上 下
41 / 75
6皿目 ソバ粉のガレット

(5)

しおりを挟む
 録音石という魔石がある。
 ガーデンの熱帯エリアに生息するオウム似のカラフルな鳥型の魔物・コダマ鳥から採れる石だ。コダマ鳥は、周りの音や声を真似るのではなく鮮明に録音し、再生する変わった能力がある。
 そのコダマ鳥の喉から稀に採れる石は綺麗な緑色をしている。

 これを特殊な製造方法で加工したのが録音石だ。
 コダマ鳥は数が少なく稀にしか採集できないため、きわめて希少価値の高い魔石で、ガーデン管理ギルドが録音石の製造方法を秘匿し流通を独占している。それを高値で各国の要人に売っているという噂もある。

 今回の潜入ミッションにあたり、録音石をギルドから借りた。リリアナは実物を見るのは初めてだ。革のベルトの装飾を装った緑色の小さな石を眺めていると、誓約書へのサインを求められた。
 この石を悪用したり横流した場合は、口がオウムのクチバシになる呪いにかかると明記されている箇所を読み、ゾッとしたリリアナだ。
 
 大食いの呪いだけでも厄介なのに、クチバシ!? 冗談じゃないわ、食べにくいじゃないの!
 そう思いながらサインをした。

 その録音石があしらわれたベルトをコハクの首輪の上に巻いて、別行動させていたという訳だ。
 録音石を借りた時に教えられた再生の呪文をハリスが唱えると、石から音が流れ始める。
 最初は雑踏の音が続いていた。
 途中でハリスとブルーノ会長の声が聞こえ始めた。これはブルーノ商会からソバの実亭へ向かう途中に交わしていた会話だ。
 リリアナはあの時コハクがどこにいるか把握していなかったが、しっかり後を付けていたらしい。
 そしてまた雑踏がしばらく続く。

『はい、また来ますね。ごちそうさまでした』
 リリアナの声が聞こえる。ソバの実亭から出てきた時の会話だろう。
 この後コハクは、ブルーノ会長を尾行したはずだ。
 するとその後すぐに、ボソボソとした声が聞こえた。

 
『あのふたりだ。頼むぞ』
 低い声だがブルーノ会長ものだと思われる。

「やっぱり尾行はブルーノ会長の差し金だったのね」
 リリアナが呟くとハリスも無言で頷いた。
 食事に誘って時間稼ぎをし、その間に尾行役を手配したのだろう。

 次に会話が聞こえた場所は、ブルーノ商会の一室のようだった。
 ドアの開閉音の後、ブルーノ会長ともうひとり男の声がする。
 
『あちこちで聞き込みをしながら宿に入っていきました』
『ご苦労だった』
『明後日の取引はどうします?』
『予定通りだ。ただしこれが最後だな。それにふさわしい取引だからちょうどよかった。よろしく頼む』
『かしこまりました』
 
 コハクは、この部屋の窓のひさしかフラワーボックスにでも潜んでいたに違いない。レオリージャの知能が高いことは知っているリリアナだが、なんて優秀なんだろうかと感心しながら膝の上のコハクを優しく撫でる。

 ガーデンの魔物は、冒険者のことを自分の主人であると認めなければペットにはならない。
 ただ捕まえて無理矢理首輪を着けたとしても、首輪の効果は発動しない。
 圧倒的な力の差があって服従を誓ったり、懐いて心を許さなければ冒険者のペットにはならないのだ。

 冒険者に信頼を寄せて主従契約を結んだのに、そのペットを横流しして弱体化させたまま貴族の自己顕示欲を満たすための愛玩動物にするなど、断じて許してはならない。
 クアッと小さくあくびをするコハクの柔らかい毛を撫でながら、リリアナはこの一件の完全決着を心に誓った。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...