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3皿目 マンドラゴラのポトフ

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「はい、みなさん揃ってますね。ここは初心者用のエリアでーす」
 エミリーの明るい声が響く。

 ガーデンは、入り口の転移門をくぐった瞬間、指輪に記録されているエリアへ転送される。
 初心者講習会の参加者一行がやって来たのは、ほぼ無害に等しいブルースライムが群生するエリアだった。
 芝生の上をブルースライムたちがぽよんぽよんと跳ねまわっている光景に目を輝かす者がいる一方で、冷めた表情を浮かべる参加者もいる。
 近年では国同士の紛争もなく、ガーデン以外の場所で魔物が出ることもない平和そのもののこの大陸だが、それでも傭兵や騎士は存在する。そういった腕に覚えがある者は、このエリアが物足りないに違いない。

 リリアナの横で、テオもすんっとした顔になっている。
「あんなヤツら倒しても、ちっともカッコつかねえじゃん」
 つまらなさそうに文句を言うテオに呆れるリリアナだ。
「だからね、テオにカッコつけてもらうために来たわけじゃないって何度言えばわかるのよ」
 
「そういや、なんのために来たんだっけ」
「マンドラゴラのポトフを食べるためでしょ!」
 今朝、初心者講習会の講師として招かれていると話すハリスに、当初は興味がないから今日は別行動すると宣言したテオだった。しかしハリスが、先日仕込んだカリュドールのパンチェッタを使ってマンドラゴラのポトフを振る舞う予定だと言うと、そういうことなら着いていってやると言い出したのだ。
「あ、そうだった」
 もう忘れたのか、とまたリリアナは呆れてしまう。
 テオは戦うこと以外に関して全く興味がない。いったいこれまでどうやって生きてきたのかとリリアナが問うと、曇りのない目で「修行と戦いに明け暮れてきた」と答える。
 
 出自も経歴もバラバラなリリアナたちを結び付けているのは、魔物を美味しくたくさん食べるというたったひとつの要素だ。
 食に興味のないテオの胃袋を掴むことは、調理士のハリスにとってとても喜ばしいことに違いない。

「スライムはさすがに食わねえよな?」
 ぽよんぽよんと跳ね続けるブルースライムに目を向けたまま、テオがぽつりと言う。

「食べようと思えば食べられるわよ」
「え! 食ったことあんのかよ。おまえ、なんでも食うんだな」
「そうよ、だってすぐお腹すいちゃうんだもの」

 ケロッと答えるリリアナに、テオが若干引いていた。
 
 

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