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第2章【月曜の荒野《夜朧》】

召される寿司

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 あのあと私は卵を食べていると認識はできた……だがそれと同時に命をいただいていることを改め、強く認識せざるを得ない状態に陥っていたのだ。
 いちいちなにか食べては命に感謝する人間など要るわけもないし、それと同じ……たかだが卵なんか食べてこんな考えはしたことはなかったのだが、いったいなぜなんだ?
 疑問も強いがそんなことよりもあまりのうまさに恍惚とした表情で私は蕩けてしまいそうだ。

 なんて美味しい卵焼きなのだろうってね。
 まぁ、天音のに比べたら……って、今は言っちゃいけない。

「おい、冥綾大丈夫か?」



 ……。




 ダメだ、思考がうまく働かなくて言葉にすらならない。
 寿司の1貫でここまで幸せになれるなどとは思ってもなかった……それも魚の寿司をじゃないものでだ。
 このオッサン何者だ、相当な熟練だぞ。

「そこの嬢ちゃんにはこの特製いなり寿司でも食わせておきな、気付けだぜ。」

 いなり寿司で気付けっておかしくないか?
 なんか変な成分でも入って……もがぁっ!?

 口にすごい衝撃が走った。
 まるでミサイルが突っ込んできた……は、言いすぎかもしれないが、例えがそんな感じとしか言えない。

「すまんな冥綾、許せ。」

「め、冥綾様ぁ!?」

 玄弥はボーッとしてる私の口にノーモーションでいなり寿司をねじ込んできたじゃないか。
 女性にこんな乱暴して良いと思ってるのか!?
 許せって言ってるけどなんか許したくないんだけど……いや、割りと本当に。

「ぷはーっ、何をするんだ玄弥!!」

「気付け。」

「ずいぶんと率直に言いますね……。」

「わぁっはっは、やはり若いのの茶番はこうでなくちゃな。 さて聖奈さまのオーダーはまだかえ? 品数はあまりないが目移りとはいかんぜぇ。」

 稲荷が口のなかに入ってきたやん……ってツッコミ入れたいけどなんかタブーなフレーズだからやめておくとしても、不自然なことに聖奈は何も頼んでないのに気が付いた。
 私は卵、そして玄弥は私が恍惚としてる間にマグロとかウニとか好き放題頼んでるというのに……やはり遠慮してるのかな? なんて伺えるほどにね。

「あっいえ、ではかっぱ巻きを2貫ほど……いただけますか?」

「ダメだぜ、寿司屋で魚類食わなくて何が寿司なんだぜぇええっ!!」

 聖奈のオドオドした言い様だとやっぱり無理してるっぽいのが感じ取れる、玄弥の財布にあまり負担をかけたくないとか……民の皆が飢えてるのに自分だけ贅沢をして良いのか、なんて葛藤が渦巻いてるのがスゴくわかる。
 逆にわかりすぎて隣に私座ってるものだからオーラで食欲ゴッソリ削られそうなんだが。
 あと、よく考えれば魚類は私もまだ1貫も食べてないが……それを言い出したら玄弥に何かまたツッコミ入れられそうだからここは茶々入れない方が賢明だろうね。

「オヤジィ、聖奈には特上寿司コース食わしてやってくれ。」

「はいよぉ、特上寿司コース一丁ぉおおぅっ!!」

 相変わらずなボリュームな事だ。
 狭苦しい寿司屋なんだからもう少し……まぁいいか。
 それにしてもこのいなり寿司も美味しいな、ぜひ主に食わしてやりたいがお持ち帰りはないんだろうか? あとで聞いてみるか。
 主はいなり寿司好きだからなぁ……なぜって? 出前でよく頼むからさ。
 まぁ大抵は具材が品切で入れて貰えないことが大半、主はいなり寿司に避けられる呪いを掛けられてるんじゃないかってほどに【いなり運】が悪い。















 さて待つこと数分……特上寿司コースが目の前にドーンと登場するがこれも度肝を抜くほど美しい、正直食べるのが勿体なくてためらうほど……これはまさしく芸術ってヤツじゃないか?
 ネタは新鮮で身が厚く食べ応えがありそうだ。

 全14貫の特上寿司コースはなんとお値段1万円とのこと。
 最上級のネタをこれでもかと言うほどに使った贅沢なお寿司のセット。

 見てわかるのは大トロとサーモン、ホタテにウニ……青魚系統と白身魚系統は全部同じにしか見えないから名前は割愛しておくよ。
 と言うか私も頼みたいんだがそれ、頼んで良い?

「いいぜ?」

 私のぶんも無事に注文ができて良かったが、玄弥曰く好きなものを好きなだけ食えって言ってるからわざわざ許可とらなくて良いって言われたのは、まぁその限りだけどさ。
 こんな高級なお寿司をおごりとは言えやはりズカズカと遠慮なくオーダーできるほど肝が座ってる私じゃないんでね。

 そうしているうちにまずは聖奈、目立つ大トロからいただくようだが……彼女のアホ毛も1本立ちするのだろうか、見ものだな。
 あとお上品な聖奈の事だから当たり前のように箸で食べるかと思ったらなんと【素手】ッ!!
 粋過ぎだろ……。
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