51 / 75
7皿目 海王魚のカルパッチョ
(2)
しおりを挟む
リリアナはクラーケンに狙いを定め、両方の手のひらに魔力をこめて水三叉槍を2本放つ。
2本の槍が見事にクラーケンの急所である目と目の間に刺さり、一発で仕留めることができた。
次にその槍を刺したまま柄を長く伸ばして手で握ると、引っ張りながら海面に浮上する。
槍の片方をコハクに咥えてもらい、一緒に牽引して波打ち際まで戻った。
クラーケンはすでに絶命していたが、海面から姿が出た途端ずっしり重くなる。
ここからはハリスの仕事だ。
バーベキューの用意を整えたハリスが、大きな木桶と出刃包丁を持ってやってきた。
「なかなか立派なクラーケンだな」
ハリスがクラーケンを手早く解体していく。
墨の袋は染料やインクの素材となるため、破らないよう慎重に取り出してマジックポーチへ入れた。
リリアナは、ハリスが先に切り落としてくれた足の部分に塩を揉みこんでヌメリを取った。ナイフで食べやすい大きさに切り分けると、辛みのある香辛料をサッと振って串に刺し、網の上に並べて焼き始める。
たちまち胃袋をギュッと掴まれるような香ばしい匂いと煙が立ち込める。
その匂いでどうにも我慢できなくなったリリアナは、砂浜に自生するオカヒジキを採集した。
鮮やかな緑色の茎は柔らかく、味は淡白でクセがないため生でも食べられる。
水で良く洗って砂を落としナイフでザクザク切ると、同じくひと口大に切ったクラーケンの足、ワインビネガー、甘くスッとした香りの香辛料とよく和えて即席のマリネを作った。
網で焼いている足を時折ひっくり返しながら、マリネをつまむ。
イカによく似た独特の風味とワインビネガーの酸味がマッチしている。頬の内側に吸い付いてくる吸盤とオカヒジキのシャキシャキした食感も楽しい。
しかし、なにか物足りないことに気付いて顔を上げた。
いつもなら料理の匂いが漂い始めたところで必ずテオがやって来て、茶化したりつまみ食いしてきたりするはずなのに……。
まさか、溺れてる!?
調理に夢中になってしまったことを反省しながら、リリアナは慌てて視線を巡らせてテオを探す。
すると海でバシャバシャ泳いでいる姿をすぐに見つけてホッと胸をなでおろした。
コハクがちゃんと見張ってくれていたようだ。
といっても、得意げにスイスイ泳ぐコハクを、テオは相変わらず顔を真っ赤にしてなにか叫びながら追いかけようともがいているのだが。
「焼けたわよー!」
リリアナが大きな声で呼ぶと、ようやくテオとコハクが海から上がってきた。
コハクがブルブルと体を揺らして飛んだ水しぶきがテオにかかる。
「てめえ、ほんとに焼いて食ってやるからな!」
「ガウ、ガウッ!」
やれるならやってみろ、泳げもしないくせに!とでも言いたげなコハクだ。
「お疲れさま」
リリアナは苦笑しながらクラーケンの串焼きをテオに渡す。
コハクには、バーベキューセットをレンタルした時に一緒に購入した生肉を皿にのせて渡した。
クラーケンを捌き終えたハリスも戻ってきた。
「後は俺が焼くから、リリアナも食べろ」
その言葉に遠慮なく甘えて、リリアナはクラーケンにかぶりつく。
鮮度のいいクラーケンは焼いても柔らかく、ほどよい弾力で奥歯が押し戻される感覚が楽しい。
ピリっと辛い香辛料を軽く振っただけのシンプルな味付けも美味しかったが、ハリスの味付けはその数段上をいっていた。
クラーケンの肝をよく潰してニンニク系のハーブと、塩、香辛料を混ぜたつけダレが絶品だったのだ。
濃厚なコクとクラーケンの風味を凝縮したような旨味にやみつきになる。噛むほどに口の中で甘みが増すのもいい。
肝を使うアイデアと適切な処理、絶妙な味付け。さすがは一流の調理士だ。
これで大いびきと寝起きの悪さがなければ、最高にカッコいいイケおじなんだけどね。
そんなことを考えて、リリアナはクスっと笑う。
こうして、中型のクラーケンを余すことなく食べ切る大満足のバーベキューとなった。
腹ごしらえをすませたら、ようやく依頼の遂行だ。
「宝石貝がいるのは海底だから、テオは無理よね。砂浜で殻を開けるほうを担当してもらえる?」
リリアナの提案にテオは気色ばむ。
「なんだよ、偉そうに! リリアナ、おまえと泳ぎで勝負して決めようぜ!」
「いいわよ。受けて立つわ」
負けるはずないじゃない!
リリアナは自信満々だった。
2本の槍が見事にクラーケンの急所である目と目の間に刺さり、一発で仕留めることができた。
次にその槍を刺したまま柄を長く伸ばして手で握ると、引っ張りながら海面に浮上する。
槍の片方をコハクに咥えてもらい、一緒に牽引して波打ち際まで戻った。
クラーケンはすでに絶命していたが、海面から姿が出た途端ずっしり重くなる。
ここからはハリスの仕事だ。
バーベキューの用意を整えたハリスが、大きな木桶と出刃包丁を持ってやってきた。
「なかなか立派なクラーケンだな」
ハリスがクラーケンを手早く解体していく。
墨の袋は染料やインクの素材となるため、破らないよう慎重に取り出してマジックポーチへ入れた。
リリアナは、ハリスが先に切り落としてくれた足の部分に塩を揉みこんでヌメリを取った。ナイフで食べやすい大きさに切り分けると、辛みのある香辛料をサッと振って串に刺し、網の上に並べて焼き始める。
たちまち胃袋をギュッと掴まれるような香ばしい匂いと煙が立ち込める。
その匂いでどうにも我慢できなくなったリリアナは、砂浜に自生するオカヒジキを採集した。
鮮やかな緑色の茎は柔らかく、味は淡白でクセがないため生でも食べられる。
水で良く洗って砂を落としナイフでザクザク切ると、同じくひと口大に切ったクラーケンの足、ワインビネガー、甘くスッとした香りの香辛料とよく和えて即席のマリネを作った。
網で焼いている足を時折ひっくり返しながら、マリネをつまむ。
イカによく似た独特の風味とワインビネガーの酸味がマッチしている。頬の内側に吸い付いてくる吸盤とオカヒジキのシャキシャキした食感も楽しい。
しかし、なにか物足りないことに気付いて顔を上げた。
いつもなら料理の匂いが漂い始めたところで必ずテオがやって来て、茶化したりつまみ食いしてきたりするはずなのに……。
まさか、溺れてる!?
調理に夢中になってしまったことを反省しながら、リリアナは慌てて視線を巡らせてテオを探す。
すると海でバシャバシャ泳いでいる姿をすぐに見つけてホッと胸をなでおろした。
コハクがちゃんと見張ってくれていたようだ。
といっても、得意げにスイスイ泳ぐコハクを、テオは相変わらず顔を真っ赤にしてなにか叫びながら追いかけようともがいているのだが。
「焼けたわよー!」
リリアナが大きな声で呼ぶと、ようやくテオとコハクが海から上がってきた。
コハクがブルブルと体を揺らして飛んだ水しぶきがテオにかかる。
「てめえ、ほんとに焼いて食ってやるからな!」
「ガウ、ガウッ!」
やれるならやってみろ、泳げもしないくせに!とでも言いたげなコハクだ。
「お疲れさま」
リリアナは苦笑しながらクラーケンの串焼きをテオに渡す。
コハクには、バーベキューセットをレンタルした時に一緒に購入した生肉を皿にのせて渡した。
クラーケンを捌き終えたハリスも戻ってきた。
「後は俺が焼くから、リリアナも食べろ」
その言葉に遠慮なく甘えて、リリアナはクラーケンにかぶりつく。
鮮度のいいクラーケンは焼いても柔らかく、ほどよい弾力で奥歯が押し戻される感覚が楽しい。
ピリっと辛い香辛料を軽く振っただけのシンプルな味付けも美味しかったが、ハリスの味付けはその数段上をいっていた。
クラーケンの肝をよく潰してニンニク系のハーブと、塩、香辛料を混ぜたつけダレが絶品だったのだ。
濃厚なコクとクラーケンの風味を凝縮したような旨味にやみつきになる。噛むほどに口の中で甘みが増すのもいい。
肝を使うアイデアと適切な処理、絶妙な味付け。さすがは一流の調理士だ。
これで大いびきと寝起きの悪さがなければ、最高にカッコいいイケおじなんだけどね。
そんなことを考えて、リリアナはクスっと笑う。
こうして、中型のクラーケンを余すことなく食べ切る大満足のバーベキューとなった。
腹ごしらえをすませたら、ようやく依頼の遂行だ。
「宝石貝がいるのは海底だから、テオは無理よね。砂浜で殻を開けるほうを担当してもらえる?」
リリアナの提案にテオは気色ばむ。
「なんだよ、偉そうに! リリアナ、おまえと泳ぎで勝負して決めようぜ!」
「いいわよ。受けて立つわ」
負けるはずないじゃない!
リリアナは自信満々だった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
嘘はあなたから教わりました
菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした
星ふくろう
恋愛
カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。
帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。
その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。
数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。
他の投稿サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる