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6皿目 ソバ粉のガレット

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 ハリスは単刀直入に、ペットの違法取引について切り出した。
「この街を経由してラシンダ王国へ輸出される荷物の中に、ガーデンの魔物が紛れているという情報が入りまして、調査に来ました」
「はい。事前にガーデン管理ギルドさんから調査協力の連絡がありましたので承知しております。商会をあげて全面協力しますので、徹底調査をお願いいたします」
 ブルーノ会長は笑顔の仮面の張り付けていて胸の内が読めない。

「心当たりは?」
 ハリスが聞くと、ブルーノ会長は首をひねった。
「ありませんねえ。国境を通過する全ての積み荷を当商会が把握しているわけではございませんので」
 リリアナにはブルーノ会長の言葉がどうも言い訳じみているように聞こえる。

 腹の探り合いに緊張して喉が渇いたリリアナは、目の前のティーカップに手を伸ばした。
 ひと口飲めば、香ばしい匂いとまろやかな甘みが広がる。
「これ、もしかして?」
「特産のソバの実を焙煎したソバ茶です」
 ブルーノ会長がにっこり笑う。
「やっぱりそうなんですね! 香ばしくて美味しいです!」
 初めて味わうソバの風味に感動するリリアナの横で、ハリスもソバ茶を飲んでいる。

「気に入っていただけたのなら、ソバ料理はいかがです? おすすめの料理店にご案内しますよ」
 ちょうど腹ペコだったリリアナが確認するようにハリスに目を向けると、頷いて了承してくれた。
「ぜひお願いします!」

 ブルーノ会長の案内で入った『ソバの実亭』は、無垢材のテーブルやイスで統一されシンプルで落ち着いた雰囲気の飲食店だった。
「味はいいんですよ。しかし、この貧乏くさい店内をどうにかしろといつも言っているんですがねえ」
 ブルーノ会長は不満げに言うが、少なくとも貧乏くさいなんてことは決してない。リリアナはこの素朴な感じが逆に趣深くていいと思う。

「じゃあ、卵と生ハムのガレット5人前と、季節野菜のガレットを5人前。それに……」
「ええっ!?」
 リリアナが注文を始めるとブルーノ会長は目を丸くして驚き、ハリスは苦笑したのだった。


 ソバ粉のガレットは、小麦粉を使用するガレットよりも生地の色が茶色い。焦げているのではなくソバ粉特有の色のためだ。
 ガレットとは、丸く伸ばして焼いた生地の上に具材を乗せ端を折りたたんで正方形に整える料理らしい。

 リリアナは、まず角のソバ粉の生地の部分だけをナイフで切り取って食べてみた。
 ソバ独特の風味に塩味がよくマッチしている。
 外側はパリっと、中はもっちりとした食感も楽しい。

 これは卵やハムと一緒に食べたら美味しいに違いない!
 真ん中の半熟目玉焼きにナイフを入れるとトロリと黄身が流れる。
 お腹が空きすぎて豪快に噛りつきたいところだが、ここはガーデンではない。ブルーノ商会長もいるため行儀よく、ナイフで縦に細長く切り、具材とともにクルクル巻いてぱくりと食べた。
 生地表面の香ばしさが具材の味を邪魔することなく、いい引き立て役になっていてる。
 リリアナは満足そうな笑みを浮かべながら次々に口に運んでいった。
 
「これ、食事系からスイーツ系まで具材の組み合わせが無限大なんじゃないかしら!」
「そうだな」
 リリアナとハリスがそんな話をしていると、厨房からシェフが出てきた。
 
「ソバ粉のガレットはいかがでしたか?」
 スラっと背が高く一見男性かと見まがう容姿だが、声で女性だとわかった。
「ソバは初めてですけど、とても風味が良くて美味しいですね」
「ありがとうございます」
 にっこり微笑むシェフの視線がハリスに向けられるが、ハリスは黙ったままだ。

 ここでブルーノ会長が口を挟んできた。
「ヨアナ! この貧乏くさい店内のインテリアをどうにかしろと言ってるだろう」
「華美な装飾よりも、木の温もりを感じながら食べる方が落ち着くでしょう?」
 ブルーノ会長と同年代ぐらいだろうか。ヨアナが苦笑しながら負けじと言い返している様子に、ふたりの親密さが垣間見える。

「デザートにソバ粉のロールケーキとソバ茶をお持ちしますね」
 ヨアナは最後に再びハリスをチラリと見て厨房へ下がった。
 ブルーノ会長はいまだにブツブツと店内のインテリアに関する不満を漏らしていて気づいていないようだが、ハリスとヨアナが交わす視線になにか含みがあるように感じたリリアナだった。

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