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5皿目 ワカヤシのフリッター
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「いや、これ投げたの俺じゃないんで」
悪びれもせずに言う細目の男をテオが締め上げる。
「じゃあ誰が投げたんだよっ!」
「ぐっ……ぼ、坊ちゃんです……」
男は苦しそうにあえぎながら後方を指さした。
そこには屈強そうな冒険者たちが10人ほど立っていて、気まずそうにこちらの様子を窺っている。
その集団からひとり、全身を黒い装備で覆った白髪の男が歩み寄ってきた。
「そんなところに突っ立って、私の投げた兜に当たるようなマヌケなおまえが悪い」
飄々と言うその口調にテオがさらに怒りを募らせる。
「なんだとコラァ!」
テオが細目の男をぶん投げて、今度は白髪の男に掴みかかろうとした。
そのテオの鼻先に漆黒の剣が突きつけられた。
白髪の男が剣を抜いたのだ。
その場にいた全員に緊張が走る。
ガーデン内だけでなくこの街においても冒険者同士のいざこざはご法度だ。まして流血騒ぎでも起こせばそのペナルティは当事者同士のみならずパーティー全体に科せられる。
どうしてこうも血の気の多い人ばっかりなのよ。
連帯責任でわたしのポイントまで減っちゃうじゃない!
リリアナが焦りながら止めに入ろうとしたが、それよりも早くテオが漆黒の剣を手の甲で薙ぎ払った。
「――っ!」
落とした剣を拾おうと伸ばした男の手を踏みつけたテオが、勝ち誇ったように笑う。
「構え方がなってねえんだよ。弱いくせに粋がるな」
駆け寄ったリリアナは、白髪の男を見てひどく驚き立ち止まった。
彼の装備が全て黒龍シリーズで揃えられていたことに……ではなく、その容貌に驚いたのだ。
白髪に見えたのは光のせいで、よく見れば彼の髪はプラチナブロンドだった。そして燃えるような紅蓮の目。
それは、北方のルーノランド王家の一族である証だ。
十代だと思しきどこか幼さを残すその顔を見て、リリアナはひとりだけ思い当たる人物の名を記憶から手繰り寄せる。
ルーノランド国王の末っ子、第三王子のネリス殿下だ。
リリアナが他国の王族のことに詳しいのは、彼女の実家が周辺諸国とも手広く取引をしている商家であることが関係している。
魔道具の呪いにかからなければ家業の手伝いをするつもりだったリリアナは、店の顧客情報を頭に叩き込んでいたのだ。
「ネリス……」
リリアナは「殿下」と敬称をつけそうになるのをどうにか回避した。
王族が冒険者をしているのは、訳ありのお忍びに違いない。それにガーデンとその周辺は無礼講となっていて、出身地の貴賤を問わず皆対等というルールがある。
リリアナがハリスのことを「先生」と呼びながらタメ口なのもそのためだ。
「なんだよ、知り合いか?」
テオが足を離してネリスを見下ろす。
ネリスは静かに立ち上がり、剣を拾って土ぼこりを払い鞘に戻した。
「すまない。きみが誰か覚えていないが、私の素性を知っているんだな」
気まずそうではなく、どことなく満足げな表情のネリスだ。
面識はありません。
そう言ったらまた揉めそうだと思ったリリアナは曖昧な笑みでごまかし、そんなリリアナとネリスのことをテオが不思議そうに見ていたのだった。
悪びれもせずに言う細目の男をテオが締め上げる。
「じゃあ誰が投げたんだよっ!」
「ぐっ……ぼ、坊ちゃんです……」
男は苦しそうにあえぎながら後方を指さした。
そこには屈強そうな冒険者たちが10人ほど立っていて、気まずそうにこちらの様子を窺っている。
その集団からひとり、全身を黒い装備で覆った白髪の男が歩み寄ってきた。
「そんなところに突っ立って、私の投げた兜に当たるようなマヌケなおまえが悪い」
飄々と言うその口調にテオがさらに怒りを募らせる。
「なんだとコラァ!」
テオが細目の男をぶん投げて、今度は白髪の男に掴みかかろうとした。
そのテオの鼻先に漆黒の剣が突きつけられた。
白髪の男が剣を抜いたのだ。
その場にいた全員に緊張が走る。
ガーデン内だけでなくこの街においても冒険者同士のいざこざはご法度だ。まして流血騒ぎでも起こせばそのペナルティは当事者同士のみならずパーティー全体に科せられる。
どうしてこうも血の気の多い人ばっかりなのよ。
連帯責任でわたしのポイントまで減っちゃうじゃない!
リリアナが焦りながら止めに入ろうとしたが、それよりも早くテオが漆黒の剣を手の甲で薙ぎ払った。
「――っ!」
落とした剣を拾おうと伸ばした男の手を踏みつけたテオが、勝ち誇ったように笑う。
「構え方がなってねえんだよ。弱いくせに粋がるな」
駆け寄ったリリアナは、白髪の男を見てひどく驚き立ち止まった。
彼の装備が全て黒龍シリーズで揃えられていたことに……ではなく、その容貌に驚いたのだ。
白髪に見えたのは光のせいで、よく見れば彼の髪はプラチナブロンドだった。そして燃えるような紅蓮の目。
それは、北方のルーノランド王家の一族である証だ。
十代だと思しきどこか幼さを残すその顔を見て、リリアナはひとりだけ思い当たる人物の名を記憶から手繰り寄せる。
ルーノランド国王の末っ子、第三王子のネリス殿下だ。
リリアナが他国の王族のことに詳しいのは、彼女の実家が周辺諸国とも手広く取引をしている商家であることが関係している。
魔道具の呪いにかからなければ家業の手伝いをするつもりだったリリアナは、店の顧客情報を頭に叩き込んでいたのだ。
「ネリス……」
リリアナは「殿下」と敬称をつけそうになるのをどうにか回避した。
王族が冒険者をしているのは、訳ありのお忍びに違いない。それにガーデンとその周辺は無礼講となっていて、出身地の貴賤を問わず皆対等というルールがある。
リリアナがハリスのことを「先生」と呼びながらタメ口なのもそのためだ。
「なんだよ、知り合いか?」
テオが足を離してネリスを見下ろす。
ネリスは静かに立ち上がり、剣を拾って土ぼこりを払い鞘に戻した。
「すまない。きみが誰か覚えていないが、私の素性を知っているんだな」
気まずそうではなく、どことなく満足げな表情のネリスだ。
面識はありません。
そう言ったらまた揉めそうだと思ったリリアナは曖昧な笑みでごまかし、そんなリリアナとネリスのことをテオが不思議そうに見ていたのだった。
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