴取されたらリリアナはその話を正直に答えるに違いない。
 メンバーに見捨てられた上に多大なペナルティが課せられるだなんて冗談じゃない。踏んだり蹴ったりじゃないか!

 俺を置いていった所属パーティーは性根の曲がったヤツらばかりだから、ペナルティを食らわないように口裏を合わせて嘘をつくに違いない。俺が生きて帰れば慌てて口止めしてくるはずだ。
 そこで恩を売れば、あいつらに大きな顔ができる。ちょっとゆすって金をもらい、もう冒険者家業から足を洗ってガーデンを離れよう。
 だから真実を知ってしまったリリアナは、申し訳ないが口封じする必要がある。雪崩に巻き込まれた後オウルベアに襲われたように偽装すればいい。
 嬢ちゃん、悪いな。あんたナイフを俺に預けたままなんて、お人好しが過ぎるぜ。
 
 音を立てないよう静かに立ち上がった。
 ナイフを握りゆっくりとリリアナに近づいた時、コハクの寝息がピタリと止まって瞼が開く。琥珀色の目は獰猛な殺気を隠すことなくこちらへぶつけてきた。

 やべ……これ死んだな。
 心臓が縮みあがるような恐怖に立ちすくむ。これ以上リリアナに近づけばコハクの攻撃にあって、なすすべなく一瞬で殺されるだろう。
 リリアナがコハクのことを「用心棒」と言っていたのは本当だったようだ。
 
 ナイフを捨て両手をあげて降参した。
「冗談だって。ただ、そろそろ交代してもらおうかって思っただけだよ」
 冷や汗をかきながら愛想笑いを浮かべて苦しい言い訳を試みる。

 コハクはこちらをじっと睨み続けている。ここで目をそらせば命はないだろう。
 リリアナを殺して口封じしようなどと考えたことを心底後悔した。
 どうかしていた。魔がさしたというやつだろうか。この子は雪崩に巻き込んだことをたいして怒りもせず、自分を信頼して美味しいガーデン料理を振る舞ってくれたというのに。
 命が繋がれば潔くペナルティを受け、冒険者からも足を洗ってまっとうに生きていこう。
 
 その反省の念がコハクにも伝わったのだろうか、一度瞬きした琥珀色の目から殺気が消えた。
 そしてコハクはフンッと鼻を鳴らすと、再び目をつむりリリアナに寄り添う。
 まるで『妙なことを考えた罰として、夜明けまでおまえがランタンの当番を続けろ』とでも言いたげな様子に苦笑した。

 見逃してくれたらしい。
 こわばっていた全身の力を抜いてシュラフに足を突っ込み、その罰を甘んじて受け入れたのだった。
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