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第三章・都市部

港は魚臭いけど、クエストカウンターは悪い意味で臭かった

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   ――疲労困憊、胸いっぱい……。

   リストの都市部から歩き続けること四時間程度、さすがのアルマも疲労が溜まっては脚が痛くてたまったものではなく、港にたどり着くと門のところでだらしなく座り込んでは、肩で息をする一方。

   さすがの荒い息の仕方に門の傭兵も驚きのようだ。

 「おいおい、大丈夫か?」

 「平気平気、リストの都市部からほとんどノンストで飲まず食わずだからキツくてしんどい。 朝食の分は消化されちゃって、腹が減って仕方無いわ。」

   平原や洞窟内の悪路も含めると体感した移動距離は二十キロメートルはあるのではないだろうか?
   休みをあまり入れてなく、普段から運動もほとんどしないアルマにとっては良い運動になっただろう。

 「あー……この辺にうまいラーメン屋が無いかねぇ? 塩、いや……醤油ラーメンが食いたいな。」

 「リストじゃラーメンは食えないな……ははは。 フォーレ島のイルグニスにならうまいラーメン屋はあるんだけどな。」

   門の傭兵は海を見渡すと遠くに微かに島の輪郭がぼやけて見えているのがわかるが、その島こそこのゲームの第二章のストーリーエリアである、通称【フォーレ島】である。

   魔力によって四つの区間に別れた地域は、気候などの影響が大きく、極端に暑かったり寒かったり、乾いていたり湿っていたりな場所である。
   傭兵の言うイルグニスとはとても暑い地域であり、香辛料などの貿易も盛んである場所だが、とてもレベルの高い人しかまだ行けない場所なのだから今のアルマには無縁のものだろう。

   せめてレベルが七十五程度無くては厳しいようだ。

 「と言うか、この世界にもラーメンあるのな……。」

 「おかしな事を言うやつだな。けど、まあ良いさ。 長旅ご苦労さんだ。」

   やはりアルマにだけかけてくれる心のあるエヌ・ピー・シーの発言は温かく、心がほんのり温かくて愛おしい。

 「ありがとう。 でも俺はここに居たらアンタの仕事の邪魔になるな……。 もう少しは歩けそうだからクエストカウンターまでもう一歩きするか。」

 「別に俺は迷惑って訳じゃ……。 魔物の侵入を防ぐ仕事以外は立ちっぱなしで暇だからな。 まぁ、アンタが行くって言うなれば止めはしないさ。 来るもの拒まず去るもの追わず……ってな。」

   門の傭兵は手を振って見送ってくれた。


 
   さて、門のからでも見えるクエストカウンターの施設は、リスト村やリスト都市部のモノとはまたひときわかけ離れた造りの建物であり、ゲーム画面で見るより面白いものだ。

   レストランなども合体しているし、自由に座れる席は相席にもできるため、マナーさえ守れれば誰でも気軽に他人と繋がれる仕組みである。
   リスト島ではここでフレンドをたくさん作る人も少なくはなく、次なる島ではオンラインゲームの醍醐味の多人数と協力する大切さも教えてくれる場所だと言えよう。

 「相変わらずスゴい人ゴミのようだなぁ。 初心者から上級者まで湧いてるわ湧いてるわぁ。」

   もちろんアルマは他人と協力して進むことは昔のプライドなら許さなかっただろうが、今はその心を捨ててでも寄生しなきゃ勝てなくなってしまっている。
   使えそうなヤツはとことん利用させてもらおうと適当に空いてる席に座っては、相変わらず無料のお冷や水をのみつつ脚の疲れをリラックスさせる。

 「しかし、ここでやる事と言えば船に乗ってフォーレ島の一番最初の地域のヴェンドと呼ばれる場所の港に行かなくちゃな。」

   壁にはフォーレ島の地図も掲載されており、ヴェンドは湿った樹林の割合が多い地域であって、まだまだここは初心者の溜まり場にもなりやすい。
   けど、ちゃんときちんとした冒険者なのだから胸を張って冒険できるし、初心者と言わず上級者もお手伝いとしてここに居ることも多いため、まだまだサクサク進める。

   後のストーリーでは、自分よりプラス三レベルより上のキャラと一緒に戦闘出来なくなる制限も付けられるために、難易度は難しくなっていくことを知るはずもないこの後ヴェンド地域に赴く新規ユーザーに応援する気もない空っぽのエールを贈る。

   しかし、羨ましそうな表情のアルマ。

 「けど、俺には乗船チケットは無いんだよなぁ。」

   本来はストーンラット討伐時のクエスト達成としてその功績が認められ、本来は都市部のお偉いさんからフォーレ島での活躍を期待して貰えるチケットのハズなのだが、無意識にねじ曲がったイベントなのだろうか低賃金で働かせられていたようで、貰えるキーアイテムも貰えずじまいである。

   後にリスト島とフォーレ島を無制限に往復できるチケットとして扱えるため、渡航に必要な実質的な金銭面には困らないものの、このクエストカウンターではよく見ると一度きり乗船チケットも販売しているようで一般的なエヌ・ピー・シー達の移動手段の時に使うものとなっている。

   ただし、その切符の自販機は普通のゲーム画面では調べたりはできるものの、既にチケットがあるため買うことはできないというメッセージが流れるだけで直接的な関わりはないため、一般的なエヌ・ピー・シー専用のアイテムで渡航するのが斬新で仕方ないアルマ。

 「しかし、物事にはお金は絶対的。 お金の無い俺にはログボのアイテムの売却で地道に貯めるしか無いよなぁ。」

   アルマはインベントリを見つめてもゴールドはわずかであり、ゴールドと円のレートの価値こそはわからないものの、絶対的に乗船チケットが買えそうにないのは本能的に理解した。

 「ゴールドじゃなくてコインで買えたらなぁ。 コインなら腐るほどあるんだが。」

   初心者にあるまじき十四万五百コインを見つめてはため息が出てしまう。
   世の中にはお金じゃ買えないものもあるのだと理解した彼には、少し辛いものがあるだろう。

   モンスターを倒そうと思えど思うように倒せぬ彼は、自分自身のゴールドの少なさにじっと手を見つめては何をするわけでもない時間を過ごす。














   どれ程時間がたったのかは解らないが、あまりの暇さゆえにどうやら眠っていたアルマは目を覚ます。

 「おっと、いつまでも席を陣取ってると他のプレイヤーに悪いよな……。」

   壁掛けの時計には十三時半と一時間程度の軽い昼寝をしていた事に気がつき、席を離れようと試みるも、服の垂れ下がった裾の一部が椅子の脚に踏まれては身動きできないことに気がつく。

 「うぉおっと!?」

   気がついたときにはもう遅く、前のめりに机に激突する。

 【ガシャンッ!】

 「あぐっ、痛ぇ……ゲームなのに現実じみた痛みが。 キモチヨス……。」

   鼻を押えるも鼻血が出てないことに気がつくと安堵したアルマだが、今の音に気がついた相席の他のプレイヤーが申し訳なさそうに謝ってくるチャットを送ってきたのだ。

 「すまない……私が椅子で妨害していたせいなのだろう?」

   まだまだ初心者マークの女剣士が申し訳なさそうな表情でアルマに話しかけてくる。
   他のプレイヤーとほとんど干渉しないことに少しためらいがあるものの、少し不可解なことが頭によぎる。

   なぜこのプレイヤーは、【本来のゲームにはあり得ない行動】を理解してチャットに話しかけてきているのだろうと。

   その行動とは、服の裾の一部が椅子の脚に挟まっている……との事であり、本来はそんな事はゲーム内では起こり得ない動きなのだが、このゲームで擬似的な現実体験をしているアルマ以外にそのような認識をできるプレイヤーが居ることに怪しげに疑う。

 「どうした? キョトンとした表情で?」

   女剣士はアルマの表情をじっと見ては不思議そうにするも、我に返るアルマは一応オンラインゲームのしきたりの挨拶を交わさなくてはと、普段他人とチャットなどしないから慌てた様子でチャットする。

   キーボードを打つ必要もなくて、任意で喋った言葉がそのままチャットになるので、これまた便利はアルマだけの機能。

 「俺はアルマだな。 まぁ、見ての通りの装備の物好きの冒険者さ。」

   腰の刀を見せびらかしては自慢気に話しかける。

 「武器はどのようなものであれ、腕前に左右される。 もちろん強さの補正はあるだろうが……真価は己の強さに依存する。」

   なかなか良いことを言ってくれると頷くも、デジタルなこの武器などはどのように扱っても数値の変動もするわけがないと馬鹿馬鹿しく真面目なチャットを受け流そうとする。
   どうせ画面越しでは厨なヤツが悟ったように言ってるに違いないと。

   まぁ、女剣士の腰の武器も相当な強さのモノだから自慢したい気も伺えてくる。

 「さて、自己紹介が遅れたが私は山実 零余子やまみ むかごだ。 よろしく。」

 「あ、あぁ……。」

   ――で、出たぁっ……厨二な名前。

   オンラインゲームなら読めないようなキラキラネームも蔓延る中で、きっと彼女もその類いなのだろうと内心バカにしながらも、使い用を考えるアルマ。

   こうして出会ったのも何かの縁だと因縁つけては魔王に会いに行くための手駒として利用させてもらおうと、原黒い笑みを見せながら女剣士と握手を交わすのである。
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