20 / 75
3皿目 マンドラゴラのポトフ
(4)
しおりを挟む
「出て来いよ、オラァッ!」
テオの大きな声と騒がしい足音に反応して、畝から続々とマンドラゴラが飛び出してきた。
マンドラゴラは総勢30匹で、どれもみな丸々と大きく成長している。
その立派なマンドラゴラたちが根っこのように見える触手をムチのようにしならせて一斉にテオに襲い掛かった。
リリアナたちがひどく驚いていたのは、マンドラゴラの急成長した姿だった。
畑に乾燥した欠片を撒いてからまだたったの2週間だ。しかもここは安全地帯で魔物は弱体化しているはずなのに、このマンドラゴラたちは丸々太ってかなり好戦的な様子ではないか。
本来ならば、まだ成長しきっておらず動けないマンドラゴラを初心者たちがドキドキしながら引っこ抜くという体験だったはずが、いったいどうしてこうなったのか。
ハリスが出刃包丁を構え、テオを囲んでいるマンドラゴラに向かって駆け出した。
唖然としていたリリアナだったが、初心者たちのざわつく声を聞いてハッと我にかえる。
なぜか、なんて考えている場合ではない。
初心者たちがこのマンドラゴラの群れに襲われたら大変なことになる。
それと同時に「何てことをしてくれたのよっ!」と、ふつふつとテオに対する怒りを沸き上がらせながらマジックポーチからセーフティカードを取り出そうとした。
「にゃっ!!」
コハクの鋭い鳴き声を聞いて顔を上げたリリアナの視界に、こちらへ近づいてくるマンドラゴラが飛び込んでくる。
テオの斧で薙ぎ払われて飛んできたらしい。
「テオ! 後でお仕置きだからね~~っ!」
マジックポーチの中から咄嗟に掴んだフライパンを引っ張り出したリリアナは、見事なフルスイングでマンドラゴラをスコーンと打ち返した。
「おおっ!」
どよめく初心者たちの足元にリリアナはセーフティカードを2枚並べ、この周辺で待つようにと促す。
しかしこの事態を余興のパフォーマンスだと思っているのか、皆なかなか結界に入ってくれない。
危険だと脅すのもどうかと迷いながら、試しにレジャーシートを取り出して広げた。
「みなさーん、リリアナさんのご厚意でレジャーシートをご用意しましたので、ここで座って見学していてくださいね」
エミリーののんびりした声でようやく参加者全員が従ってくれた。
ひとまずホッとしたリリアナにエミリーがそっと耳打ちする。
「ありがとう。みなさんのことよろしくお願いしますね」
エミリーがスカートの裾を持ち上げて、太腿に忍ばせていたムチを手に取った。
ピシィ!と地面に打ち付けてそれを伸ばすと、柔らかい表情を消し去ったエミリーが不敵な笑みを浮かべながら軽い足取りでマンドラゴラの群れへと向かっていく。
後ろからテオの首に巻きつこうとしていたマンドラゴラは、逆にムチ絡めとられて振り回され地面に叩きつけられた。
「すっげー!」
「かっこいい!」
結界の中で観戦している初心者たちから歓声と拍手があがる。
油断するとすぐに背後をとられ足や首に巻きつかれて苦戦していたテオとハリスだが、エミリーが加わったことで形勢が逆転した。
さらにそこへ、畑の向こう側で実演調理に使用する野菜の下ごしらえをしていたリストランテ・ガーデンの調理士たちも騒ぎに気づいて駆けつけてきた。
「ハリス先生! 楽しそうっスね!」
「俺たちも仲間に入れてください」
ペティナイフを投げたり木製の麺棒を両手に持って振り回したりと、調理士たちの武器と戦い方は多彩で華麗だ。
その様子に初心者たちの目が釘付けになる。
「あの人たち、ただのコックじゃなかったんだ」
そんな呟きも聞こえて、リリアナはうふふっと笑ったのだった。
テオの大きな声と騒がしい足音に反応して、畝から続々とマンドラゴラが飛び出してきた。
マンドラゴラは総勢30匹で、どれもみな丸々と大きく成長している。
その立派なマンドラゴラたちが根っこのように見える触手をムチのようにしならせて一斉にテオに襲い掛かった。
リリアナたちがひどく驚いていたのは、マンドラゴラの急成長した姿だった。
畑に乾燥した欠片を撒いてからまだたったの2週間だ。しかもここは安全地帯で魔物は弱体化しているはずなのに、このマンドラゴラたちは丸々太ってかなり好戦的な様子ではないか。
本来ならば、まだ成長しきっておらず動けないマンドラゴラを初心者たちがドキドキしながら引っこ抜くという体験だったはずが、いったいどうしてこうなったのか。
ハリスが出刃包丁を構え、テオを囲んでいるマンドラゴラに向かって駆け出した。
唖然としていたリリアナだったが、初心者たちのざわつく声を聞いてハッと我にかえる。
なぜか、なんて考えている場合ではない。
初心者たちがこのマンドラゴラの群れに襲われたら大変なことになる。
それと同時に「何てことをしてくれたのよっ!」と、ふつふつとテオに対する怒りを沸き上がらせながらマジックポーチからセーフティカードを取り出そうとした。
「にゃっ!!」
コハクの鋭い鳴き声を聞いて顔を上げたリリアナの視界に、こちらへ近づいてくるマンドラゴラが飛び込んでくる。
テオの斧で薙ぎ払われて飛んできたらしい。
「テオ! 後でお仕置きだからね~~っ!」
マジックポーチの中から咄嗟に掴んだフライパンを引っ張り出したリリアナは、見事なフルスイングでマンドラゴラをスコーンと打ち返した。
「おおっ!」
どよめく初心者たちの足元にリリアナはセーフティカードを2枚並べ、この周辺で待つようにと促す。
しかしこの事態を余興のパフォーマンスだと思っているのか、皆なかなか結界に入ってくれない。
危険だと脅すのもどうかと迷いながら、試しにレジャーシートを取り出して広げた。
「みなさーん、リリアナさんのご厚意でレジャーシートをご用意しましたので、ここで座って見学していてくださいね」
エミリーののんびりした声でようやく参加者全員が従ってくれた。
ひとまずホッとしたリリアナにエミリーがそっと耳打ちする。
「ありがとう。みなさんのことよろしくお願いしますね」
エミリーがスカートの裾を持ち上げて、太腿に忍ばせていたムチを手に取った。
ピシィ!と地面に打ち付けてそれを伸ばすと、柔らかい表情を消し去ったエミリーが不敵な笑みを浮かべながら軽い足取りでマンドラゴラの群れへと向かっていく。
後ろからテオの首に巻きつこうとしていたマンドラゴラは、逆にムチ絡めとられて振り回され地面に叩きつけられた。
「すっげー!」
「かっこいい!」
結界の中で観戦している初心者たちから歓声と拍手があがる。
油断するとすぐに背後をとられ足や首に巻きつかれて苦戦していたテオとハリスだが、エミリーが加わったことで形勢が逆転した。
さらにそこへ、畑の向こう側で実演調理に使用する野菜の下ごしらえをしていたリストランテ・ガーデンの調理士たちも騒ぎに気づいて駆けつけてきた。
「ハリス先生! 楽しそうっスね!」
「俺たちも仲間に入れてください」
ペティナイフを投げたり木製の麺棒を両手に持って振り回したりと、調理士たちの武器と戦い方は多彩で華麗だ。
その様子に初心者たちの目が釘付けになる。
「あの人たち、ただのコックじゃなかったんだ」
そんな呟きも聞こえて、リリアナはうふふっと笑ったのだった。
10
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる