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7皿目 海王魚のカルパッチョ

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 リリアナはクラーケンに狙いを定め、両方の手のひらに魔力をこめて水三叉槍ウォータートライデントを2本放つ。
 2本の槍が見事にクラーケンの急所である目と目の間に刺さり、一発で仕留めることができた。
 次にその槍を刺したまま柄を長く伸ばして手で握ると、引っ張りながら海面に浮上する。
 槍の片方をコハクに咥えてもらい、一緒に牽引して波打ち際まで戻った。

 クラーケンはすでに絶命していたが、海面から姿が出た途端ずっしり重くなる。
 ここからはハリスの仕事だ。
 バーベキューの用意を整えたハリスが、大きな木桶と出刃包丁を持ってやってきた。
「なかなか立派なクラーケンだな」

 ハリスがクラーケンを手早く解体していく。
 墨の袋は染料やインクの素材となるため、破らないよう慎重に取り出してマジックポーチへ入れた。

 リリアナは、ハリスが先に切り落としてくれた足の部分に塩を揉みこんでヌメリを取った。ナイフで食べやすい大きさに切り分けると、辛みのある香辛料をサッと振って串に刺し、網の上に並べて焼き始める。
 たちまち胃袋をギュッと掴まれるような香ばしい匂いと煙が立ち込める。
 
 その匂いでどうにも我慢できなくなったリリアナは、砂浜に自生するオカヒジキを採集した。
 鮮やかな緑色の茎は柔らかく、味は淡白でクセがないため生でも食べられる。
 水で良く洗って砂を落としナイフでザクザク切ると、同じくひと口大に切ったクラーケンの足、ワインビネガー、甘くスッとした香りの香辛料とよく和えて即席のマリネを作った。
 網で焼いている足を時折ひっくり返しながら、マリネをつまむ。
 イカによく似た独特の風味とワインビネガーの酸味がマッチしている。頬の内側に吸い付いてくる吸盤とオカヒジキのシャキシャキした食感も楽しい。

 しかし、なにか物足りないことに気付いて顔を上げた。
 いつもなら料理の匂いが漂い始めたところで必ずテオがやって来て、茶化したりつまみ食いしてきたりするはずなのに……。
 まさか、溺れてる!?
 調理に夢中になってしまったことを反省しながら、リリアナは慌てて視線を巡らせてテオを探す。
 すると海でバシャバシャ泳いでいる姿をすぐに見つけてホッと胸をなでおろした。
 コハクがちゃんと見張ってくれていたようだ。
 といっても、得意げにスイスイ泳ぐコハクを、テオは相変わらず顔を真っ赤にしてなにか叫びながら追いかけようともがいているのだが。

「焼けたわよー!」
 リリアナが大きな声で呼ぶと、ようやくテオとコハクが海から上がってきた。
 コハクがブルブルと体を揺らして飛んだ水しぶきがテオにかかる。
「てめえ、ほんとに焼いて食ってやるからな!」
「ガウ、ガウッ!」
 やれるならやってみろ、泳げもしないくせに!とでも言いたげなコハクだ。
 
「お疲れさま」
 リリアナは苦笑しながらクラーケンの串焼きをテオに渡す。
 コハクには、バーベキューセットをレンタルした時に一緒に購入した生肉を皿にのせて渡した。

 クラーケンを捌き終えたハリスも戻ってきた。
「後は俺が焼くから、リリアナも食べろ」
 その言葉に遠慮なく甘えて、リリアナはクラーケンにかぶりつく。

 鮮度のいいクラーケンは焼いても柔らかく、ほどよい弾力で奥歯が押し戻される感覚が楽しい。
 ピリっと辛い香辛料を軽く振っただけのシンプルな味付けも美味しかったが、ハリスの味付けはその数段上をいっていた。
 クラーケンの肝をよく潰してニンニク系のハーブと、塩、香辛料を混ぜたつけダレが絶品だったのだ。
 濃厚なコクとクラーケンの風味を凝縮したような旨味にやみつきになる。噛むほどに口の中で甘みが増すのもいい。
 肝を使うアイデアと適切な処理、絶妙な味付け。さすがは一流の調理士だ。

 これで大いびきと寝起きの悪さがなければ、最高にカッコいいイケおじなんだけどね。
 そんなことを考えて、リリアナはクスっと笑う。
 こうして、中型のクラーケンを余すことなく食べ切る大満足のバーベキューとなった。

 腹ごしらえをすませたら、ようやく依頼の遂行だ。
「宝石貝がいるのは海底だから、テオは無理よね。砂浜で殻を開けるほうを担当してもらえる?」
 リリアナの提案にテオは気色ばむ。
「なんだよ、偉そうに! リリアナ、おまえと泳ぎで勝負して決めようぜ!」
「いいわよ。受けて立つわ」

 負けるはずないじゃない!
 リリアナは自信満々だった。
 
 
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