上 下
25 / 75
4皿目 スライムのシャーベット

(2)

しおりを挟む
 スライムの味変魔法を習得したリリアナは、これをいつ実践しようかとウズウズしていた。
 その執念が実ったのか、ギルドの依頼掲示板に【急募! スライムの皮 多数】という大量受注の依頼が貼りだされた。

 スライムの皮は水で戻すとプルプルのゼリー状のかたまりになる。
 保温機能もあり、温水で戻せばじんわりとした温かさを一定時間持続できるし、冷水を使えばひんやりとした保冷剤になる。
 普段は、あったら便利だけどなくても別に構わない程度の代物だが、年に2度ほど需要が高まる時期がある。
 高熱の出る伝染病が流行る季節だ。
 大人なら氷嚢を使えばいいけれど、子供の場合は熱にうなされて頭を動かすため額や首にほどよく張り付くスライムの皮が重宝されるというわけだ。

 しかしブルースライムは獲得できる功績ポイントが低く皮の買取単価も安いため、この手の依頼を請け負うのは初心者ばかりで効率よく目標数を集められないことが多い。
「世界の子供たちのために、この依頼を受けるわよ!」
 そんなもっともらしいことを言っていたリリアナだったが、ブルースライムの生息地に着いた途端、大きな鍋を取り出した。

「さあ、じゃんじゃん食べるからねー!」
「結局そっちかよ」
 張り切るリリアナを見てテオとハリスは苦笑していた。
 
 ******
 
「だから! 斧でぶった切るなって言ってるでしょ!」
 素材の価値を高めるため、さらには食べる部分を地面にこぼさず採取するためには、ブルースライムを鋭利な刃物によるひと突きか弾丸1発で仕留めるのが正しい仕留め方だ。初心者講習会のときにそう説明したはずなのに、テオはお構いなしに斧を振り回している。

 どうしていつもこうなの……と、ため息をつくリリアナの後ろでは、ハリスが出刃包丁のひと刺しで確実にブルースライムを仕留めている。
 コハクがリリアナの元へブルースライムを咥えて戻ってきた。どうやらスライム狩りを手伝ってくれるらしい。
 スライムは牙の穴が4か所空いているだけで仕留められている。
 
「コハクすごいじゃない! なんて賢い子なのかしら!」
「ガウっ!」

 近頃のコハクの成長は目覚ましい。
 初心者講習会の時にはまだ「にゃあ」という猫のような鳴き声だったのに、それがどんどん低くなっていき、獣の鳴き声になってしまった。
 体も日に日に大きくなって、すっかり立派なデカもふだ。
 ちなみに「あとどれぐらい大きくなったら食べるんだ」といまだにコハクを食べる気でいるテオとは、もちろん仲が悪い。

 コハクから受け取ったスライムを大鍋の上でぎゅーっと絞って中身を取り出す。
 皮はマジックポーチへしまうと、リリアナは自分の武器である杖を握った。
 
 そして1体のブルースライムに駆け寄り、杖の先端をプスっと刺してその一撃で仕留めた。
 
「リリアナおまえ……杖をそんな使い方していいのか?」
 珍しく戸惑っているテオの言いたいことはわかる。
 リリアナの本職である魔法使いが使用する杖は魔法の威力を高めるための道具であり、魔物を突き刺すための武器ではない。
 
「わたしね、初心者の時にさんざんこのスライムを倒して悟ったのよ。こうやって急所を一刺しするのが一番効率よく倒せるってね! ねえ、聞きたい? わたしの武勇伝」
 
 ドヤ顔をするリリアナに、テオはめんどくさそうに告げる。
「いや、断る」
 そしてクルっと背を向けるとブルースライムを追いかけて行ってしまった。
 
「なによう! 聞くも涙語るも涙のわたしの武勇伝なのに!」
 むすっとするリリアナだったが、その間も手はせっせと動かし、杖を突き刺してはブルースライムを確実に仕留めていく。
 こうやって急所を見極めて一刺しで倒せるようになるまでに、大げさではなく何百匹ものブルースライムと戦ったのだ。

 わたしほどこのブルースライムのことを知り尽くしていて、しかも食べ尽くした冒険者はガーデンの長い歴史の中でもいないはずよっ!
 そう自負しているリリアナだった。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ひだまりを求めて

空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」 星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。 精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。 しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。 平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。 ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。 その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。 このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。 世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。

星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。 その数、三十九人。 そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、 ファンタジー、きたーっ! と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと? でも安心して下さい。 代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。 他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。 そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。 はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。 授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。 試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ! 本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。 ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。 特別な知識も技能もありゃしない。 おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、 文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。 そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。 異世界Q&A えっ、魔法の無詠唱? そんなの当たり前じゃん。 っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念! えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命? いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。 異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。 えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート? あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。 なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。 えっ、ならばチートスキルで無双する? それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。 神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。 ゲームやアニメとは違うから。 というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。 それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。 一発退場なので、そこんところよろしく。 「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。 こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。 ないない尽くしの異世界転移。 環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。 星クズの勇者の明日はどっちだ。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

王家から追放された貴族の次男、レアスキルを授かったので成り上がることにした【クラス“陰キャ”】

時沢秋水
ファンタジー
「恥さらしめ、王家の血筋でありながら、クラスを授からないとは」 俺は断崖絶壁の崖っぷちで国王である祖父から暴言を吐かれていた。 「爺様、たとえ後継者になれずとも私には生きる権利がございます」 「黙れ!お前のような無能が我が血筋から出たと世間に知られれば、儂の名誉に傷がつくのだ」 俺は爺さんにより谷底へと突き落とされてしまうが、奇跡の生還を遂げた。すると、谷底で幸運にも討伐できた魔獣からレアクラスである“陰キャ”を受け継いだ。 俺は【クラス“陰キャ”】の力で冒険者として成り上がることを決意した。 主人公:レオ・グリフォン 14歳 金髪イケメン

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

氷と闇の王女は友達が欲しい! 〜寡黙な護衛騎士とのズレた友情奮闘記〜

スキマ
ファンタジー
■あらすじ エヴァーフロスト王国の王女、ノクティア・フロストナイトは、氷と闇の二重属性を持つ神秘的な存在。しかし、その冷たさと威厳から、周りの人々は彼女を敬遠し、友達ができない日々を送っていた。王国の伝統に従い、感情を抑えて生きる彼女は、密かに「友達が欲しい」と願っている。 そんなノクティアに唯一寄り添うのは、護衛騎士のダリオ・シャドウスノウ。彼は影の中から王女を守り続けてきたが、感情表現が苦手なため、まったく友達になる気配はない。だが、ノクティアが友達作りを始めると、彼も影ながら(文字通り)支援することに。 二人の関係は主従か、あるいはもう友達? 王女と護衛騎士が織りなすズレた友情劇は、思わぬ方向に進んでいく。果たしてノクティアは普通の友達を作ることができるのか? 孤独な王女が友情を求める氷と闇のファンタジー・コメディ、開幕!

処理中です...