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2皿目 カリュドールのロールカツとパンチェッタ

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 テオと出会ったあの日。ハリスはコハクを抱いたまま草原エリアの拠点からガーデンの出入り口まで一緒に戻り、そこでペット登録をした。
 
 管理ギルドの建物は、ガーデンの中と外の2か所に設置されている。
 中にある窓口では、ガーデンの外ではできない手続きや清算を行う。
 拠点から戻ってきた冒険者たちがマジックポーチを差し出せば、私物を除くガーデン内で得た採集物や戦利品が回収されて自動精算されるシステムだ。ガーデンで獲得した食材も回収されるため、食べずに保管したままにしておくことができない。
 ちなみにポーチを精算所に通さないままガーデンを出ようとすると、ペナルティをくらう。

 魔物のペット登録手続きをする窓口では、所有者とペットの名前を登録し手数料を支払うと、登録番号入りの首輪を渡される。
 基本的にガーデンの魔物を外に連れ出すことはできないが、この首輪を着けている魔物に限っては所有者とともに外に出られる決まりだ。
 ただしガーデンの外では魔物は縮小化、弱体化して無害となる。

 コハクはガーデンの外ではただの可愛らしい白猫だ。
 名付け親であるハリスが所有者になっているものの、普段べったり一緒にいるのはリリアナで、テオには近寄ろうともしない。

 今回の初心者講習会では、ガーデン料理の試食も予定されている。
 ぜひ調理士としての腕を振るってほしいと管理ギルドから直々に依頼されたハリスが了承したため、こうして参加者の集団から少し離れた位置で待機しているというわけだ。
 ついでにテオにガーデンの基本的なルールとマナーを学び直してもらいたいという思惑もある。

 リリアナがまず驚いたのは、テオがあまりにもガーデンのルールを知らないことだった。
 
「魔牛の肉をポーチから出して手で外に持って出れば、家でも食べられるんだろ?」
 真顔で言うテオに呆れながらリリアナは説明した。
「ガーデンの食材はポーチに入れておかないと劣化が早いの。だから魔牛の肉は干し肉でしか売られていないのよ」
 
 ほかの食材も同様で、ガーデンの外で商品として流通させるには乾燥させて加工品にするしかない。
「だからガーデンの中で料理して食べるのか」
 テオの言葉に、その通りだとリリアナは頷いた。
 
 新鮮な食材を使ったガーデン料理を食べるためには、ガーデンで魔物を倒して捌き、それを美味しく調理できる調理士が不可欠であり、作った料理はガーデン内で食べなければならない。
 そのことを正しく理解したようだ。
 
 どうやらテオは、興味のないことに無関心なだけで、理解力がないわけではないらしい。
 だからこそリリアナとハリスは、テオにルールとマナーをきちんと身に着けて欲しいと思っている。
 
「俺が派手に魔物を仕留めるところを、あいつらたちに見せつけてやるぜ」
「だから、そういうんじゃないから」

 講習会の参加者たちの大半は皮製の装備を身に着けたいかにも初心者という出で立ちだが、中には立派な武器を持っている者や手練れの雰囲気を醸し出している者もいる。
 見込みのありそうな新人はいないかとベテラン冒険者たちが遠巻きに彼らの様子を見にきている。
 初心者講習会は、スカウトの場でもあるのだ。

 3年前、リリアナは15歳でこの講習会に参加し、ガーデンから出たところで複数のパーティーから誘いを受けた。
 冒険者は男性の比率が高く、若い女性は珍しい。
 育ちの良さそうな立ち居振る舞いと、まだあどけなさの残る大きなエメラルドの目。
 リリアナの容姿はとても目立っており、戦力補強というよりは淡い下心を抱いての誘いが大半だった。
 しかし彼らはリリアナの人間離れした食欲を目の当たりにすると、恐れをなして逃げ出してしまったのだ。
 
 ベテラン冒険者たちはその経緯を知っているため、ハリスとリリアナの関係について、
「あのふたりはデキている」
「ハリス先生ってそういう趣味だったのか」
と、下世話なことを言う者はいない。
 
 しかもつい最近、トラブルメーカーで有名なテオの面倒までみることになったというではないか。
「あの人、苦労人だよなー」
 ハリスの後ろ姿を見ながら誰かがボソっと呟いた言葉に、その場にいた全員が頷いたのは余談だ。
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