上 下
15 / 75
2皿目 カリュドールのロールカツとパンチェッタ

(5)

しおりを挟む
 リリアナがロールカツをひと口大に切ると、立ち上る湯気とともに大地の恵みの象徴のようなタケノコとキノコの豊かな香りがふわりと広がった。
 取り皿にのせてハリスに渡す。
 
 薄切り肉に巻かれたタケノコとキノコはふっくらツヤツヤに輝いていて、匂いだけでなくその見た目にも食欲をそそられる。
 テオは待ちきれない様子で大皿に盛ったロールカツの山に手を伸ばし、フォークを突き立てた。
「俺、このままでいいから」
 言うや否や、がぶりとかじりつく。

 口をはふはふ言わせながらあっという間に1本目を平らげたテオが、2本目に手を伸ばす。
 その様子を見て満足げに笑ったリリアナがハリスに評価を求めた。
「先生、ロールカツどうかしら?」
「味、食感、揚げ具合、全て上出来だ」
 一切れ食べ終えたハリスが口元を綻ばせる。
 
「やった!」
 リリアナは小さくこぶしを握る。
 カリュドールの肉をハリスが理想的な状態に捌いてくれたおかげであることは重々承知しているが、一流調理士であるハリスに料理の出来栄えを褒められるのは素直に嬉しい。

「さあ、わたしも食べるわよ~~っ!」
 もちろんリリアナも一口大に切ったりせず、そのままいく派だ。

 テオ同様、豪快にかぶりつくと衣のサクっとした歯触りの次にジューシーな肉の旨味が口の中にあふれる。
 さらにはキノコとタケノコが舌の上に躍り出た。
 こりこりのキノコとホクホクのタケノコは食感が楽しめるだけでなく、肉にしっかり巻かれていることで濃厚な香りと味を逃がすことなくとどめている。
 採れたてのタケノコにはえぐみがなく、カリュドールの脂の甘みとも相性バッチリだ。
 最後に鼻から抜けるハーブの香りとほんの少しの獣臭さが逆にクセになり、すぐにもう1本食べたくなる。

「てめえ、食いすぎだろ!」
「それはこっちのセリフよ!」
「にゃあ! にゃあ!」
 リリアナとテオの痴話喧嘩にコハクまで参戦し、にぎやかな食事となった。
 
 カリュドールの肉はどの部位も鉄分を多く含んでいる。
 ガーデンの外で市販薬の原料として使う場合は、貧血改善の薬効がある。また、良質の脂分が美肌効果をもたらすとされ、上流階級の女性の間では人気のサプリメントらしい。
 新鮮な肉をガーデン料理として食べる場合はその効果がさらに高まり、造血効果と血の巡りが良くなるため頭も体も活性化する。
 特に若いほど効果がてきめんで、コハクは毛がつやっつやになり、リリアナとテオの肌艶も良くなった。

 テオが草原エリアで大怪我を負ったのが2日前のこと。
 魔牛のステーキで怪我と体力は回復したものの、失った血はそう簡単には戻らないため顔色が少々悪かった。
 初心者講習会で使用する食材調達が大きな目的ではあったが、ハリスにはそれ以外にテオの貧血改善という目的もあってカリュドールに狙いを定めたのだろうと納得したリリアナだった。

 そんなことに気づいていないであろうテオは、みなぎるような活力を持て余している様子だ。
「俺、もっと狩りしてきてもいいか?」
 片付けを終えて帰ろうとした時、上気した顔でまだ暴れたりないと言い出したのだ。

「待て、いまのテオにぴったりの場所がある」
 ハリスにそう言われて、どんな場所のどんな魔物だろうかとワクワクした顔で向かった先で、テオはくわを渡されていた。

「なんだよ、これ」
 呆気に取られるテオに向かって、リリアナがにっこり笑う。
 
「鍬よ。知らないの?」
「知ってるわ! だからどういうことだって聞いてんだよ!」
 
 困惑しながら叫ぶテオの目の前には、畑が広がっていた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...