5 / 75
1皿目 魔牛のステーキ
(3)
しおりを挟む
テオは、自分がいつ起き上がったのかさえもよく覚えていないほど夢中になってステーキを食べ続けた。
捕食される側だとか、逃げようだとかいうことも忘れて無心でステーキを咀嚼しては胃袋へと流し込み、リリアナと競うかのように「おかわり!」とハリスに空の皿を差し出す。
テオの体は内側からじんわり温かくなっていく。
不思議なことに、食べれば食べるほど体の痛みが取れて元気になり、さらに食欲が増すのだ。
ステーキの肉質は柔らかく、いくら食べてもあごが疲れない。
味は牛肉に近い気もするが、これまでこんな分厚いステーキを食べた経験のないテオには、なんの肉か相変わらずわからないままだ。
それでも舌と唾液と胃袋が、これは絶品だとテオに訴え続けている。
ハリスが1皿ごとに香辛料や付け合わせのハーブを替えて味に変化をつける細やかな気遣いをしてくれるため、単調な味に飽きるということもなく、どんどん食べられる。
ハリスは相変わらず黙々と肉を焼き続けていたが、テオの様子に満足しているのか口元には笑みを浮かべていた。
生肉が残り1枚となった時、リリアナがテオを睨んだ。
「最後の1枚はハリス先生の分だから。ずうずうしくまだ食べたいとか言っちゃダメよ」
「おまえがそれを言うか? いったい何枚食ったんだよ」
テオが呆れながら言い返す。
リリアナは恐ろしい魔物だ。
普段は鍛え上げた腹筋で引き締まっているテオの下っ腹がぽっこり出て少々苦しいというのに、リリアナの腰は薄っぺらいままだ。
あの大量の肉はどこへ消えたのか。
コイツに食べられたらその答えがわかるんだろうか。
そんなことを考えていたらいつの間にかテオの真ん前にリリアナの顔があって、驚いてのけぞった。
「うわっ」
「ずいぶん元気になったじゃないの。さすがは魔牛のステーキね」
「魔牛の肉だったのか……」
テオが牛肉に近い味がすると感じていたのは間違ってはいなかったらしい。
魔牛は黒毛の牛型の魔物で、頭部には2本の太いツノがある。普通の牛よりも体がかなり大きく獰猛だ。
まさかあの巨体1頭分の肉をこの食事で食べ尽くしたってことだろうかと考えて、テオの背筋が寒くなる。
「魔牛は干し肉しか食べたことがない。生肉を焼いたらあんなにも美味いんだな」
「しかも回復効果が干し肉よりも遥かに高いのよ」
リリアナに得意げに言われて納得した。
ステーキを食べれば食べるほど元気になっていったのは単に空腹が満たされたからというだけでなく、実際に体力も怪我も回復していたということだろう。
疲労回復効果を謳っている巷の商店の魔牛の干し肉は、実際は気休め程度の効果しかない。
それでも持ち運びが便利な上にそのまま食べられるため、最近ではもっぱら干し肉がテオの主食のようになっている。
「『トラブルメーカーのテオ』ってあなたのことだったのね。冒険者カードで名前を確認させてもらったの」
冒険者カードは名前と生年月日が印字されているほか、冒険者がガーデンで倒した魔物の記録も保存される金属製のプレートで、ガーデンに入る際には携帯が義務付けられている。
「とんでもない野生児でトラブルメーカーだっていう噂を聞いていたからきっと強いんだろうなって思っていたのに、あなたこんなちっちゃい子にズタボロにされるだなんて、意外と弱いのね」
リリアナがレオリージャの子供を抱きかかえてテオに見せる。
間近でふわふわの白い毛を見て気付いた。
倒れる寸前、テオの顔めがけて飛んできた物体はコイツだったのかと。
「ちげーし! 俺は弱くなんかない!」
テオはムスッとしながら叫んだ。
捕食される側だとか、逃げようだとかいうことも忘れて無心でステーキを咀嚼しては胃袋へと流し込み、リリアナと競うかのように「おかわり!」とハリスに空の皿を差し出す。
テオの体は内側からじんわり温かくなっていく。
不思議なことに、食べれば食べるほど体の痛みが取れて元気になり、さらに食欲が増すのだ。
ステーキの肉質は柔らかく、いくら食べてもあごが疲れない。
味は牛肉に近い気もするが、これまでこんな分厚いステーキを食べた経験のないテオには、なんの肉か相変わらずわからないままだ。
それでも舌と唾液と胃袋が、これは絶品だとテオに訴え続けている。
ハリスが1皿ごとに香辛料や付け合わせのハーブを替えて味に変化をつける細やかな気遣いをしてくれるため、単調な味に飽きるということもなく、どんどん食べられる。
ハリスは相変わらず黙々と肉を焼き続けていたが、テオの様子に満足しているのか口元には笑みを浮かべていた。
生肉が残り1枚となった時、リリアナがテオを睨んだ。
「最後の1枚はハリス先生の分だから。ずうずうしくまだ食べたいとか言っちゃダメよ」
「おまえがそれを言うか? いったい何枚食ったんだよ」
テオが呆れながら言い返す。
リリアナは恐ろしい魔物だ。
普段は鍛え上げた腹筋で引き締まっているテオの下っ腹がぽっこり出て少々苦しいというのに、リリアナの腰は薄っぺらいままだ。
あの大量の肉はどこへ消えたのか。
コイツに食べられたらその答えがわかるんだろうか。
そんなことを考えていたらいつの間にかテオの真ん前にリリアナの顔があって、驚いてのけぞった。
「うわっ」
「ずいぶん元気になったじゃないの。さすがは魔牛のステーキね」
「魔牛の肉だったのか……」
テオが牛肉に近い味がすると感じていたのは間違ってはいなかったらしい。
魔牛は黒毛の牛型の魔物で、頭部には2本の太いツノがある。普通の牛よりも体がかなり大きく獰猛だ。
まさかあの巨体1頭分の肉をこの食事で食べ尽くしたってことだろうかと考えて、テオの背筋が寒くなる。
「魔牛は干し肉しか食べたことがない。生肉を焼いたらあんなにも美味いんだな」
「しかも回復効果が干し肉よりも遥かに高いのよ」
リリアナに得意げに言われて納得した。
ステーキを食べれば食べるほど元気になっていったのは単に空腹が満たされたからというだけでなく、実際に体力も怪我も回復していたということだろう。
疲労回復効果を謳っている巷の商店の魔牛の干し肉は、実際は気休め程度の効果しかない。
それでも持ち運びが便利な上にそのまま食べられるため、最近ではもっぱら干し肉がテオの主食のようになっている。
「『トラブルメーカーのテオ』ってあなたのことだったのね。冒険者カードで名前を確認させてもらったの」
冒険者カードは名前と生年月日が印字されているほか、冒険者がガーデンで倒した魔物の記録も保存される金属製のプレートで、ガーデンに入る際には携帯が義務付けられている。
「とんでもない野生児でトラブルメーカーだっていう噂を聞いていたからきっと強いんだろうなって思っていたのに、あなたこんなちっちゃい子にズタボロにされるだなんて、意外と弱いのね」
リリアナがレオリージャの子供を抱きかかえてテオに見せる。
間近でふわふわの白い毛を見て気付いた。
倒れる寸前、テオの顔めがけて飛んできた物体はコイツだったのかと。
「ちげーし! 俺は弱くなんかない!」
テオはムスッとしながら叫んだ。
11
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる