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第46話 ミストと買い物

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アイスドラゴン討伐の後。
今日も今日とて賑わいに満ちた、アルカディアの商業街。そこにミストとアガンはいた。


「先にギルドに行ってるからな。なるべく早めに来いよ?」
「わかった。」
「声掛けられても、変なやつについて行くなよ?」
「・・・アガン、私18だよ?子供じゃないよ?」
「見た目の問題だ。」
「グウッ!?」


アガンはアルカディアへと入って早々にギルマスに呼び出されていた。勿論のこと、ミストもついて行きたい所であったが、ドラゴン高級食材狩りに間に合わせるためにも、少しでも早く出立の準備を整えたい。
故に、アガンがギルマスに会っている間に、ミストが物資の買い出しをする事となったのである。


「おいアガーン!ギルマスがお待ちかねだぞー!さっさとしろー!」


うだうだとしている内に、門番のウィルが離れた所から声を張り上げながら走ってきた。今回はきちんと兜を装備している。


「門番を使いぱしりにするとか何やってやがんだあのギルマスは・・・はぁ。ミスト、お前が強いっつっても用心するに越したことはねぇ。いつの間にか見ねぇ顔も増えてやがるし、気をつけろよ?」
「・・・わかった。」


そう言って、ギルドへと走り去って行くアガン。その背を見つめながらミストは


『絶対に不老効果消す方法を見つけ出してやるうぅぅぅ!!!』


・・・むくれていた。そもそも、魔王になる以前から既に成長がほぼ止まっていたのであるからして、【魔王】の持つ不老効果を消した所で大して変わらないのだが・・・言わぬが花、というものだろう。


そんなこんなで、少々ご機嫌斜めな魔王様が商業街へと繰り出して行った。


1人で歩いていれば、案の定というか何というか、かなりの数の柄の悪い者が、ミストに絡んできた。
それらの喧嘩を全て買い、八つ当たり気味にぶちのめしていったミスト。結果的にアルカディアの治安向上に貢献していた。


その中にとある伯爵家の者が混ざっていたりもして、後に大騒ぎになったのだが、騒ぎに関しては既に出立していたミストにはあずかり知らぬ所であったし、特に興味も無かったようなのであった。







______________
とある貴族の男side







要塞都市アルカディア、か・・・全くもって騒がしい所だ。
平民どもや、粗暴で頭の悪い冒険者どもが大量にひしめいている。全くもってうっとおしい事この上ない。


勇者も勇者だ。何故このような所を拠点にしている。そのせいでわざわざ出向くことになったではないか。私はクラム伯爵家の次期当主なのだぞ?本来ならあちらが自主的に出向いてくるべきだというのに、未だに挨拶にこないとは・・・そうだ、詫びとして勇者パーティーにいる美女2人を差し出させるのもいいかもしれん。


良い事を思いつき、先程までの苛つきが消えた私は、勇者を呼び出すために冒険者ギルドへと馬車を向かわせた。そのときだった。


「む?あれは・・・!」


見覚えのある2人組を見つけ、急ぎ馬車を止めさせた。
茶髪の冒険者の男と、質の良い服を着た金髪の子供・・・勇者パーティーの魔法剣士と、そいつについて来ていた治癒士だ。王都の夜会で見かけた事がある。


「フレディ様、何かございましたか?」


そう言って、馬車の隅に控えていた執事が私のカップに紅茶を注ぐ間も、私はその2人から目を離さなかった。


「あそこに2人組みがいるだろう。」
「・・・勇者パーティーのアガン様とミスト様にございますね。」
「ああ、そうだ。今から隙を見てあの子供の方を攫ってこい。やり方は任せる。」
「な!?」
「何を驚く事がある?どう見ても戦闘力にならない子供を連れているのだから、あの魔法剣士にとって子供は相当に大事な者なのであろう。ならば、攫ってあの魔法剣士を脅す人質にするには最適だ。」
「なりません!貴方はクラム伯爵家を潰すおつもりですか!?」


私の命令に従わないとは・・・こいつは従順だから重宝していたのだがな。残念だ。


「あんな子供1人攫う程度で怖気付きおって!貴様の様な「心外だなぁ、そんなに弱く見えるの?私。」!?」


・・・能無し、と続けようとした瞬間、私とこいつ以外に人がいない筈の馬車内に、突如として部外者の声が響いた。すぐさま警戒態勢に入りながら声の元を辿れば、そこには・・・


今まさに、攫ってくるよう命じていた、あの子供が、立っていた。


「貴様どうやって此処に!?」
「ん?これ。」


そう言って上を指差した先には・・・丸く穴の開けられた、馬車の天井があった。


「あ、馭者の人はどっか行ったよ?ちょっとお金あげただけなのにね?何でだろ?」
「あ、あやつめ・・・!」
「よっぽどけち臭い飼い主に買われてたんだろうね~、お気の毒に・・・。」
「な、な、あ、」
「にしても、伯爵以上の貴族って基本的に政略とかの問題で美形ばっかになる、って昔本で読んだんだけどさ・・・あの本間違ってたんだね。」
「貴様ぁ!!!平民の冒険者ごときがこの私にむかって「わめくなこの食用豚。」クッ・・・!?」


無礼な子供の首をへし折ろうとしたら、身体に光の鎖が巻きついてきた。


『魔法!?無詠唱だと!?』
「あ、食用豚に失礼か。あいつらは美味しいもん。うん。ぶくぶく太ってるからつい間違えてしまった・・・。」


こやつ!またこの私に何たる侮辱を!・・・執事のやつは・・・既にやられたか、役立たずめ。兎に角、この鎖を消すように命じなければ!


「・・・っ!、!?!?」
「あはは!ぱくぱくしてる。面白い!」


声が、出ないだと!?


『詠唱阻害のスキルだけど、うまくいったな~。これ相当レベル差が無いと完全にはかかんないのに・・・って私のレベルが異常なだけか。飽きたしもう終ろ。』


声が出ない事に狼狽うろたえてしまっているうちに、子供がおもむろに掌をこちらへと向けてきた。


「ばいばい、おじさん。」
「が、ぐ、ぐぁ、ぁ、あ、あ、ガアァァァァァァ!!!!!!」


全身の骨が粉砕されるかのような痛みに、私の意識は沈んだ。






_______________






勇者パーティーがアルカディアへと帰還したその日、クラム伯爵家次期当主、フレディ・クラムが自身の馬車内で全身いたる所の骨を折られた状態で発見された。


意識が戻った本人は「勇者パーティーの子供に襲撃された!」と、ミストの捕縛及び処刑を求めたが、現場に落ちていた記録水晶から事の一部始終がわかり、フレディ・クラムは身分の剥奪及び10年間の強制労働。クラム伯爵家は家格を下げられる事となった。


何故下級貴族の全財産をはたいて漸く購入できるほどに高価な記録水晶を所持しており、何故このような使い方をしたのか。


また、水晶に記録されていなかった部分、ミストがフレディを拘束し、負傷させた、その方法の謎が残った。フレディはミストが無詠唱を行使したと証言したが、真偽のほどは明らかになっていない。
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